鋼に熱を加えると結晶構造(分子の並び方)が変化します。
焼なまし材は、体心立方(BCC)構造になっています。
それを、焼入れ温度のような高い温度に加熱すると、面心立方(FCC)構造の「オーステナイト」になります。
また、焼入れ硬化してできたマルテンサイトは体心正方晶(BCT)構造に変化しています。

体心立方晶

面心立方晶
ここでは、簡単にイメージできるような内容にとどめます。
上は1つの結晶を表した図です。
鋼は、体心立方=焼なまし材、面心立方=オーステナイト系ステンレス、体心正方=焼入れしたマルテンサイト状態 のように、(化学成分にもよりますが)温度の状態や急冷などの操作で結晶構造が変わリます。
もちろん、これは「原子レベル」のオングストロームという長さ単位の大きさの話です。
これが結晶構造の変化で、それより大きなミクロンオーダーの「金属顕微鏡レベル」になると、「組織の様子」が変わります。
また、もっと大きな品物のレベルでは、機械的性質が大きく変わります。
熱処理をすることによって、結晶構造の変化→金属組織の変化→機械的性質の変化 を生じさせているということですね。
結晶構造では、さらに、この黒丸がFe(鉄原子)ですが、それがその他の元素と入れ替わったりします。(合金元素と置き換わるのですが、これを「置換」といいます)
また、この黒丸の隙間に窒素などの小さな元素が入り込む場合もあります。(窒化処理などの場合ですが、これを「侵入」といいます)
そしてさらに、焼入れ温度から冷却する速度によって金属組織が異なったものになります。
鋼材の成分と熱処理によってこれらの変化をさせて、様々な特性を持った鋼が生まれます。
結晶構造・元素・原子の話
鋼は鉄と炭素の合金です。
もしも、鋼が「Fe」だけで構成されていれば、電子顕微鏡で見ると、規則正しく並んだ上記のような結晶構造が見えるはずです。
(注)実際には、電子顕微鏡でも簡単に見ることはできません。 また、炭素その他の不純物を含まない高純度の鉄は製造が困難です。
ただ、例えば、実用レベルの高純度なフェライト磁石用材料などは作られていますので、超高純度の鉄を作る必要性はあまりないということかもしれません。
このため、炭素が0.01%程度以下のものを、 イメージ的に「純鉄」と呼んでいます。
これらの低炭素の鋼は、鉄鋼構造物などにたくさん使われています。
この純鉄は、常温では、上の体心立方晶bccになっており、これを加熱していって、約910℃程度以上の温度になると、上記の面心立方晶fccの結晶構造に変化します。
この面心立方晶になったものを、「ガンマ―鉄」や「オーステナイト」と呼ばれます。
それを再び、徐々に冷していくと、910℃あたりで変態して、元の体心立方晶bcc に戻ります。
これは常温の状態では、「アルファー鉄」や「フェライト」とも呼ばれます。
このような「相変化」を、熱処理では「変態(へんたい)」と呼び、その温度を「変態点」と言います。
金属の結晶
純鉄のような純粋な物質の結晶は、上記のような基本格子(セル)がずっと連なった状態になっています。
当然、通常の鋼では、 黒丸の原子が、Fe以外の原子に置換されていたり、侵入型といわれる小さな原子が間に紛れ込んだり、転位とよばれる、きっちりと並んでいない状態になっています。
さらに、市販の鋼種になると、数種類の元素が含まれますし、さらに、不純物と言われる元素も含まれます。
こうなると、それらが化合して合金になっているのか、混合状態なのか、 はたまた、均一なのか不均一なのか … などは、実際の鋼では、よくわからない状態になっているといってもいいでしょう。
結晶構造を見るのは極微の世界です
物質を分解していくと、「元素」に行きつきます。
「元素記号」というように、1種類の元素が単体で成り立っている物質が、純物質です。
これは、物質を性質から見て最小限のものが元素ですよ … という概念的な分け方です。
もしも鋼が、鉄Fe・炭素Cだけの合金であれば、 鋼は2つの元素が化合している「化合物」になっている … といえます。
「原子」から物質を見ようとする見方があります
原子は物質を構成する要素で、物体を分解していくと、「原子」に行きつきます。
鉄鋼も、プラスチックスも、 原子の集まりであって、その原子は、原子核と電子がある … などと説明されます。
つまり、物質の成分である元素は、原子の集合体です … という感じでしょうか?
現在の原子物理学では、その原子の中身をもっと細かく解明されているはご存じでしょう。
ただ、熱処理で説明される範囲では、 「ある元素(ここではFe)の原子が並んでいる様子を示している」ということでいいでしょう。
それが、上で示された結晶構造の図です。
そこでもう一度、結晶構造の図を見ましょう。
上の右側の黒い丸を1つの鉄(Fe)の原子とすれば、鉄原子の領域は、左図の球形は、 1つの原子が占領している「持ち分」を表している … という感じですね。
右図にある黒丸を結ぶ線が「格子」で、黒丸と格子で囲まれる面を「格子面」と言います。
この「丸」の並び方は、X線解析によって調べることができます。
もちろん、実際には、このような格子面や格子線はありませんので、これは、結晶構造を理解しやすいようにしたものです。
以上が、原子的に見た鉄鋼です。
次に、これに熱処理に関する内容を加えます。
炭素量が0.01%程度以下は「純鉄」としています。
それ以上の炭素量になれば、鉄と炭素の合金の「鋼」として性質、つまり、「焼入れして硬くなる性質」がでてきます。
その鋼を、ゆっくり冷やすと、 bccになります。
また、ゆっくりと冷やすのではなく、fcc状態(すなわち、 焼入れするために加熱した状態)から急速に冷却すると、bccではないbct(体心正方晶)が晶出します。
これが硬い「マルテンサイト」です … と言うような説明を講習会などでされます。
炭素量の増加に伴って、焼入れをして硬くなる性質が出てきます。
もちろん、炭素量によってその晶出割合も変わります。
炭素量が増えるにしたがって、高温のオーステナイト状態から急冷すると、「焼きが入った状態」になって、硬くなります。
これを熱処理的な説明になると、
加熱の場合は、「鋼を加熱して変態させると、オーステナイト(ガンマ―鉄)という面心立方晶の組織になります。
そして、それが徐冷されると、先ほどの変態点を経て体心立方晶に変化しています。
しかし、オーステナイト状態にある鋼を焼入れ(急冷)すると、マルテンサイトという組織 (体心正方晶)に変わって非常に硬くなります … 」
このような説明が熱処理での講習会などで聞かれます。
この体心正方晶は、体心立方晶(bcc)のように、格子長さが同じ(等軸晶)ではなく、1方向(たとえば、高さ方向)が長くなった構造です。
この体心立方晶(bcc)または体心正方晶(bct)と面心立方晶(fcc)を見比べると、明らかに面心立方晶fccのほうが、原子が多くて詰まっていますね。(上の結晶の図を参照ください)
このように、温度時間の変化をコントロールして結晶構造(そしてその他組織など)を変化させるのが「熱処理」です。
セルに含まれる原子の数
「セル(四角い区切り)1個に含まれる原子の数」を見ると、bccでは「角にある1/8個を受け持っている原子」 x 「8か所の角」の1個と、 中心にある1個の「合計2個」です。
それに対して、fccでは、「角にある1/8を受け持っている原子」 x 「8か所の角」の1個と、 「面で1/2ずつ受け持っている原子」 x 「6か所の面」の3個で、 「合計は4つ」になっています。
このように、セルに占める原子の数が違います。
つまり、この変化で鋼の体積が変化したり、硬さなどの性質が変化させるのが「熱処理」です。
私の考えているイメージですが、このように、熱変化で、鋼が無理やり原子を詰め込まれたことでストレス(=硬さ)が高くなる … という感じです。
あくまでイメージですが、私自身の理解の仕方としては、fccとbccでは、各格子に占める元素の個数が、違っています。
だから、 fcc→bccになると、 なんとなく原子が余ってきて、大きさが決まった品物の中で 原子を詰め込もうとするので、体積が増えるのですが、逃げ場がなくて、満員電車に人が押し込まれたように、 ぎゅうぎゅうになると、つ用力で押し合います。
そういう状態が、鋼の場合は硬くなる・・・というようにイメージしています。(これは、まったく、個人的な覚え方です)

