雰囲気熱処理と真空熱処理について [h31]
大気中で加熱する熱処理は、ここでいう大気雰囲気でない場合と比較するために「大気熱処理」という場合があります。 つまり、目的に沿って炉内の加熱雰囲気を調節して行う熱処理を、大気加熱と区別して雰囲気熱処理という言い方をします。
雰囲気は加熱する炉内の加熱環境のことです。
鋼の熱処理では、大気中で加熱すれば、酸化に伴う表面の劣化が起きるので、それを防いだり、金属光沢のある光輝状態を保ったり、鋼の表面の状態を変えるなどの目的で、近年では、ガスなどを用いて雰囲気を変える熱処理が一般的になってきました。
用いられるガスは、窒素・アルゴンガスなどの不活性ガス、水素の還元性ガスを用いるほか、酸化性、浸炭性、窒化性などの目的に合った雰囲気ガスが雰囲気の調整に用いられます。
真空状態も雰囲気の一つで、一般熱処理では、鋼の酸化を防いで光輝性を保つために、炉内を脱気した状態で加熱をする「真空炉」が主流になってきています。
つまり、通常の大気熱処理よりも高級な熱処理と位置付けられています。
写真:第一鋼業(株)
一般熱処理では高温で加熱中に品物の酸化が生じると、脱炭も同時に生じることが多く、そのために、大気雰囲気で焼入れすると表面硬さが十分に出なかったり、焼割れの原因になる場合があります。
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そこで、窒素ガスなどで大気を置換して酸素を駆逐したり、脱気して真空状態に近づけることで酸素濃度が非常に低い状態で加熱する熱処理が行われるのですが、これらを総称して「無酸化熱処理」ということもあります。
この無酸化熱処理には、ソルトバスによる熱処理も含まれます。
塩浴に品物を入れると、ソルトによって鋼の表面が空気から遮断されて酸化や脱炭を防ぐことができます。
ただ、よく勘違いされていることは、熱処理をすると、全く熱処理前の外観が維持されることはなく、いずれの雰囲気熱処理でも無酸化熱処理でも、熱処理前と同様の肌で仕上がることはないことを知っておかないといけません。 あくまでも、大気加熱ほどの表面の変質は起きないというものです。
工具鋼の熱処理などでは「真空炉」を用いることが主流になりました
熱処理用の真空炉の多くは、脱気した状態で加熱し、焼入れ時の急速な冷却に窒素ガスを用いて酸化や脱炭を防ぐのですが、完全な高真空状態で加熱するのではなく、加熱中に少量の窒素ガスを炉内に流すなどで、対流による加熱促進や均熱性向上を図るなど、仕上がりの外観や経済性などっを勘案したものになるように変遷してきています。
もちろん、冷却を速めるために、油冷装置や塩浴を用いたものもありますが、これらも、完全真空状態で加熱するのではなく、減圧されて酸素を除去するための加熱ですが、これらのいずれも、脱気しているものは、通常は、雰囲気炉とは言わないで、「真空炉」とよばれています。
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