表面硬さ(ひょうめんかたさ)と内部硬さ [h21]
熱処理した品物の硬さを確認する場合は、通常は品物の表面の硬さを測定します。
つまり、金属の表面を硬さ計で測定した硬さで熱処理した状態の品質を評価していますが、鋼の熱処理後の特性は、鋼種によって、品物の表面と内部でも、表面中央部と隅角部でも異なっている場合もあります。
そして、何よりも、通常の熱処理検査で硬さを測定できる個所は限定されていますし、さらに、表面部分の硬さ測定になるのが普通です。
もちろん、内部の硬さの測定は、品物を破壊しないと内部の硬さは測定できません。
そのために、あえて「表面硬さ」という言い方をする場合がありますが、品物を切断した面を測定するばあいは表面硬さに対して、「断面硬さ」「内部硬さ」といいます。
通常の硬さ検査は「表面硬さ」を測定する
ここでは、熱処理で測定される「硬さ」とはどのようなものなのかを説明します。
熱処理品の硬さ検査においては、特に断りがなければ「硬さ試験機で測定できる部位を測定する」ことになります。
つまり、品物を切断するなどをしないと内部の硬さはわかりませんし、表面硬さ以外の硬さは、特別な依頼がない限り、測定することはまれです。
熱処理した品物の場合は、どの部分でも硬さ測定ができるものではなく、写真のように硬さ測定用の荷重が鉛直に加わる必要があるので、品物が測定用アンビル(検査台)に安定する平行面で、さらに、偏荷重が加わらないように、重心位置付近の場所に限定されます。
極端に言えば、刃物の刃先を測定することなどは、通常の検査ではできません。
また、例えば、熱処理後の硬さ指定を60~62HRCとした場合は、測定部分の硬さが60~62HRCの範囲にあることが検査(硬さ試験)によって確認されているのであって、品物全体がその硬さになっているということではないことを理解しておく必要があリます。
特に焼入れ性の低い鋼種などでは、各部の硬さが異なっています。 測定した位置の硬さが、他の場所に比べて、高い場合も低い場合もあるということになります。
上の例でいえば、検査位置の硬さが60HRCであるとしても、品物のコーナー部分は62HRCや58HRCの場合もありうるということになります。
通常は熱処理した品物の硬さが欲しい部分で測定するべきですが、硬さ試験機の特性などから、それができない場合が多いのです。
つまり、その測定された硬さが、品物全体の特性を決めているということではないことを理解しておく必要があります。
特に鋼種の持つ「焼入れ性」が低い場合には、品物の表面硬さが大きくばらついているのは、通例ですし、その上に、測定位置が限定されているので、検査で保証できる硬さ値は、その測定部分のものだけで、それ以外はわからない・・・ということで、本来ならば、そのことを知って、熱処理の仕様を決めるのが正しいのですが、現実的には、機械設計者でも、それを理解するのは難しいのが現状です。
その設計値と現実の値の乖離を防ぐには、設計段階で検討しておく必要がありますが、それは大変なことですので、熱処理の専門家に相談されることも役に立つに違いありません。
熱処理後に仕上げ加工してから、削り込んだ内部の硬さを測定すると、指定範囲に入っていない・・・という問題が起きる場合もあります。
熱処理する作業者は、経験的に鋼種と品物の形状で検査位置や硬さのばらつき程度は把握していますので、わかりにくいことがあれば、事前に相談するといいでしょう。
熱処理専業会社では、熱処理後のトラブルを防ぐために、いろいろなことを事前に取り決めすることになっていますが、実際には、ほとんど、個別に取り決めすることがないし、硬さによるトラブルもほとんどないのですが、これらを事前に協議して決めるには、依頼者と受け手側双方ともにかなりの知識と経験、技術力が必要になるということもあり、突き詰めていくと、難しい問題がでてくるのは避けられません。
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