熱処理後に行われる硬さ検査は、取り決めがなければ、JISに定められている「計数抜き取り」などの方法や規則に沿っているものではない、特殊な検査方式であることを知っておく必要があります。
熱処理後の検査は「確認」の意味合いが強い
つまり、熱処理後の検査は、合否判定というよりも、工程確認検査の意味合いが強いものです。
検査では、製品にグラインダーなどのすり込みを入れたり、硬さの測定後が残ります。
だから、特別な取り決めがなければ、全数検査を行うことは稀ですし、検査方法や抜き取り数などは、ほとんどは、各事業所(熱処理会社等)の社内規格等で定めた方法(方式)で行われるのが通例です。
熱処理の抜き取り検査方式も独自で独特なものです
その抜き取り数もJISの抜き取り検査規格とは異なり、現状のロットの1~数個を抜き取り検査をするのが通例です。
また、熱処理した製品を検査する以外に、試験用に用意した製品または試験品を検査するなどのように、特殊な検査のやり方をするなど、検査というよりも、工程が正しく行われたかどうかの確認作業に近いものです。
外観確認と硬さ検査以外はほとんど行われない
特に要求がなければ、熱処理後の品質検査は、①目視による外観確認と ②抜き取りによる硬さ検査 だけしか行われないのが通例です。
それ以外の検査は、事前の取り決めがなければ、ほとんど行われません。
もちろん、検査について事前打ち合わせすることも可能なものの、打ち合わせする技術的な内容を熟知していないと、双方が満足する検査をすることも大変な場合も出てきます。
特殊な検査や追加検査は、熱処理費用とは別の有償作業になる場合もあります。
検査個数について
この抜き取り検査における「抜き取り数」は、JISなどで定める計数抜き取り検査でいう、確率を考慮した抜き取り数ではありません。
つまり、熱処理が正しい状態で行われて、目的とする硬さになっているかどうかを確認するのためのものであることから、通常は、ロットに対して1から数個という少ない抜き取り個数で検査されます。
抜き取り数も、ロットごとに1つまたは品物の形状や鋼種などに応じて、熱処理ロットに対して数少ない抜き取り数の検査になるのが通例です。
これは、検査をする側の検査工数削減という理由もありますが、顧客側としても、検査の前処理でグラインダーで製品を磨くことや、検査の圧痕がつくのを嫌うことなどもあって、次第に、工程確認作業という意味合いが強くなってきたものと考えられます。
もちろん、それで問題が起きているというのではありません。
そしてもしも、少ない検査個数であることが不安なら、熱処理前に顧客との打ち合わせをして、検査仕様を打ち合わせすればいいのですが、検査個数を増やすことで検査精度が向上するというものではないので、ほとんどの熱処理品については、熱処理業者側の検査方式や検査標準に沿って検査が行われているといっていいでしょう。
参考:昭和年代の思い出
余談ですが、この検査方法や条件について、昭和50年ごろに、私の勤務していた第一鋼業(株)が熱処理のJIS表示許可工場になるための審査で、この抜き取り数がJISに定める「計数抜き取りにおける『ゆるい検査』」の抜き取り数をはるかに下回るということで、審査官からの指摘があり、かなり問答をしたことを記憶しています。
当時のJISでは、「製品は検査で保証する … 」でした
そのために審査官は厳格なJISに準拠した検査を求めたのですが、異材などが入りこんだ場合の選別には有効なものの、硬さ値の保証となると微妙です。
現在では、JIS=ISO の統一化が行われて、熱処理品の品質を保証するための仕組み(工程)に沿って、熱処理工程の管理をすることで熱処理内容を保証するという考え方になっています。
だから、検査についても、顧客が満足するような仕組みが構築されておればいいので、従来のように、検査によって製品を保証していた、JISの計数抜き取り検査の考え方とは違う考え方で検査作業が行われています。
大手は自社の規定で受入検査をやっていました
そしてまた、昭和末期ごろまでは、熱処理品を納入するときに、要求企業側で受入検査を行う会社も多くありました。
だから、納入先の受入検査で硬さはずれが指摘されて問題が生じたこともありました。
例えば、硬さは「計量値」で、59-60HRC という規格値に対して、60HRC という検査結果であれば、60.1HRCや58.9HRC かもしれないので、受入検査の扱い方次第で合格にも不合格にもなるということもありました。
このように、昭和年代の終り頃までは、統計的品質管理や計数検査という考え方が基本にあって、現在のように工程における品質保証の考え方が進んでいなかったことや、硬さ検査におけるトレーサビリティーの考え方が徹底されていなかったことなどがあったために、検査結果に対する評価や扱い方も統一されていませんでした。
今日では、JIS Q 9001(ISO9001)などに基づいた品質マネジメントシステムの運用などが進んで、硬さの抜き取り等が問題になるということはほとんどありません。
硬さ換算表の使用も容認されていなかった
硬さ検査では、要求された硬さは、要求された硬さ試験機で測定した硬さ値でないといけない … という考え方が基本でした。
もちろん、それは正しいのですが、現実的ではありません。
現状では、使用する試験機や試験方法を明示することで、JISでは規定されない換算表を使うことも商取引には問題ないとされるようになっています。
これも、熱処理業者の試験結果に対する信頼も高まってきた結果なのかもしれません。
つまり、①硬さにおけるトレーサビリティーが確保されるようになったこと、 ②検査員の技量認定などで、硬さにおける信頼性が上がったこと、 ③妥当性の確認などで、硬さ検査値だけでなく、硬さ検査と製品保証の立場に立った測定が行われるようになってきたこと … などで、硬さ検査に対する信用度が上がったためと考えています。
現状の品質保証方法に問題があるようならば「事前に個別に契約する」ことになっています。
全数検査がいいとも言えない
全数検査をやっても、現実の熱処理品の状態を考えると、満足な結果が得られるということもありません。
本来、硬さ試験機で偏差するものなので、検査部位なども限定されるし、鋼材の鋼種や品物の形状によって硬さ値が影響を受けるので、抜き取り数を増やしても正確性が向上するとは言えません。
検査費用の問題もあって、検査について取り決めをするといっても簡単ではありません。
更に、色々な問題が内在します
例えば、指定の硬さが59-60HRC だったとして、2個の抜き取り検査値が 59 と60 である場合に、このロットの製品は「合格」と判定されますが、それが数値的にいいと言えるのかどうかです。
60 という数字自体の不確かさがありますので、58.9や60.1 のように範囲を外れていてもおかしくはありません。
だから、ロット内のすべてが指定値に入っているということは数字的には難しいのですが、そうといって、これに発注者が満足できないとなれば、これらをすべて取り決めするとなると大変になります。

