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空冷 (くうれい)      [k35]

熱処理の過程で、加熱後に空気中で放冷することを空冷するといいます。 その他の冷却には、水で冷やす「水冷」、油で冷やす「油冷」などがあります。

空冷では、扇風機(ファン)を用いて冷却速度を早めたり、早く冷却する場合も多く、これは、「ファン空冷」や「衝風(しょうふう)空冷」などと区別される場合もあります。

焼入れの場合は「空気焼入れ」と呼ばれます。

非常に焼入れ性の良い鋼の場合には、空冷することで急冷による変形を少なくなるために、このような遅い冷却をしますが、もちろん、焼入れ性の良い鋼は、空冷によっても充分に硬化します。

「焼ならし(焼準)」の場合も空冷による冷却をします。

焼ならしは、鋼の表面と内部の組織を均一化させるために、あえて急速な冷却をしない・・・というための操作ですが、もしも、硬さを調整する必要があれば、風速を変えるなどの冷却操作をします。

しかし、非常に焼入れ性の良い鋼に限らず、少し大きな品物になると、焼入れの冷却が遅くなって、充分な硬さが出ない場合があるので、もしも、表面の硬さが必要なものについては、「空冷」を指定される鋼であっても、油冷や強撹拌するなどで急速な冷却をする場合もでてきます。

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指定の冷却方法によって、硬さが十分に出ている空冷鋼であっても、品物が大きくなると冷却速度が低下して、組織変化によるじん性の低下等が顕著になる場合もありますので、「空気焼入れ鋼は空冷する」・・・というように画一的に考えないで、臨機応変に熱処理しないといけません。

DC11の衝撃特性例DC11の引張特性例

(大同特殊鋼DC11のカタログから引用)

  

焼戻し時の冷却については、普通は空冷でいいのですが、構造用合金鋼では、冷却が遅いと「ぜい性の問題」が出ることもあって、構造用合金鋼では、350℃前後を早く冷やすことが求められているものがあります。そのために、JISなどの標準熱処理では焼戻し時の冷却は「急冷」と言う表現になっているものがあります。

この「急冷」は「空冷」ではいけないということですが、その方法についての詳細は規定がないし、「急冷しないとどのようになるのか・・・」ということも詳しくはわかりません。

構造用鋼の標準熱処理や「鋼のぜい性」については1970年以前に研究されたもので、その脆化する原因は、どうも、化学成分の影響による可能性が高い・・・との内容のようでしたが、その当時の鋼材に比べると、現在の鋼材は脱ガス技術や連続鋳造などの技術によって、飛躍的に清浄度や均一性などが向上していますので、そうなると、近年の正常化された鋼では、急冷の必要性はあまり関係ない感じもしますが、ここでは、JISが変わっていない限りは、それに従うのがいい・・・ということにしておきます。

工具鋼では、必要な硬さなどに応じて焼入れ時の冷却方法を変えるのですが、焼戻し時の冷却は通常は空冷です。

工具鋼では、複雑な形状のものなどがあり、変形や割れに対応する理由から、あえて急冷はしないのですが、このような研究結果などもほとんどみたことはありません。

私自身は、(系統的ではありませんが) 焼入れ性の良い工具鋼をつかって、焼入れ時や焼戻し時の冷却についていろいろな実験をしたことがありますが、結構、残留オーステナイトの影響や残留応力の影響で面白い実験結果がでてきたのですが、じっくりと研究すればまだまだ熱処理の違いによって、潜んでいる特性が見つかるかもしれません。

ここでは書きませんが、標準熱処理だけにこだわっているのではなく、鋼や鋼の熱処理については、まだまだわからない性質が潜んでいる可能性もあります。

通常の製品の熱処理の場合では、教科書通りに行こなわない(または、行えない)ことも多く、(特性が向上するかどうかは別にして)特性の向上策はいろいろあるかもしれないので、研究されると面白そうな結果がでてきそうなのですが、現在はそれを研究している人も少ないのか、熱処理の改善や見直しなどはほとんど行われていない感じです。

ここでは、工具鋼における焼入れで、標準熱処理が「空冷」となっていても、実際の熱処理作業では、空冷ではなく油冷する・・・と例があることも知っておいてください。

熱処理の全てが理論的に確立された考え方で行われているというものでないので、「工具鋼の焼戻しは空冷」というのは、経験的に不具合を避けるために行われているものかもしれませんし、先の機械構造用鋼における焼戻し脆性域を回避するための「急冷」についても、実際の作業では、大きな品物を急冷して、変形や割れのトラブルを起こさないように、急冷しないで空冷をする場合も多いのです。


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