PR

クエンチ|熱処理では焼入れのこと

英語の Quench で、焼入れのことです。

JIS工程記号では焼入れは「HQ」 焼入れ焼戻しは「HQ-HT」で、「H」は Heattreatment をあらわしています。

それもあって、最近は次第に聞くことも少なくなりましたが、業界用語には、焼入れすることを「H(えっち)」といい、「Hしてみて、硬さを測ってテンパーする」というような言い方をしていました。

これは、「焼入れしてどのくらいの硬さになるかわからないので、焼入れ硬さを測ってみて、焼戻し温度を決める … 」ということですが、昭和年代ではクエンチよりも「エッチ」が常用されていた表現だった記憶があります。

現在でも、調質材を「マルエッチ材」、メーカーから出荷される、調質された鋼材を「メーカーマルエッチ材」、調質することを「エッチ・ティーする」 などの言い方が業界用語で残っています。

焼入れの目的は硬くすること(ハードニング)ですが、空冷でも十分に硬化する場合もあり、水などで早く冷やすという意味ばかりではありません。

これもあって、一般的に焼入れの冷却はすべて「急冷する」と表現されます。

この表現も少し紛らわしいかもしれませんが、「硬化に必要な冷却速度で冷やす」と覚えておくといいでしょう。

また、実際の焼入れでは、空冷しても目的硬さが得られる「焼入れ性の高い鋼種」であっても、すこし大きな品物では冷却速度が低下することによってじん性の低下が起こる鋼種では、それを抑えるために、油焼入れをすることもあります。

また反対に、焼割れや変形、硬さ調整などの目的で、冷却過程で冷却をコントロールする(遅く冷却する)場合もあります。

冷却のコントロールは、主に、歪(変形)の制御のためにすることが多いのですが、特に工具鋼の場合は、硬さ低下やじん性低下などがあるので、このように、冷却速度を故意に低下させるのは、鋼の特性を犠牲にするので好ましいものではありません。

しかし、変形や割れによる損失などのトータル費用を勘案すると、少々金型の性能が落ちても、焼入れ歪が少ないほうがいい … という顧客の要求(や暗黙の了解)から、そのような熱処理をするようになってきている傾向にあります。

しかし、これについては、何か割り切れない感じが残ります。

余談ですが、高価な工具鋼を使わずに、安価な SNCM439(炭素量0.4%の構造用鋼)で自動車の車体を切断する刃物を作ったことがあります。

油冷で焼入れる材料ですが、品物が大きいので水焼入れして、表面が55HRC にしたのですが、出来上がった品物は、残留オーステナイトが多くて、じん性があり、さらに、内部に行くに従って硬さが低下するので、耐摩耗性とじん性の両方を併せ持ったものを作ることにトライしたことがあります。

安価で高品質刃物を量産するというチャレンジしたのですが、結果的には、焼入れ時の変形が大きすぎて、取り付け穴が変形して使い物にならないことが多発し、歩留まりの悪さから製品化を断念した経験があります。

近年の構造用鋼は非常に品位が上がっているので、熱処理問題を克服できれば、低価格高品質の製品ができる可能性があります。

しかし、商品化は簡単ではないのですが、このように、まだまだ、熱処理によってすごい性能が出せる可能性が残っているはずです。

近年は、標準化による品質安定化が重要視されていますが、その反動で、新しい試みやチャレンジが少なくなってしまった感があり、少しさみしい感じもします。