焼入れ冷却中にマルテンサイトが生成し始める温度(=鋼が硬化し始める温度)をエムエス(Ms)点、マルテンサイト変態が終了する温度はエムエフ(Mf)点といいます。

これは共析鋼(0.76%C)のCCT曲線の例です。Ms点は約220℃ですが、この図には、Mfは表示されていません。
また、Msの線は途中で切れていますが、これは、冷却が遅くなると、マルテンサイトが生成しないためです。
WEBにあった図を引用しています。
これは、CCT曲線(連続冷却曲線)を見やすくした説明用の図です。
4本の線は、焼入れ温度から連続冷却した時の時間・温度の推移を示す線です。
ほとんどのCCT曲線では、冷却速度を変えたときの推移とともに、冷却後の常温の硬さが併記されています。(この図は説明用なので書かれていません)
通常の焼入れ硬化する鋼をこのような連続冷却して焼入れをすると、(1)が硬く、(4)に向かって、柔らかくなります。
時間軸は対数目盛(log)であるので注意します。
エムエス点(Ms点)は焼入れでマルテンサイト変態が起こり始める温度(=鋼が硬化し始める温度)で、エムエフ点(Mf点)はマルテンサイト変態が完了する温度です。
この図ではパーライト変態(Ps)にかかる(3)の冷却速度までMs・Mfが示されています。
マルテンサイトは温度が下がるにつれてその生成量が増します。(これを「温度変態」という場合があります)
実際の熱処理作業では、この図のような連続冷却はしない
実際の熱処理では、この図のように連続的に一定温度で温度を降下させることは難しいことです。
また、通常の熱処理作業では、Ms近くの温度まではすばやく冷却しても、品物の温度ムラを少なくしたり割れや変形を防止するために、連続的に常温まで冷却しないのが普通です。
つまり、これらのCCT曲線は、特殊な一定条件で作成された「熱処理考え方や硬さなどの結果を理解するためのもの」 … だという割り切った見方をするといいかもしれません。
そして、通常の熱処理作業では、Ms点を意識しながら、焼割れや変形を防止するために、冷却状況を変えて熱処理している … というのが実情です。
Ms点の測定
Ms点は、組織変化による発熱吸熱反応や膨張率変化を測定して、それを比較的捉えやすいのいで、CCT曲線やS曲線などに書き加えられていることも多いです。
しかし、Mfについては、その変化の終了時点を捉えにくいので、Mfが書かれていないCCT曲線も多いようですし、Mfについてもわからない鋼種がたくさんあります。
さらに、文献で見られるこれらのCCT曲線の多くは昭和年代のもので、作成されている鋼種も限られています。
それもあって、「平衡状態図、S曲線、CCT曲線」などの熱処理曲線は熱処理の講義では習うものの、現場の熱処理で利用されることはほとんどなくて、熱処理の考え方を学ぶためのものとして利用されているのが現状です。
もちろん、詳しく研究されてきたものでもないようです。
Ms・Mf の例
Ms点は、発熱反応が起きることや膨張変化が出るので、それを測定することができます。
例えば、品物に熱電対をつけてその温度変化を詳細に調べるとMs点が実測できます。
このように、Ms点は比較的測定しやすいのですが、Mfは測定しにくいので、多くの鋼種では公表されていません。
データも、90%マルテンサイトになった状態(下の「M90」)等の数字で書いてある場合もあります。
そこで、ですが、いくつかの数字を集めてみました。(注:私が寄せ集めたデータです。出典も不明なので、数値を使用するときは注意ください)

ここでは、Ms・Mfともに、高合金鋼になるほど、温度が下がっているという点と、SKD11のように、Mfが常温にある点に注目ください。
Mfが常温付近であれば、残留オーステナイトの量が関係しますし、焼入れ硬さなども変わってきます。
そして、上でも説明したように、実際の熱処理作業では、割れの危険性のために、高い温度で焼戻し工程に入るので、非常に不安定で、熱処理理論的には「感心しない熱処理」をしていることになっています。(ここでは深入りしません)
Ms点は計算でわかる?
Ms点を計算で求める方法もあって、下のように、いろいろな計算式が考案されています。
これらを見ると、鋼材の成分量の影響が大きいようです。
それもあって、(ここには示しませんが)これらの式には「適応して良い成分範囲」が示されているのが通例です。
ただ、現状の実用鋼でこれらを使ってMsが既知のもので計算してみると、合金量の多い鋼では実測値とかけ離れるものが多いようです。( … といっても、データが少なくて、何が正しいのかもわかりません)

九州工大のレポートを参照九州工大http:hdl.handel.netから引用
Ms・Mf点は鋼材カタログなどをみても、表記されていない場合も多いので、これらで計算できると便利です。
もちろん、すべての鋼種について計算できるというものではないものの、Ms点を常に意識することは重要熱処理従事者には役に立ちます。
つまり、このMs付近の温度は、(特に工具鋼などでは)焼割れや変形をコントロールする上で重要ですから、似通った鋼種から類推するか、不確実でも、計算することで、Ms・Mfを意識しておけばトラブル防止に役立ちます。

