不完全焼入れ (ふかんぜんやきいれ) [h22]

「完全焼入れ」に対応するいい方です。

これは、鋼を焼入れした後に、表面各部位や表面と内部で硬さや組織に差があるものを指す場合が多いのですが、当然、品物の大きさによっても、鋼種ごとの成分の違いによっても、得られる硬さ値は同じにはなりません。

このような材質や品物の大きさによる影響は、正しい方法で焼入れしたとしても解消することはなく、必然的に、不完全焼入れ状態は生じます。

だから、不完全焼入れが良いとか悪いという意味合いのものではないことに注意する必要がるとともに、この用語は、あいまいな表現の言葉でもあるので、誤解のないように用いる必要があるでしょう。


亜共析鋼の例 S45c焼入れ組織

左はS45Cの焼なまし状態の顕微鏡組織で、黒っぽく見える部分は共析のパーライトで、白い部分がフェライトと呼ばれる部分です。

右はごく小さな品物(SK85相当材)を水焼入れした後に焼戻ししてソルバイトという状態になっている状態です。

左のS45Cは、いくら小さな品物でも、右のような完全焼入れ状態にすることは難しいし、また、SK85でも、少し品物が大きくなると、このような組織(完全焼入れ状態の組織)は得られません。

S45Cを水焼入れする場合でも、50mm角程度の品物になると、中心付近ではフェライトが析出する状態になって、表面部分より硬さが低下しています。

そして、硬さ低下した部分は「不完全焼入れ組織」になっていますが、これは仕方がないもので、それが問題となるかどうかは別の問題になります。

しかし、水焼入れの際に十分な撹拌をしなかったり、冷却性能の低下した焼入れ油を用いたことで十分な焼入れ硬さが出ていない場合は「不完全焼入れ」と表現してもいいでしょう。

SK材のような高炭素鋼であっても同じで、少し品物が大きくなると、材料の特性から完全な焼入れ組織は得られませんし、さらに言えば、非常に焼入れ性の良い高合金工具鋼のSKD11でも、品物が大きくなると、各部の硬さに違いが生じるのはさけられません。

例えば、φ100x1000mmの品物を空冷で焼入れすると全表面が63HRC程度の同じ硬さになるのですが、中心部は冷却が遅いので、58HRC程度の硬さになっているという状態ですし、φ300x1000の品物になると、角部とその他の表面部は、硬さが異なってきます。

このように、「不完全焼入れ」は「完全焼入れ」に対応する言い方ですが、言葉のニュアンスから「それは良くない焼入れの仕方」という意味に取らないようにしなければなりません。



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