この熱処理について教えて下さい 熱処理の疑問を解消

SUS304の溶接で起きる問題

ステンレス鋼の SUS304 を溶接や肉盛りをすると、大きな変形が生じたり、着色してしまって、どうにかしたい・・・ということがありませんか。

ただ、結論的には、後工程で仕上げ加工をしない、すでに仕上がった製品では、確実でうまくいく方法がありません。

①溶接部分の応力除去の方法 ②溶接部の着色部を目立たないようにする方法・・・について考えてみましょう。

ステンレスの溶接部分 溶接部分の熱影響

溶接部分は、組織が変わっています

一般的に、SUS304の溶接には、「308」とよばれる、0.05C-2Mn-10Ni-20Cr の成分のものや、同成分の低炭素の308L という溶接棒が使われます。

SUS304の成分は 0.05C-1Mn-8Ni-19Cr ですので、さらに、オーステナイト状態を安定にする Mn、Ni、Cr の多い成分の溶接棒を用いることで、溶接部のオーステナイト状態を維持できるようにしているのですが、溶接は、溶接棒と品物の成分を融合させて、接合や肉盛りをする処理ですので、アセチレンガス溶接でも、アーク溶接でも、1500℃以上の高温状態で、その双方がいったん溶融した後に凝固して、その後は、空冷状態で常温まで冷却されますから、溶接部分やその周辺の溶融部分は、結晶粒が増大していますし、母材とは違った成分や組織になっており、さらに、熱による膨張収縮が加わって、変形することは避けられません。

熟練者は、ハンマリングで、操作して溶接をしますが、鍛錬とは違って、加工の程度が小さいので、どうしても、溶接前の鋼材のようにはなりませんし、TIG溶接などの熱の波及が少ない溶接法でも、同様の変質や着色は生じます。

SUS304の市販鋼材は、溶体化処理された、耐食性が高い状態になっていますが、溶接によって、溶接部分の耐食性は低下しています。 

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このことから、SUS304を溶接して、その溶接部分の性能を劣化させないようにするのは技術的にも難しいことで、そのために、高価ですが、低炭素で、もっと安定したオーステナイト状態の成分の溶接棒をつかうことも多いのですが、それでも、溶接部分の耐食性の低下はあります。

とくに SUS304 自体が、オーステナイトの安定性はそんなに高くないので、基本的には溶接には不向きな鋼種ですが、比較的安価で使いやすい汎用鋼ですので、いろんな用途で溶接されて使用されています。

錆びにくいのがステンレス鋼の特徴ですが、SUS304は、準安定オーステナイト系ステンレス鋼と言われるように、熱や強度の加工を加えると、簡単に耐食性などの特徴が失われてしまうので、通常の鋼よりは酸化しにくいものの、やはり、高温状態で空気に触れると着色します。

低温用途に用いられる品物などの重要部品では、オーステナイト安定性の高いSUS304L、SUS316L,SUS310Sなどの鋼種を用いると、若干着色は少ないものの、着色しないように溶接するのは困難ですし、それらの鋼種は高価で、入手しにくいこともあって、一般の品物では、SUS304がよく使われています。

ここでは、SUS304の溶接において、完璧な応力除去や溶接対策はできないまでも、 ①応力除去 ②着色 の問題について、一般的な方法や考え方、問題点などを紹介します。

再溶体化処理も現実的には無理

耐食性が破壊された場合は、もう一度「溶体化処理(固溶化処理)」をする方法が考えられますが、この溶体化処理は、SUS304では1050℃程度に品物を加熱した後に水冷する熱処理なので、品物の形状にもよりますが、大きなものや薄い板上の品物は、この溶体化熱処理をすると、品物にならないこともでてくるので、再熱処理は、無理な場合がほとんどでしょう。

薄い品物を、水冷などではなく、窒素ガス冷却をつかった冷却で溶体化することも考えられますが、それでもやはり変形して品物にならない可能性が高いと言えます。


溶接部分の応力除去について

溶接部の応力除去は、溶体化処理ができない場合には、しばしば、変態点以下で行う「低温焼なまし」が行われる場合もあります。

応力の分散は温度が高いほど有利なので、高めの温度にしたほうが良いのですが、ステンレス鋼の場合は、500℃以上に温度を上げると、組織変化によって「鋭敏化」という反応で、耐食性や耐熱性が極端に低下する現象が出ます。

反対に、低温の焼なましでは、その効果が薄いので、いずれにしても、応力除去の効果は限定的です。 

そして、どれほどの効果があるとも言えないので、「やらないよりはやった方がいい・・・」という程度だと考えておいてください。

応力が開放される・・・ということは、応力が消えることと、応力が分散する場合があって、いずれも、応力状態が変わって、応力バランスが崩れるので、品物が変形することも多く、そのために、低温焼なましも、いいのか悪いのか、判断は難しいところです。

溶接による残留応力は、接合点などの特定の部位に多く残留しているので、その小さな範囲の、極端に応力が高い部分だけでいいので、応力を緩和できたらいい・・・という考え方があります。 

これは、250℃~550℃程度に加熱して放冷する方法で、これを「ピーク応力の除去」と呼んでいます。

もちろん、これについても、どれくらいの効果があるのかは判定しにくいのですが、何もやらないよりはいいということで、この、ピーク応力の除去をやる場合が多いようです。

基本的には作業者が経験と勘で加熱処理をするので、効果の程はよくわからないとしか言えません。


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SUS304の溶接での着色の除去

この着色も厄介な問題ですが、大気中での溶接作業では、この着色は避けられません。

溶接部分の着色は、テンパーカラー(焼戻し色)と同様に、酸化層ですので、物理的除去か科学的な薬品処理が考えられます。

化学的な方法は、硝酸や弗酸で「酸洗い」する方法があります。 また、専用の薬品も販売されています。

しかし、酸を使用しますので、白っぽい仕上がりになったり、ナシ地のように光沢のない肌になってしまうことが多く、完全に溶接前の金属光沢にはなりませんので、 目立たないところで試してから用いるようにしましょう。

また、強酸の薬品を使いますので、液に触れると危険ですし、蒸気やガスを吸入にも注意するとともに、完了後には品物を中和しておく必要があります。

物理的な除去方法では、サンドペーパー、グラインダー類、ブラスト(サンド・ショット)、機械加工等で機械的に表面の着色部を除去します。

これらの方法も、溶接によって、部分的に組織が溶融していますので、その境界を完全にわからないようにするのは難しく、熟練がいる作業です。

着色の除去についても、簡単にはうまくいきません。逆に言えば、残念ながら、その程度の方法しかない・・・ということになります。

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