鋼の合金元素と熱処理 [k51]
鋼に含まれる鉄Feと炭素C以外で、鋼中に固溶するか、または、炭化物などの化合物を形成する元素を合金元素といいます。
これらの元素には、鋼の性質を高めるもの(CrやMnなど)以外に、鋼の特性を劣化させるもの(PやCuなど)があります。
また、合金元素は、意図して鋼中に加えられるものや、意図せずに、材料(フェロアロイや鉄スクラップなど)から勝手に鋼中に入ってしまうものがあります。
それらすべては、製鋼中に成分調整をして、決められた成分の鋼が作られます。
鋼の性質を向上させるために加えられるCr・Moなどの多くの合金元素はレアメタルに分類されるのです。
これらは、鉄鋼成分に加えると、強度や焼入れ性などを改善する目的があるのですが、合金元素の含有量は鋼の価格に影響しますし、多ければいいというものでもありません。
鉄鋼の成分は製鋼中に分析されて決定されています。 成分はミルシートで確認することができます。
ミルシートに書かれた「%値」はレードル分析値(鋼塊になる前の溶湯での分析値)で、重量%で表現されています。
ただ、鋼材ミルシートには、分析された合金元素のすべてが記載されていないということも知っておくといいでしょう。
また、P(リン)、S(硫黄)、Cu(銅)などの、鋼には好ましくないとされる元素の分析値が示されているものもあります。
PR合金元素が鋼に与える影響(一部)
合金元素を加えることで、何らかの特性向上があるものには、C Si Mn Ni Cr Mo W Vなどがあります。
これらの特性(長所)項目を見ると、工具鋼などでは、
1)焼入れ性が向上する: Mn Cr Niなど
2)耐摩耗性が向上する:Cr W Mo Vなど
3)耐食性・耐熱性が向上する:、Cr Ni W Moなど
4)じん性が向上する:Ni Cr Mo など
5)強さが向上する:Cr Mn Moなど
があります。
成分が違えば熱処理後の特性も違ってくる
鋼種の合金元素量は成分規格で定められますが、レアメタルで原料の価格が変動するので、鋼材の製造原価を下げるために、現在の製鋼技術では、高価な合金元素の使用量を減らす操作も可能になっています。
高価な合金元素であれば、例えば、Moが0.8-1.2%の成分範囲であれば、その中央値を狙って作られるのではなく、この場合は、現在の製鋼技術では、0.8の下限を狙って製造することも簡単にできます。
しかし、明らかに1.2%と0.8%では熱処理硬さや機械的性質が変わってきますので、厳密にみれば、同じ鋼種でも機械的性質に違いが出てくるかもしれません。
これは、鋼材価格の上昇を軽減する操作などとしては仕方がないところもありますが、実際には、焼入れ硬さが違ったり、同じ硬さでも変寸(伸び縮みの割合)が違ってきます。
このために、成分の違いが熱処理にも影響が出ることを経験しています。(それ以外の要因もあります)
もっとも鉄鋼の特性に影響の大きい元素は炭素(C)で、そんなに原料価格の影響がないのが救いです。
ミルシートを見ただけでは鋼材の機械的性質や特性を読み取ることは難しいことですが、機会があれば、興味をもって見ていると、いろいろなことがわかってきます。
何かの問題が生じたときに、その原因などを考えるヒントになることもあるので、ミルシート(コピーでもいい)が入手できるのなら、一通り目を通す習慣をつけておきましょう。
(来歴)R2.3 見直し R2.4 CSS変更 R7.8月見直し













