ハイス [h04]
高速度工具鋼鋼材のことです。元は、「ハイス」という言い方は、High Speed Steel を縮めて簡略化した業界用語でしたが、今日ではこの「ハイス」という呼び方は一般的になっています。
近年は、粉末ハイスやセミハイスと呼ばれる新しい分類の呼び方も加わっています。
モリブデン系とタングステン系
高速度工具鋼は高炭素高合金の鋼材で、古くはSKH2に代表されるタングステン(W)系とSKH51(古くはSKH9)に代表されるモリブデン(Mo)系に分類されていました。
モリブデン系と呼ばれるものは、タングステンが高価で、融点が高いので、その含有量が多いと高い焼入れ温度になることから、それに変わって、1/2の量で同等の効果があるモリブデンMoに置き換えられて広がってきたという経緯があリます。
それもあって、1/2のMo合金量で高温強度などがWと同等になり、鋼材価格も安くて熱処理しやすいモリブデン系ハイスに置き換わってきました。
新しいハイス
新しく開発されるハイスは、用途的にみて、「高耐摩耗性を求める鋼種」と「高硬さで靱性を求める鋼種」に分かれてきた傾向があります。
高耐摩耗性を求める鋼種は、高炭素高合金の成分設計によって、特に、硬い炭化物を持った鋼種で、高い硬さや耐摩耗性を求めるタイプが開発され、その中でも非常に硬いバナジウム炭化物を含むV系(バナジウム系)と呼ばれる鋼種や、70HRC以上の高硬さの出る鋼種なども開発されて販売されています。
高合金高炭素になれば、溶湯を鋳込んで鋼塊にする従来の製鋼法では偏析が大きくなりすぎて製造できないために、溶湯からハイスの粉末にしたものを固めて鋼塊を作る方法によって新しいタイプの鋼種が「粉末ハイス」です。
この粉末ハイスに対して従来のものを「溶製(ようせい)ハイス」という呼び方をされることもあります。
もう一方の、じん性を求める鋼種は、低炭素で炭化物量を少なくする反面、マトリクス(素地)のじん性を高めて、56-62HRC程度の硬さにおいて、従来のダイス鋼にはなかった強さや高温特性をもたせたもので、これは「マトリックスハイス」「セミハイス」と呼ばれます。
このタイプは、0.7%程度以下と、一般的なハイスに比べて、若干低い炭素量にして、マトリックス中にじん性を妨げる大きな炭化物を作らないように成分調整されて鋼種で、マトリックス系(=セミハイス系)と分類される場合もあります。
PR粉末ハイス
さらに、平成年代に入った頃から、粉末ハイスが市場に出てきました。
これは、一度ハイスの微粉末をつくって、それをふたたび固めて通常の鋼材にする方法によって、今までの製造方法では製品化できなかった高合金成分系のものや、鋼塊を凝固させるときの偏析などがないことから、高じん性であるという特徴のある鋼種などが作り出されています。
これらの粉末技術を用いて作られた鋼種は高価ですが、従来の製造法で作れなかったような鋼種がたくさん製造されて販売されています。
粉末ハイスは高合金であっても、溶性ハイスに比べて均質性に優れるために、安定した寿命が得られると評価される一方で、炭化物が微細に分布しているために、耐摩耗性が劣ると言う評価もあります。
用途によって、このようなことも評価を受けるので、うまく鋼種を選ぶということも大切です。
ハイスの熱処理
一般的に言えば、ハイスの焼入れ時には、炭化物をオーステナイトに溶かしこむために高温に加熱する必要がありますが、加熱時間が長くなると結晶粒が粗大化して品質が劣化しますので、熱処理は十分管理された状態で行う必要があり、合金工具鋼などとは違った高温短時間の熱処理方法で熱処理されます。特に、鋼種に応じた推奨熱処理条件を守って熱処理することが重要です。
高速度鋼は高温での熱処理が必要なために、古くからソルトバスを使った熱処理が主流でしたが、今日では真空炉の性能が良くなったために、光輝状態で仕上がる真空炉で熱処理されるものが主流になっています。
しかし、工具寿命に面でソルト熱処理のほうが優れているという評価をする方もいるので、ソルトバスを用いた熱処理が急になくなるという状況ではありません。
両者の熱処理方法の違いでは、ソルトバスでは、目標硬さに対して焼戻し温度を一定にして焼入れ温度を変えるという考え方で熱処理される傾向がありますが、それに対して、真空炉による熱処理では、焼入れ温度を基準にして焼戻し温度で硬さを決める傾向が強いようです。
これは主に真空炉操業の効率性によるものでもありますが、鋼種、性能面から考えても、それぞれに一長一短があることから、仕上がりの面の優劣だけではなく、寿命を比較してみるのがよいでしょう。
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