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高速度工具鋼(ハイス)についての基礎知識

高炭素の高合金工具鋼は、一般的に「ハイス(High Speed Steelの略称)」と称され、主に切削工具などの冷間工具として使用されます。

一般工具鋼鋼材とは違った成分と熱処理方法

ハイスの多くは合金元素を多量に含んでいて、焼入れは非常に高温に加熱するなどと、一般の工具鋼とは異なります。(ここでは詳細は割愛)

平成年代以前は、高速度工具鋼の焼入れにはソルトバスが用いられていましたが、現在では、真空炉による熱処理が主流です。

耐摩耗性や高温強度が必要なことから合金元素の割合が高く、また。焼戻しも、500℃以上の「高温焼戻し」をすることで、高い硬さを保持しつつ、切削時の高温に耐えるように成分設計されています。

「ハイスは4%Cr」といわれてきたのですが、成分的に、4%Cr が基本となっています。(近年のセミハイスなどでは、4%Crでないものもあります)

また、モリブデンMo を多く含むかどうかで、モリブデン系とタングステン系に区分されていました。

近年では、さらにバリエーションが増えていて、今まで製造が難しかった、耐摩耗性の高い「高バナジウム系」とよばれる鋼種や、粉末技術を利用して、高合金・高炭素の「粉末高速度工具鋼」などが製造されています。

また、温間鍛造用工具の長寿命化などでじん性の高い「セミハイス(マトリクスハイス)」と呼ばれる高速度鋼とダイス鋼の中間的な鋼種なども開発されています。

ハイスは鋼の成分として、タングステン、モリブデンなどの高融点元素を含有させていることで、熱処理の方法は、高い焼入れ温度で、短時間の加熱をする、他の合金工具鋼とは異なった熱処理方法がとられます。

ハイスの代表成分例

この表は、特徴がわかりやすいように、大まかな成分例を示します。

各社の鋼種を示すものではありませんが、かつては「SKH9」とよばれたモリブデン系ハイスの基本鋼種「SKH51」と比べてみると、Crの4%を基準に、それぞれの特徴が出るような成分になっています。

焼入れ温度は一般工具鋼(ダイス鋼:約1000℃)よりも高い1100℃以上の加熱温度のものが多く、500℃以上の高温焼戻しをするのが標準的です。

熱処理はソルトバスから真空炉が主流に

平成年代の初期ごろまでは、ソルトバスを用いて熱処理が行われていたものが多かったのですが、真空炉の性能が向上して、窒素ガスによる冷却でも高品質な焼入れができるようになっったことで、近年では真空炉による熱処理の比率が高まっています。

ただ、高速度鋼は概して、高合金のダイス鋼に比べて焼入れ性が低いものが多いので、少し品物が大きくなると、ガス冷却では冷却速度が不十分な場合もでてきます。

そうすると、「じん性」が低下しやすい … という評価もあって、今なお、ソルトバスによる熱処理の需要も根強く残っています。

ソルトバスを用いる場合は、熱処理中の製品肌を損なわないように、熱処理の全行程をソルトバスを使って熱処理されます。

真空炉での熱処理は、ソルトバスの熱処理に比べると、仕上がり肌が良いのですが、多くの品物は熱処理後に研磨加工をすることがほとんどなので、コストと納期短縮のために、全工程を真空炉で行うのではなく、大気雰囲気での焼戻しをすることも多く行われています。

焼入れ温度を変えるソルトバス、焼戻し温度を変える真空炉

ソルトバスは、焼入れ温度の調節が比較的簡単なことが特徴の一つなので、過去からずっと、品物に応じて焼入れ温度を変えて焼入れする方法が行われてきました。

例えば、高温特性や耐摩耗性が必要なら、「高めの温度での焼入れ+高温焼戻し」をしたり、反対に、じん性を重視する場合は「低めの焼入れ温度」をとる … などの、品物の用途に合わせて細やかに対応できます。

それに対して、真空炉を使えば、きれいな仕上がり肌になるし、ソルトバスよりも一度に多量の熱処理できるのが特徴です。

そのために、真空炉での操業は、焼入れ温度を決めて焼入れし、焼戻し温度を変えてそれぞれの品物に合った硬さに調整する方法がとられているのが一般的です。

粉末高速度鋼について

粉末高速度鋼は、製鋼工程で鋼塊を作るのではなく、溶湯の成分の微細な鋼の粉末を作り、それを固めて鋼材にするという製造方法が取られます。

そのために、それまで製造することができなかった成分系のもの(例えばCが2%以上の高炭素鋼やVが5%以上の鋼など)が製造できるようになりました。

粉末を作ることを「アトマイズ」といい、作られた粉末を、「HIP(ヒップ)」という高温等圧プレスを使って「インゴット」を作り、それを鍛造・圧延して高速度鋼の鋼材が製造されます。

この製法によると、従来の溶湯を凝固させる場合に比べると、格段に成分的な偏りの少ない高品質な鋼ができます。

この「粉末高速度鋼(粉末ハイス)」に対して、従来の製法で作られる高速度鋼をさす場合には、「溶製(ようせい)ハイス」といって区別する場合があります。

粉末ハイスは均質性とじん性に優れているという特徴があります。 しかし、製造工程が複雑なので高価です。

また、「全てに優れる鋼はない」というのはハイスの世界でも同様で、例えば、溶製ハイスよりも大量の炭化物がある粉末ハイスであっても、耐摩耗試験をすると、従来の溶製ハイスのほうが優れている試験結果も多いようです。

これは、耐摩耗性の試験方法でも評価が変わるものでしょうが、粉末ハイスが微細な炭化物が全体の分布しているのに対し、溶製ハイスは大きな炭化物のあることが試験結果に反映しているようです。

ともかく、粉末ハイスは高性能ですが、価格も高価ですので、うまく使い方を考えて、適材適所に使うといいでしょう。

マトリックスハイス

ハイスは主に切削工具用などで、耐摩耗性や耐熱強度が重視されるものが多いのですが、セミハイス、またはマトリクスハイスと呼ばれるハイスがあります。

これは、従来のハイスよりじん性が高く、温間鍛造用などの耐衝撃性が必要な用途向けに開発されたもので、成分的にはダイス鋼とハイスの中間的な位置づけになっています。

セミハイスについては、こちらの記事を参照ください。