第一鋼業~近年、熱処理方法や考え方が変わりましたか

熱処理の方法や考え方は変わってきていますか?

【質問】

例えば、昭和後期と現在の熱処理について、変わったところを教えてください。



【回答】

当社の設備や作業について、昭和年代後期と現状を簡単に比較しながら説明します。

当社の主な熱処理内容は鉄鋼の全体熱処理です。つまり、品物全体を加熱冷却する熱処理です。

昭和年代は「無酸化熱処理設備」は、1基の窒素雰囲気の加熱炉とソルトバス以外は大気雰囲気の炉ばかりでしたが、それらが現在では、真空炉、窒素雰囲気炉、ソルトバスなどの設備に置き換わってきている状況ですし、表面熱処理として、浸硫窒化処理を行っています。

しかし、設備自体は入れ替わっていますが、5m以上というような長尺品や何トンもある品物の熱処理となると、設備費用的に無酸化設備化するのは大変ですので、基本的な熱処理形態は変化していないと言っていいでしょう。


1.加熱炉などの設備

平成の初期までは製鉄所の指定熱処理工場として棒鋼の素材焼ならしや調質などを連続炉を用いて行っていたことで、大気雰囲気の処理が主流でした。

しかし、老朽化に伴う設備更新費用が巨大なために、構造用鋼主体の熱処理から形材などの熱処理に路線変更して高級鋼化や加熱炉の雰囲気炉化を進めました。

当社は一般熱処理における小企業ですので、大手企業が行うような巨大な品物などの特殊な品物には対応が難しいので、大きいものでは、大気雰囲気では最大10Tonまでの単純形状の金型を、また無酸化熱処理では真空炉や窒素雰囲気炉による1Tonまでの工具鋼の熱処理に対応した設備に絞り込んでいます。

加熱温度範囲も最高1300℃までと変わっていませんし、加熱温度精度や冷却方法などについても、特に変化はありません。

ただ、鋼種の高級化・高合金化に伴って、実験などを除いて「水焼入れ」はほとんど行わなくなりました。

サブゼロ・クライオ設備などの深冷設備についても、ほとんど変化していません。

しいて変更点をあげれば、浸硫窒化処理とそれに付随する真空洗浄装置を導入したこと、油冷できる真空炉を導入したこと、ソルトバスにおける全域温度での恒温熱処理ができる体制をとったこと、品質保証について、JIS認定工場からISO9001認証工場になったことぐらいが変化しています。



2.作業のしかた

作業体制が工場・職長制から部課長制に変化したことや、JISからISOに認証が変わったこともあって、さらに「標準作業化」が進んでいます。

これによって、作業のやりやすさや品質の安定が図られていますが、その反面、工程から外れる特殊な作業がしにくくなっていますし、個々の製品に応じた熱処理ができにくくなってきている点があります。

この「標準化」高収益化や省エネに対しては好ましいことですが、個々の品物から見ると、必ずしも最高品質のための熱処理とは言えない面もあります。つまり、今後ますます、標準品質の熱処理が行われていくという事になっていきます。

このための社内教育は今まで以上に行われています。しかし、幅広く熱処理を熟知する人材が定年退職等で年々減少しており、作業標準なども最低限度の見直ししか行われなくなってくる傾向になるのは否めませんので、今後の技術力低下が気になるところです。


3.熱処理理論など

基本の熱処理理論やJIS鋼種については、昭和50年代までの考え方が踏襲されていて、基本的な考え方はあまり変わっていません。

ただ、熱処理品質に対する考え方は、昭和年代はJISに対応した考え方であったのが、最近ではISOの考え方に変わってきている・・・という違いがあるように思います。

これは、人によって捉え方が違うと思いますし、表現も難しいのですが、性能を上げるために熱処理を工夫していたものから、不具合を出さないように熱処理する傾向になってきている感じがします。

それは、標準化や顧客満足度の向上ですが、このまま進むと、特徴あるすごい「品物」は出てきにくい感じを持っています。

工具鋼などのメーカー鋼種(メーカー名で呼称する鋼種)は、メーカーが基本的な熱処理データを提供するものに沿って熱処理しますので、特に熱処理作業面では大きな問題はありません。

しかし、メーカーが外部に提示する熱処理条件等は、小さな試験片によるものですので、実際の品物では、割れや変形などの熱処理不良に対応しなければなりません。

そのためには、基本的熱処理理論を駆使して独自の作業方法に組み込んで対応する必要になることには変わりません。

具体的には、焼入れ加熱条件(特に温度)、冷却過程の推移と変態制御(特に冷却方法)、熱処理結果の確認(検査など)について対応する必要がありますが、これらの情報はほとんどメーカーなどの外部からは提供されていないので、独自に対応する必要があります。

また、材料メーカーへは、種々のクレーム情報などが集約されています。このために、これらや技術情報のフィードバックのために、メーカーとの、より密接な情報交換などの場が必要になってきているのですが、通信やIT・OAが発達したために、人同士の付き合いが減ってきていることは確かですので、製品品質面で差別化していくことが次第に難しくなってきています。


4.鋼種や熱処理品の変化など

【鋼材面において】 平成年代の初期から、製鋼メーカーの技術が格段に向上しており、それにつれて、鋼材の成分や偏析、介在物除去や脱ガス、寸法や外観、など、あらゆる面において向上が見られます。

それが熱処理品質の安定に寄与しており、単純形状品では、不具合減少につながっています。

しかし反面、材料メーカーの利益確保のために、鋼材価格の上昇、鋼種やサイズの集約化、などが進んでおり、材料費の歩留り率低下や安価品の調達がしにくくなってきています。

【熱処理面において】 鋼種の高級化や集約は熱処理のやりやすさにつながっていますが、その反面で、顧客の要求の高まり、製品形状の複雑化が進み、納期や寸法精度などの要求が増大していますので、利益率低下が進む傾向ですので、仕様の標準化統一化などの対応が必要になってきています。

いつまでたっても、解析や対応が進まないのは「熱処理変形」です。
この原因は、熱処理だけでなく、熱処理する品物に内在する問題でもあります。

熱処理による寸法や形状の変化は困りもので、それをコントロールすると熱処理品質に影響することも多く、この「変形」については、今後も課題として今後も残っていくでしょう。

このこともあって、熱処理業者としては、鋼材メーカーにはさらなる技術資料の提供や、低歪条件を含めた鋼種開発を望むのですが、材料メーカーはそこまで手を付けられる状況ではないようです。

メーカー品質がはるかにJISを凌駕している状況であっても、JISの品質要求が高まる(つまり、規格内容が高品質化する)可能性はないと思われますので、熱処理変形の問題は、今後も頭を悩ますことになるでしょう。



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