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旧JISの硬さ (きゅうじすのかたさ)[k25]

(注:これは慣用的に用いられる言い方(用語)についての説明です)

現在のJIS規格には掲載されていませんが、過去の鉄鋼JIS規格には、構造用鋼などについて、標準熱処理をした場合の機械試験値や硬さが掲載されていて、その硬さ(硬さ範囲の値)を「JIS硬さ」と呼ばれていました。

これは、小さな試験片を用いて、JISに示された標準的な熱処理を行うと、このひょうのような機械的性質(の試験結果)になるという参考値ですが、この数値は、しばしば、熱処理を依頼する場合の硬さ値に使われることが多くありました。

構造用鋼の機械的性質例

この表の右端の硬さ表記がそれで、現在、JISの規格表にはこの表は含まれておらず、ときたま、書籍などに引用されている程度です。

非常に便利なものですが、現在のJISハンドブックを見ても、JIS(鉄鋼)などには見られませんし、JISの熱処理編にも、抜粋しか掲載されていません。

このために、「JIS」に掲載されていないために「旧JIS」というような言い方をするのですが、現在でもこの表中の硬さを「JIS硬さ」という人もいるくらい、一つの指定の硬さの基準値として、脈々として引き継がれてこの硬さ値が残っています。


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JIS規格を集めた古い版のハンドブックの鉄鋼や熱処理編には、機械構造用鋼(S-C材、SCM材など)の、標準熱処理条件で熱処理(焼なまし・焼ならし・焼入れ焼戻し)した時の機械的性質(引張試験・シャルピー試験の値)と「ブリネル硬さ範囲」などが掲載されていました。

少し前までは、JISハンドブックの一部に「参考」項目として、JIS解説部分などに掲載されている場合もありました。

しかし、それが掲載されなくなってからも、それに変わるデータもないこともあって、熱処理現場などでは、有用なデータとして使用されて今日に至っています。

この数値は、小さな試験片を用いて製作されたデータであるので、特に、焼入れ性の高くない構造用鋼では、実際の(大きな)品物を熱処理した場合の数値が乖離してしまうので、これを使用して混乱や間違いがおこらないように・・・という理由で掲載されなくなったところもあるのかもしれませんが、それに変わる熱処理データもないので、これが掲載されなくなって少し残念です。

S40Cの熱処理特性例S45Cの特性例

これらは大同特殊鋼さんのハンドブックから引用したものです。これと同様のデータがJISハンドブックに掲載されていました。(大同特殊鋼さんは、さすがに素晴らしい材料メーカーで、これらのデータを主導して作成していた会社なので胸を張って掲載できるのでしょう。掲載されていることを大変ありがたく思っています)


JIS硬さは・・・

昭和年代末期まではこの古いJIS規格値は、構造用鋼の全てにわたって掲載されており、たとえば、焼入れ焼戻し(調質)した時のブリネル硬さは「S45C 201~269HB」「SCM435 269~321HB」などのように、鋼種ごとに標準熱処理をした時の参考的な硬さ値などを当時(昭和40年代)から「JIS硬さ」という呼び方がされていました。

特に要求硬さが示されなくても、これが標準的な硬さ(硬さ範囲)として用いられていましたし、それで大きな問題も起こっていなかったということで、「良き時代」だったのかもしれません。

もちろん、「調質」と言えども、機械構造用鋼のほとんどは質量効果によって中心と表面の硬さや組織などは異なるので、そこに示された機械的性質と熱処理をした品物の値とは同等にならないのですが、この硬さ値は一つの標準的な取引指標(硬さ指標)になっていたことは確かです。

一般的だったその「硬さの目安」が、JISハンドブックなどに掲載されなくなったことや、JIS工場などでは、その表示許可工場ごとに品質標準を作ることを要求されるようになって、ここに表示されている硬さのとらえ方も変わってきたのですが、この「旧JIS硬さ」は、消えることなく、現在でも、熱処理硬さを決める一つの目安にするのが便利なので、その値が脈々と残っているのが実情です。

そこでこれを「JIS硬さ」というのはJISの趣旨に反するので、慣用的にその硬さを要求された場合に「旧JISの硬さ」と表現されているだけのことです。

  

しかし、知っておかなければならないこともあります。例えば、JISに表示されたこれらの試験データは、φ15程度以下の小さな丸棒の試験値が多いために、それより大きな品物では、表に書かれた硬さにしようとすると、焼戻し温度を下げて硬さを合わせなければなリます。

また、そうすると、品物の表面がその硬さであっても、内部に行くと硬さが低下しているので、たとえば調質(高温に焼戻しをして、機械的性質を平滑化する)の目的ですので、その考え方から逸脱するので、「これは問題がある」ということになったのでしょうか、そういう問題もあって、JISのハンドブックなどから消えていったのでしょう。

しかし、それは本末転倒で、それらの問題事項をしっかり補足したり、正しい考え方を示してそれをレクチャーすべきなのですが、それをしないでJISから消したのはおかしいと思っています。

もちろん、JISハンドブックに掲載しなければならない(使う側の役に立たない)規定規格が増えてこともあって、補足ページや解説ページが割愛されてきた経緯があるのはわかります。

でも、過去から、JISハンドブックを優秀な教科書のように使ってきた熱処理従事者としては、年追うごとに無味乾燥の規格の文言のみになる傾向になってしまったJISハンドブックは、高価な割には内容のないものになってしまった感じがします。

JIS工場やISOの認証工場などでは、最新版を使用することを要求されますので、仕方なく購入している状態ですが、鉄鋼、熱処理のJIS規格の中身も大した見直しもされていないこともあって、ハンドブックを見てもJIS規格を見ても、全く面白味がなくなってしまいました。(小文字の部分は、筆者の小言です)


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