高周波熱処理の基礎知識 [k54]
このHPでは、主に品物の全体を加熱する一般熱処理を紹介していますが、高周波熱処理とは、高周波誘導加熱による熱処理の総称で、表面熱処理に分類される熱処理をいいます。
これには、高周波焼入れ、高周波焼戻し、高周波焼なましなどがあって、その中でも、焼入れ処理が最も多く熱処理加工が行われています。
表面熱処理に分類されます
鋼製の品物の表面に誘導コイルを置いて、そのコイルに高周波電流を流すと、品物の表面が急速加熱されます。
それを利用する方法が高周波熱処理ですが、全体を加熱するのではなく、鋼の表面だけが加熱されます。
冷却液を使って急冷する装置も持つものが多いので、高炭素鋼や高合金鋼よりも、むしろ、機械構造用鋼などの低合金鋼に優れています。
もちろん、誘導加熱を利用するため、非磁性の鋼(例えば、オーステナイト系ステンレスなど)は利用できませんし、ダイス鋼などの高合金鋼では思ったような特性が得られないことが多いようです。
使用する周波数や出力で品物を選ぶ必要があります
その周波数や硬化(加熱)深度によって、中周波・低周波などと分類され称される場合もあります。 しかしその分類や区分ははっきりしていません。
一般的には、使用周波数が低くなると、硬化層が深くなるので、「高周波焼入れの中で、硬化深さが深くなるような周波数になっている」という程度の意味合いと思っているのがいいでしょう。
また、品物の加熱能力もあるので、事前に打ち合わせをして確認するのが無難です。
高周波を発振させる装置は電動発電機(MG:0.5~10kHz・400kw)、真空管(0.02~1000kHz・1500kw)、サイリスタインバータ(0.2~10kH・4000kw)、トランジスタ式(各種あり0.05~1000kHz・~1200kw)などがあります。
硬化する深さは周波数で変わります
周波数が低く、出力が大きいほど加熱する深度が深くなりますが、概ねの硬化層は1mm~10mm程度で、50kHz300kw程度のもので加熱した場合は3mm程度の硬化層が得られますが、これも、鋼種、形状、熱処理方法などで変わリます。
急速短時間加熱なので、高合金鋼などでは、炭素量で見込まれる焼入れ硬さが得られない場合も多いので、比較的低炭素の低合金鋼の焼入れで威力を発揮する熱処理法と言えます。
通常は、焼入れ作業が主体のため、「高周波焼入れ」という言葉のほうが一般的です。
加熱は短時間
高周波電流を流すコイルを、焼入れしたい鋼材に近づけると、表面部が急速に加熱され、引き続いて連続的に冷却液をかけて焼入れ硬化します。
品物の内部(中心部・奥部)はそんなに高い温度にならないので硬化しません。
つまり、高周波焼入れをすることで、焼入れ後の表面の硬化によって、圧縮応力の分布により、硬さ、耐摩耗性、高い疲労強度などが生まれ、内部は硬化しないので、全体ではネバくて強いという特徴があることから、軸などの機械部品、自動車部品などへの利用用途は広汎です。
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高周波による「一発焼入れ」と「移動焼入れ」
焼入れの方法は大きく分けて、歯車の外周部全体を加熱して一気に焼き入れる方法などを「一発焼入れ」といい、リング状コイルで丸棒の外周や平面部分を移動しながら焼き入れる方法を「移動焼入れ」といいますが、それぞれの品物の焼入れ部位にあったコイルが必要になります。
高周波焼入れは、量産品には作業効率がいいものです。 しかし、新規品などでは、形状に合った適当なコイルがない場合は、その製作費などがかさむので、その費用負担が問題になることもあり、事前に熱処理内容や価格についての打ち合わせと見積もりを依頼するのがいいでしょう。
また、非常に速い加熱が行われるので、逆に、加熱温度を調節しながら加熱する必要があり、通電時間や送り速度などの調整次第で硬さむらなどの熱処理異常が生じやすいので、技術ノウハウも必要です。
また、仕上げ後の表面硬さを確保したい場合は、硬化深さなどについて事前に打ち合わせするとよいでしょう。
周波数を変えることで焼入れ深さを調節することが比較的簡単で、短時間で焼入れ処理が終了するのも高周波熱処理の大きな特徴です。
主に焼入れ性の高くない機械構造用鋼の処理に向いているために、機械構造用鋼に合わせた焼入れ冷却剤(水溶性の焼入れ剤)を使用している場合が多いので、逆に、低炭素鋼や高合金工具鋼などは十分に硬さが出ないなどの問題があるので、ともかく、事前に打ち合わせするとよいでしょう。
高周波加熱を、焼なましや焼戻しの処理に適用する場合もあります。
これは、温度監視と温度コントロールを自動化することによって実施されていますが、ほとんどで行われているのは高周波焼入れがメインで、高周波焼入れ後に品物全体を加熱炉に入れて焼戻しすることが広く行われています。
このために、焼入れ後の焼戻しの多くは200℃までの低温焼戻しが多く、電気炉などを用いて、品物の全体を加熱して焼戻しされます。
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