経年変化 について [k40]
室温で品物を放置しておく場合でも、長期間経過すると寸法や形状が変化することを「経年変化」や「時効変形」といわれます。
昭和年代のことですが、鋳物製品などを作った場合に、半年から1年以上の期間を野ざらし状態にして、内部応力による変形をさせてから、その後に仕上げ加工を行うということで機械製品の精度を保つ方法がとられていました。
これを鋳物の「枯らし」というのですが、近年では、納期短縮の要請もあって、時間をかけずに温度を操作する熱処理によって代用するようになってきています。
経年変化による変形を防ぐために、安定化処理、時効処理、サブゼロ処理などが行われます。鋳物では、最も一般的な熱処理操作は「低温焼なまし」処理をすることが多く行われますが、後でも触れますが、変形が軽減するのですが、皆無にすることは難しいことです。
鋼の場合でも、熱処理をした品物は時間が経過すると寸法形状などが変化する場合が多々あリます。
その原因は多岐にわたりますが、時間的な応力の作用によるもの、時間をかけて焼戻しが進行していくこと、残留オーステナイトの分解による組織変化によるもの … などがあげられます。
【応力の開放】
鋼を焼入れして硬さが変化するということは、言い換えれば内部応力が増加している状態になっています。 その応力が長時間品物各部にかかるので、それによって変形が生じることが考えられます。
【焼戻し効果の影響】
一般に、焼入れした鋼は焼戻し温度に伴う硬さ変化とともに寸法も変化します。
それは「温度(定数+log時間)」のように温度と時間の関数であらわした焼戻しパラメータで表されることもあります。
つまり、この場合は、時間による変化は対数としてlogであらわした時間で作用するので、温度の影響に比べて時間的な要素は非常に少ないものですが、これが非常に長時間になれば硬さの低下などが生じて、組織の変化から寸法が変化することになリます。
私の経験では、最高硬さに熱処理したマルエージング鋼が、数年の年月を経て、寸法が変化したこという経験があります。
機械部品を使用する工場では室温や部品温度が50℃を超えることも多く、その状態が10年程度経過すると、100mm長さのスリーブが0.005mm収縮する現象が見られました。
その時には、焼戻しパラメータを使って寸法変化を推定したところ、室温程度の低い温度でも焼戻しが進んでいて、過時効現象が起こっていたようなのですが、超高精度の機械部品でも、長期間が経過ずると、寸法変化が起きてしまうことは頭に入れておくといいでしょう。
【残留オーステナイトの影響】
冷間工具鋼のSKD11などでは、焼入れ時に20%以上の残留オーステナイトがあり、それがあれば、それは不安定な組織のために、時間とともにマルテンサイトやその他の組織に変化するので、このために経年変化が生じる可能性が高いと言えます。
一般的な時効変形の対策
焼入れする工具鋼などの経年変化を少なくする対策としては、①焼入れ時の残留オーステナイトを少なくする ②サブゼロ処理、高温焼戻しでそれを少なくしたり無くす ③充分な焼戻しをする … などの対策が考えられます。
しかし、前にも上げましたが、本来、熱処理して高硬さにするのは内部の応力を高めることであり、残留オーステナイトなどの不安定な組織は完全に除去することも難しいので、完全に経年変化をなくすのは困難であるといえます。
SKD11などの高合金鋼は焼入れ時の残留オーステナイトが多いので、精密なゲージ類にはしばしば、SKS3をサブゼロして使用されることも多いのですが、このSKS3は、経年変化しないというのではなく、経年変化が少ないという理由でこの鋼種を用いて、さらにサブゼロ処理をするなどの変形対策をしているのが一般的です。
このサブゼロ処理については、しばしば、サブゼロをすると残留オーステナイトが無くなる・・・という説明をされる場合が多いのですが、焼入れした鋼の残留オーステナイトを完全になくすることは、並大抵ではありません。
SKD11や8%Cr系工具鋼で、液化炭酸ガス温度(-80℃程度)を用いたサブゼロしても、それを少なくすることはできますが、完全になくすることは難しいと言えます。
もちろん、-180℃程度のクライオ処理をしても、10%以下にはなりますが、同様にゼロにすることはできません。
サブゼロによって残留オーステナイトを完全に無くすることは無理といってもよいほどで、残留オーステナイトは、560℃以上の高温焼戻しをしない限りはなくなりません。 高温の焼戻しをすれば、硬さ低下で問題になる場合も出てきますので注意しましょう。
高速度鋼(ハイス)などは、500-550℃の焼戻しで高い硬さが出るために、通常はその高い温度で焼戻しして使用されますが、550℃では残留オーステナイトが分解していない場合があります。
この温度では、完全に残留オーステナイトが分解されているかどうかは微妙ですし、また、経年変化の原因は残留オーステナイトだけではなく、内部応力の影響もあって、完全に経年変化をなくすことは難しいものです。
このような500℃以上の高温焼戻しは、250℃以下の低温焼戻しの比べて、その経年変化を防止する効果は高いのは間違いありませんが、完全になくすることはできません。
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