溶けた状態の鋼を冷却して凝固させる際に、オーステナイト中に析出する炭化物のことをいいます。
この初析の炭化物は、熱処理でも鋼中に溶け込まないもので、「一次炭化物」や「共晶炭化物」ともいいます。
この炭化物は、高炭素高合金工具鋼では、主に、耐摩耗性向上に寄与しますが、大きさが大きかったり、量が多いと、衝撃じん性値が低下します。

SKD11(プロテリアル(旧:日立金属さん)のSLDカタログより)
例えばSKD11(C1.5%、Cr12.0%、Mo1.0%他)では、写真の下方の白い組織がその炭化物で、製鋼時の1550℃程度の高温では、ほとんどすべての元素が鋼の溶湯の状態で溶けています。
しかし、溶湯を鋳込んでインゴットを作る際に、融点の高い成分のものから順番に凝固して行く過程で、この炭化物が形成されます。
この凝固過程では、まず、合金元素の炭化物が析出した後に、その他の成分が溶け込んだオーステナイトとなって凝固します。
この状態では、高温状態であっても固体状態の混合物といえますので、この状態を「固溶体」といいます。
このように、溶湯の状態または鋼のオーステナイト状態になったときに、すでに生成している炭化物は、SKD11の 1050℃ 程度の焼入れ温度では、オーステナイト中に溶け込みません。
それで「初析の炭化物」「一時炭化物」「共晶炭化物」などと呼ばれます。
これに対して、SKD11や高速度鋼のような高合金鋼では、焼入れ温度に加熱するとオーステナイトに溶け込んで、それが、後の焼戻しで素地中に微細な炭化物として析出する炭化物があります。
この、焼戻し温度が500℃前後で析出し、硬さを再上昇させる炭化物は「二次炭化物」「共析炭化物」と呼ばれます。
つまり、「鋼塊」がその後の製造過程で「鋼材」になって、機械加工後に熱処理(焼入れ焼戻し)するときに、素地(マトリックス)に溶け込まない炭化物と溶け込む炭化物があり、溶け込まない炭化物が初析の炭化物と考えると良いでしょう。
初析の炭化物は、共析炭化物(鋼の場合は、オーステナイトに溶け込んでいて、高温焼戻し時に析出する炭化物)に比べて大きい場合が多く、また、炭化物の硬さ自体も高いものが多いので、その量の多少は耐摩耗性を左右させます。
一般的にそれが多ければ耐摩耗性は高くなりますが、上にも書いたように、残念ながら「じん性」を低下させる要素の一つになります。
そのバランスが重要になるのですが、初析の炭化物の種類、形状、量などをコントロールするのは製鋼技術で、それが鋼材の性質(耐摩耗性、じん性)を決めるといっていいかもしれません。

