機械構造用炭素鋼(SC材)のJISの熱処理

【質問】

JIS G 4051の解説に、標準試験片による熱処理と機械的性質の表がありますが、具体的な見方、考え方などについて説明をお願いします。


【回答】

これを系統的に説明するには、膨大なものになるため、ここでは、下表中の赤丸数字についての意味や考え方の説明と、間違いが生じやすい点について説明します。

JISの熱処理諸元
JIS SC材の標準熱処理出の機械的性質
この表は、説明用に、一部を抜粋したものです。

はじめに

JIS規格にはその理解を助けるために、解説部分が加えれれたがあります。、しかしこれらは規格ではないために、改定されるごとに内容が増減することも多いようです。

鉄鋼の熱処理では、新しい改訂版に変わるごとに、それらが削除されて、無味乾燥したJIS規格票に変わってきている感じがします。

本来、G4051は、鋼材を製造するための規格という位置づけであり、熱処理の加工については、例えば焼入れ焼戻し加工はB6913に規定されており、機械的性質についての試験方法はZ****に規定されています。

すべてを一つの規格票に書いてあるのではなく、何々はこれこれで規定する・・・というのがJIS規格の体系です。

そうすると、「実際にどんな熱処理をすればいいの?」ということになるのですが、JIS規格単体の本文からはそれは書かれていません。これではわかりにくいので、それに答えていたのが「解説部分」に書いてある内容でした。
しかしそれが縮小されてくると、さらに熱処理部分はわかりにくくなっていくでしょう。


その解説部分についても、古くから、「品物を熱処理してみると、どうも実際とは違う」「そんな数値にはならない」・・・などもあって、それをそのまま実際の品物に当てはめて使いにくいところもあったのですが、これには、熱処理特有の「質量効果」という、品物の大きさの影響を受けやすい要素や、数値に現れていない隠れた品質要素(例えば、特殊な合金成分量や鍛造などの諸元)などもあったためで、この表に書かれた内容を有効に利用するとしても、いろいろな知識が必要で、一見しても理解しにくくいものになっているのだと思います。

これらの内容を勉強するにも、熱処理分野においては、近年、基本的な項目を解説した書籍が少なくなっています。
また、実際に品物はどうなるのかについては書籍に書かれることも殆ど無いので、ここでは、それらについても説明を加えています。


①記号

鋼種記号のことで、「S」は鉄鋼(Steel)を表しており、2桁の数字は、小数点以下の炭素量の中心値(代表値)です。S45Cは炭素量が0.45%の鋼ということです。


②主要化学成分

一般的には、規格として C、Si、Mn、P、Sなどが成分範囲を規定されていますが、特に焼入れ性や機械的性質に影響しやすいものとして C、Mn が示されています。
もちろん、この含有量の範囲内でも、大きく性質が変わります。


③変態温度

Ac1は、加熱する過程でのA1変態をする温度で、Ar1は冷却時のA1変態温度です。
鋼は730℃前後の温度で結晶構造が変わり、それを利用することで大きく鋼の性質を変えることができるのですが、加熱速度(または冷却速度)によって、加熱する場合は上方に(冷却時は下方に)ずれますので、それ以上の温度にして熱処理する必要があるために、参考温度としてこれが示されています。

これは、鉄炭素系2元状態図を見れば理解しやすいのですが、亜共析鋼(例えばS45C)を完全にオーステナイトに変態させるためには、A3変態線以上の温度にする必要があるために、炭素量の少ない鋼種ほど、加熱温度が高くなっています。


④熱処理

標準的な熱処理の諸元が示されています。
ここの数値は、直径15-25mmの小さな試験片を用いたものです。

これがしばしば問題や勘違いを引き起こすのですが、SC材に限らず、機械構造用鋼全般(例えばSCM 、SCr、SNCM・・・)においてもいえることですが、少し品物が大きくなると、焼なまし以外の熱処理では、冷却が遅くなることで、表にあるような数値が得られなくなります。
(これはあとで説明します)


⑤機械的性質

これについても、熱処理での問題と同様に、直径25mm程度の試験片から、引張試験ではJISの4号試験片に、シャルピー試験ではJIS3号Uノッチ試験片に削り出して試験した数値と考えていいでしょう。
(熱処理と関連するもので、あとで説明します)



小さな試験片と実際の品物の熱処理との違い

これについては、大切ま問題ですが、膨大な内容になるので、エッセンスのみを示します。

知っておいていただきたい点は、品物が大きくなると、①冷却速度が低下することで、熱処理組織や硬さに違いが生じる点と、②割れや曲がりの対策などの熱処理操作上での対応で違いが生じることで、標準的な状態と変わってきます。


焼ならしと調質

焼ならし温度から放冷する操作を「焼ならし」といいます。また、焼入れ温度から上表の④に示す方法で焼入れをして、500℃以上の温度で焼戻しして、表面と内部の組織や機械的性質を均一化する処理を「調質」といいます。

しかし、品物が大きくなってくると、冷却速度が遅くなって、組織が変化し、表面硬さが低下し、内部との硬さの差が増加します。

これを、例えば、表面硬さがほしいのであれば、焼戻し温度を下げて硬さを確保しなければいけませんし、極端に言えば、焼入れ状態でも、上表⑤に書かれた硬さがでないという状態になります。

すなわち、上表に書かれたすべてを満足しない状態になります。
普通は、表面硬さを指標にして熱処理しますので、その結果、焼戻し温度を下げないといけないことなども加わって、内部に行くに連れて、硬さ低下が生じている状態になっていきます。

このことで、「表面を少し加工すると、極端に硬さ低下した」「引張試験をしても、規格値を外れている」・・・などのクレーム対象になるなどの問題が出る可能性があります。

これは、構造用鋼の特性をわかっていないことから生じる問題で、それらについては、事前に検討しておかなければならないことです。


熱処理操作上の制約

これは構造用鋼に限らず、どのような鋼種でもいえることですが、品物が大きくなり、さらに対称形でなくなると、特に、焼入れで急冷する際には、各部の冷却程度に差が生じます。それによって、割れたり、曲がりが生じやすくなります。

これを防止するのが優先される場合が多く、そのために、途中で冷却中に品物を引き上げたり、撹拌の程度を変えるなどで冷却速度を調整する必要が出てくる場合があります。

ほとんどは、冷却が遅くなるような操作になるので、このことによって、上表④の状態とは変わってきます。


機械的性質についての考え方

上表⑤について、引張強さと硬さは相関がありますので、硬さを測ればその部分の強さは確保されていますが、冷却速度が遅くなった場合の一般的傾向については、シャルピー衝撃値の低下、降伏点の低下が顕著です。

品物が大きくなったり、試験片採取用の鋼材が大きくなると、表面と内部の冷却速度に違いが出ますので、試験片の採取位置によって上表⑤の機械的性質を満足しない場合も出てきます。

基本的に、熱処理における品質検査は「表面硬さ」のみですので、内部の状態はよくわかりません。事前にこのような特性の変化があることを知っておいて、内部の機械的性質が必要になる場合は、事前に検討しておく必要があります。



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