硬化深さ (こうかふかさ) [k49]
熱処理などで硬化した表面からの深さ・距離を言います。
高周波焼入れなどの表面熱処理については、JISに 有効硬化深さ、全硬化層深さ、最小表面硬さ、有効硬化層の限界硬さなどが定められています。
有効硬化深さ : 鋼材表面から、限界硬さの位置までの距離
全硬化層深さ : 焼入れ前の鋼材硬さまでの表面からの距離
最少表面硬さ : 要求した表面硬さの最低値
(たとえば、「60HRC以上」と指定したときは60HRC)
有効硬化層の限界硬さ : 最少表面硬さ×0.8(上記の例では48HRC)
という定義です。
通常は熱処理状態での表面が基準になっています。そのために、仕上げ加工をした表面の硬さが必要な場合は、それについて推定しておく必要があります。
しばしばトラブルの原因になる点もありますので、少し説明します。
これは、高周波焼入れの場合の断面硬さ推移を示した模式図です。
高周波の周波数を低くして焼入れすると最高硬さは若干低下傾向になりますが、硬化深さは大きくなる傾向があります。(ここでは馴染みのあるHRCで表示をしていますが、断面硬さ推移を見る場合は、比較的軽荷重のビッカース硬さが多く用いられます)
上記の硬化深さについて、青い線で言えば、全硬化深さは母材硬さまでの距離ですので、約4mm程度です。
有効硬化層の限界硬さは、表面硬さは65HRCとすると、65x0.8で、52HRCですので、その点の距離を読むと、有効硬化深さは2.3mm程度になります。
ここで注意する点は、例えば、表面から2mmの点では、58HRC程度の硬さになっている点と、その深さでは硬さが急激に低下している部分ですので、例えば、研削加工した外周面をロックウェル硬さで測定すると、58以下の硬さになってしまう可能性が高いと考えておかなければなりません。
さらに注意しなければならない点は、製品を測定する場合は上図のような断面硬さではなく、シャフトであれば、外周の表面硬さを測定するので、硬さの測定方法によっても硬さ値は変わってしまので気を付ける必要があります。
PRこのように、一般的に、熱処理後の硬さは、内部に行くほど低下しますので、仕上げ加工した時の表面の硬さが指定した通りに確保できているかどうかについては、熱処理時点では保証がはできないのです。
これについては、高周波熱処理ではない全体焼入れ焼戻しをする場合も同様で、内部の硬さはどうなっているのかが不明です。
全体焼入れでは硬さの変化が滑らかですが、表面焼入れの場合は、硬さ変化の大きいので、この点についても注意が必要です。
「硬さ=応力」・・・と考えることができます。
浸炭焼入れや高周波焼入れのような表面焼入れの場合は、表面に強い圧縮応力が加わっており、それが耐疲労性の向上に寄与していますが、硬化範囲(深さ)が小さくて内部の硬さが急変しているので、熱処理後に焼入れ部分を仕上げ加工すると、予想した以上に硬さ低下が生じる場合があります。
製品に仕上がった時に、「要求した硬さになっていない」「剥離した」「急に曲がり(変形)が生じた」・・・などは硬化深さに起因するものもあり、予期しない不具合が出ることもあります。
無理な内部硬さを要求しても、高周波の能力や鋼材の特性があって、要求に答えるのも無理な場合がでてきます。
下図のジョミニ試験の例のように、少し焼戻し温度を上げることで均一な硬さになる傾向があるので、高い硬さを要求しないで、鋼材の熱処理特性を利用する方法などを検討するといいでしょう。
また、特に高周波焼入れでの初回品(や単発品)では、熱処理する前に仕上げ加工後の表面硬さを保証するのは難しい場合が多く、推定の硬さ予測をして焼入れすることも多いのですが、事前に仕上げ代や変形量などを含めて加工業者と打合せすることで予想される問題に事前に予防することも大切です。
この場合も、鋼材成分などによる変動要素があるので、重要な品物では予備試験(焼入れテスト)などを考えなくてはなりません。
これは、SCM435のジョミニ試験片を焼き戻しした時の硬さ推移です。
この図のように、焼戻し温度を高くしていけば、高い硬さの部分から低下していきます。
高周波焼入れで、無理な硬さを要求して十分な焼戻しをしないで製品化するよりも、最低でも200℃程度の焼戻しをして硬さの均一化を図ることを考えておくといいでしょう。
これは、SCM435を全体焼入れしたときの断面硬さの測定例(JISの付表より引用)です。
このように、同じ鋼種であっても、鋼材成分などの影響もあって、広範囲な硬さになっている例ですが、高周波焼入れにおいても、このような硬さのばらつきは当然あるので、初回品で、かつ、単発品では、厳密な硬さを要求するのは無理な場合も出てきます。
このために、高い硬さと硬化深さが必要な場合は、事前の打ち合わせが欠かせません。
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