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JIS硬さ|慣用的な用語です

過去のJIS規格に参考資料として示されていた硬さ範囲のことを、慣用的に「JIS硬さ」というように称されます。

例えば、S45Cの調質硬さは 201-269HB、また、SCM435の調質硬さは 269-321HB … などがそれにあたります。

これらの多くは、現在のJIS規格表やJISハンドブックの参考資料には掲載されていないのですが、その名残が今でも残っていて、下に例を示したように、標準的な熱処理をした場合の参考硬さのことを、慣用的に「JIS硬さ」という言い方をされています。

JISハンドブックの参考資料が掲載されていたときには、構造用鋼に対しては、「調質」や「焼ならし」「焼なまし」などの熱処理を行う場合は、この「硬さ」に熱処理するのが一般的でした。

その参考資料には、調質硬さ、焼ならし硬さ、焼なまし硬さなどの数値がありました。

これらは、熱処理をする場合に参考となるためのものですが、本来は、小さな試験片をJISに定めた熱処理方法をしたときの硬さを一覧表にしてJISに掲載されていたのです。

しかしそれでも、実際に品物を熱処理をする場合は、たとえ、品物が大きいものでも、ともかく、その数字を使う … という習慣がありました。

そして、それが、現在でも残っていて、その、古いJISの参考資料の数字が生きています。

つまり、例えば、S45Cの調質といえば、硬さを201-269HBにする … というのが標準的な硬さだと、暗黙知されています。

もちろん、これにこだわることもありませんが、熱処理の硬さなどをどうすればいいのか … というときには、一つの目安になる便利さもあります。

現在のJIS規格票やハンドブックからは消えた

現在ではJISの規格表にも、この参考数値や図表は掲載されていませんから、このような「JIS硬さ」というものはなくなっています。

しかし、数字だけは生きています。

現在の熱処理加工のJIS規格では、調質などでの標準的な硬さは「社内規格などで定める … 」としています。

しかし、その硬さも「表面硬さ」を規定されているだけで、材料強度的にみると、いろいろな問題が出てくる可能性があります。

また、それらのデータを整備するのは現実的に大変で困難です。

だから、現在でも、当時のJISに掲載されていた硬さ値が一つの基準となっている … という状態です。

使わないのはもったいないほど貴重なデータです

実は、このデーターはたくさんの実験や実態から得られたデータなので、貴重なものです。

そして、問題点と使い方を知って使えば、非常にありがたいものです。

現在では、JISにおける熱処理条件と得られる機械的性質、得られる硬さなどについては、社内規格等によって個々の工場で規定することになっています。

しかし、例えば、調質をする場合に、焼入れ性の低い構造用鋼などは、サイズを考慮したデータを作るのは大変です。

だから、基準にできるものが、ほとんど、なにもない状態です。

そこで、熱処理品の硬さは簡単に測定できますし、そして、測定した硬さに対応する引張強さは硬さ換算表などから推定できますから、少なくとも、同じ硬さの部分であれば、かなりの精度で「硬さと引張強さ」の関係を知ることができるので、ともかく、昔のJISに付属の資料の数字は、一つの基準になります。

つまり、表面硬さと同じ部分の強さの推定ができるのですから、その基準があるだけでも助けになります。

ただ、内部に行くほど、一般的には硬さが低下しているでしょうから、内部の機械試験値はどうなっているのかは、まったくわかりません。

ですが、基準になるものがない状況では、ともかく、表面硬さを決めるためにも、便利な数字です。

それらもあって、JISにあった参考硬さは、適用条件はあるものの「信憑性があるデータ数字」ですので、その数字が現在も生きている … というのが現状です。

JIS硬さというのには違和感があるけれど

「JIS硬さ」というのは違和感がありますが、いまのところは言い方を変えるのも難しいのでしょう。

古いJISハンドブックなどに掲載された硬さ値や機械的性質などの一覧表は、平成年代の初期ごろまでは、構造用鋼(炭素鋼・合金鋼)のJIS規格の参考資料として、JISハンドブックなどには掲載されていて、下のような構造用鋼に関する図表がありました。

ここには、標準的な熱処理条件で焼入れ焼戻し(調質)をした場合の参考硬さなどが表で示されています。

構造用炭素鋼の例

これは構造用炭素鋼の例です。私の手持ちの試料は見づらかったので、山陽特殊製鋼さんの規格集のものを使わせていただいています。

この数字は、小さな試料をJISに示された熱処理条件で熱処理をした場合に得られる標準的な機械的性質(硬さなど)です。

だから、もちろん、品物が少し大きくなると数値は大きく変わります。

しかし、非常に参考になる数字で便利なので、熱処理依頼をされるお客さんも、「JISかたさで … 」と言うだけで、表面硬さが表の硬さ範囲になるように、一応の熱処理をしてもらえる便利さがあります。

この古いJISの図表は、私が知るところでは、大同特殊鋼(株)さんのハンドブックに同様のものが掲載されていますし、上で引用した、山陽特殊製鋼さんの規格集やWEBでも見つかります。

表の使い方の注意書きがあっても、データは独り歩き

もちろんこれは、特定の条件で試験されたものです。

だから、表中には、「鋼種の標準成分範囲、棒径サイズ、焼入れ焼戻し条件で熱処理した場合の参考硬さ … 」だという注意書きがあったのですが、多くの人は、その硬さにすることでJISに示された基本的な機械的性質が得られると受け取っている人が多く、ともかく、大きな形状の品物でも、そこに書かれた硬さを熱処理硬さに指定する方が多くおられます。

しかし、これには色々な問題があります。

例をあげると、これらの多くの熱処理試験は10mm程度以下の小さな試験片を用いたものです。

だから、特に構造用鋼では大きな品物が多いので、ここに記載の熱処理条件で焼入れしても、表面の硬さも出にくい上に、表面と内部の硬さの差が大きくなっています。

S45Cの調質品を例に取ると、10mm程度の丸棒などでは、表中にあるように、860℃で水焼入れして、600℃程度で焼戻しすると、250HB程度の硬さになるのですが、少し品物が大きくなると、硬さが入りにくいので、600℃で焼戻しすると、表の201-269HBの値が確保できなくなります。

そうすると、焼戻し温度を下げて表面硬さを確保することになります。

さらに、もっと品物が大きくなると、焼入れ後の表面硬さも十分に出なくなり、表に書かれた最低温度の550℃でも硬さが確保できない場合もでてきます。

そうなると、品物が大きくなれば、この表に書かれた機械的性質は、本来確保できないものになっている … ということです。

つまり、これでは、本来の「調質」の意味(表面と内部の機械的性質を均一にするなどの理由)がなくなってきます。

硬さは引張強さと相関があるので、硬さを測ることでそれに対応した「引張強さ」は確保できます。

しかし、内部の硬さはわかりませんし、大きな品物の「伸び、絞り、衝撃値」などは確保されていない可能性が高いのです。

つまり、表面硬さは確保されても、全体強度は保証されていないということになります。

これは、当然の材料の特性ですので、熱処理操作ではどうすることもできません。

でも、もちろん、調質をしないよりも高い機械的性質が得られます。

だからこそ熱処理をする価値はあるのですが、これらのことは知っておくといいでしょう。

昭和年代はある意味で「良き時代」だった?

私の記憶では、昭和年代後期までは「JIS硬さで … 」と調質の熱処理依頼するお客様がほとんどでした。

注文する側も熱処理する側も、これだけで通じていて、とても便利でしたし、熱処理する側も、その硬さを満たせばいいということで、双方に安心感のある数値であったようですので、JISに表示された硬さやその内容は、双方に便利なものであったということが言えます。

これらの表がJISハンドブックなどから削除されたあとも、これに変わる便利なデータもありません。

だから、これも困ったことなのですが、それもあって、今でもこれらの数字が生きています。

構造用鋼の熱処理などのデータが作られたのは1970年代以前で、その頃のデータが現在も起きている状況で、その後の研究もしぼんでしまったので、いろいろな点で今後の熱処理技術の衰退が気になるところは多々あります。

大同特殊鋼(株)さんのハンドブックには、これら、過去にJISハンドブックにも掲載されていたデータ類が現在でも掲載されています。

以下は(株)大同特殊鋼さんのハンドブックの一部のコピーですが、この他にも、いろいろなデータがあったのですが、JISハンドブックなどにあった付表が消えてしまったのが残念です。

これらは、過去のJISに掲載されていたものと同じですが、小さいハンドブックのコピーなので見づらくなっています。SCMの例です。イメージとして御覧ください。

SCMの氷筍熱処理など 大同特殊鋼ハンドブックより

SCMの機械的性質 大同特殊鋼ハンドブックより

熱処理データ 大同特殊鋼ハンドブックより