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鉄鋼の焼なまし|5分で知る基礎の基礎

焼なましの目的と種類

一般的には鋼の硬さを下げてやわらかくすることを「焼なましする」といいます。

ただ、「焼なまし」という名前でも、柔らかくすること以外にも、目的によって処理温度や方法が若干異なっています。

JISの用語の、焼なましの種類としては、完全焼なまし 球状化焼なまし 均質化焼なまし 応力除去焼なまし 再結晶焼なまし 等温焼なまし 不完全焼なまし 部分焼なまし … などがあり、これを理解するのは少し大変ですから、ここでは機械加工に関係する焼なましに限定すると、

残留応力の除去(応力除去焼なまし
硬さの低減・延性の向上(軟化焼なまし
冷間加工性の改善・組織の調整(完全焼なましや球状化焼なまし
ガス不純物の放出・組成の均質化(拡散焼なましや均質化焼なまし

などになります。

このうちで、拡散焼なましや均質化焼なましは、熱処理でおこなうというより、製鋼過程で鋼材の品質向上のために行われるものなので、それらを除外すると、鋼を加工しやすいように「軟化する」「応力除去をする」というものがここで説明しようとする「焼なまし」になります。

温度に伴う鋼の内部変化

鋼を常温から温度を上げていくと、塑性加工などで結晶粒変形したものは再結晶によって鋼の内部変化することで、応力除去の効果が出ます。(応力除去焼なまし)

さらに温度を上げると、結晶粒が成長して大きくなるとともに、結晶組織も粗くなり、硬さが低下します。(軟化焼なまし)

さらに高い温度では、鋼が組織変化(変態)して、新しい結晶が作られ、さらに高い温度になると、成分や組織の拡散現象が出てきます。(完全焼なましなど)

このような鋼の内部(結晶)の変化をさせる熱による加工が「焼なまし」で、さらに高い温度に上げることはこのHPで取り上げている熱処理では行うことはありません。

やわらかくする最大の目的は「加工しやすくする」ことですが、鋼は組織が変化する(変態)以上の高温にすると、ごくゆっくりと冷却する必要が出てきます。

鋼の機械加工(切削加工)がやりやすい硬さは150~300HB程度で、その硬さにするためには「完全焼なまし」をするのが一般的です。

これは、下図の色を付けた温度にした後に、炉冷などで非常にゆっくり冷やす操作をします。

もちろん、完全焼なましでやわらかくなりすぎて加工しにくくなる鋼種や、十分に硬さが低下しない鋼種もありますので、それらを詳しく説明していくと大変ですから、ここでは、簡単な説明で焼なましの全体像をイメージしてください。

焼なましの処理温度のイメージ

この図にはいくつかの焼なましの温度が示されています。

熱処理で知っておくといいのは、この図のPKの線以上の温度にする「完全焼なまし」と、PK線以下の温度で処理する「低温焼なまし」に区別するといいでしょう。

その他の焼なましは、熱処理と関係が薄いか、特定の目的で行うものなので、ここでは詳しくは取り上げません。

単に、「焼なまし」といえば「完全焼なまし」を指しています

上図のPKの線は、A1変態点(えーわんへんたいてん)といい、これ以上の温度で鋼(あるいは鋼の一部)はオーステナイトという組織に変わる温度で、その時に、結晶粒も再構築されて小さくなり、応力も解放されます。

そしてその温度から、炉の中でゆっくりと冷却すると、鋼は柔らかい状態になります。

冷却が早いと、十分に軟化しません。

上図の色付きの部分の加熱温度については、JISやメーカーが「鋼種ごとの焼なまし温度」や冷却条件と焼なまし後の硬さ(これは「焼なまし硬さ」といいます)などを示しているので、それに準拠します。

炉の中でごくゆっくり冷却するのが「完全焼なまし」です

炉冷は30℃/h以下の速度で温度を低下させるもので、例えば830℃から炉冷させると1昼夜かかってしまうので、時間短縮のために、通常の作業では、300~400℃程度になった時点で放冷するように作業されます。

もちろん、焼入れ性の良い鋼種では、もっと低い温度まで炉冷しないと焼入れのように硬化する鋼種もありますし、逆に、構造用炭素鋼などの焼入れ性の低い鋼種では、500℃程度で放冷しても硬さが高くなってしまうことはありません。

完全焼なましは、鋼が最も柔らかくなるのですが、さらに軟らかくしたい場合や焼入れ後の特性向上のために、球状化焼なましをするものもあります。

球状化焼なましについて

少し専門的ですが、完全焼なましはパーライトという、硬い炭化物とやわらかいフェライトが層状になって、全体の硬さが低くなっているのですが、球状化焼なましは、層状の炭化物がちぎれて、球状に近づくことで、完全焼なましよりも軟らかくなります。

高合金の工具鋼を完全焼なましの処理をすると、自然に「球状化焼なまし」になっている場合も多いので、ある意味では、球状化焼なましは完全焼なましの仲間と言えますが、低合金鋼では球状化しにくいものが多いので、色々な工夫の熱操作する方法が行われています。(ここでは、詳細は省略します)

炭化物が、母材に細かく均一に拡散している状態に焼なましされた鋼のほうが、焼入れ後の機械的性質がよくなるので、転動寿命が問題になるベアリング鋼(SUJ)では、焼なまし組織で球状化の割合を要求している場合もあります。

その他の焼なまし

JIS用語にあっても、普通は聞くことも少ない「焼なまし」で、熱処理用語としては無視していいぐらいの用語を簡単に紹介します。

不完全焼なまし は少し特殊な焼なましで、ちょっと気をつけないといけない用語です。

これは、オーステナイト化した温度から空冷して、パーライトノーズ付近の温度で等温変態させる方法を言う場合の用語の他に、焼なまし工程の温度や冷却の不具合で、目的の組織や硬さが得られない焼なまし状態を生じたことをさす場合があります。

校舎は「焼なまし不良」などというのがいいのですが、もしもこの用語を聞く場合は、慎重に対応したほうがいいようです。

均質化焼なましや拡散焼なましはソーキングといわれるもので、これらは製鋼過程でおこなわれるもので、鋼の組織を均一化する目的で行われます。

高温処理のために結晶粒が大きくなってしまうので、その後に熱間加工での鍛錬による結晶粒微細化や軟化のための焼なまし工程が必要なので、このHPの熱処理とは別に考えるのがいいでしょう。

再結晶焼なましも、鋼板などの製造過程で行われるもので、応力除去と軟化のために、再結晶化温度にあげる低温の焼なまし処理です。

等温焼なましは、恒温熱処理の考え方を利用するもので、焼なまし温度から熱浴(ソルトバス)などを利用してパーライト変態をする温度域に品物を保持して、時間変態を利用してやわらかいパーライト組織を得る方法ですが、実作業として行われているのは聞いたことがありません。

変態点を超えない「低温焼なまし」

変態点を超える焼なましは「完全焼きなまし」「球状化焼なまし」などですが、それに対して、概ね、750℃以下で行う、鋼の変態点を超えない焼なましは「低温焼なまし」として考えればいいでしょう。

変態点以下の加熱なので、通常は、焼なまし温度に加熱後は大気中に放冷します。

また、温度が高いほど応力除去や軟化は進みます。

応力除去焼なましは、溶接品や冷間加工(引き抜きや冷間鍛造など)した品物の応力除去や後加工時の加工中の変形防止等で行う焼なましです。

温度が高いほど効果が高いのですが、調質品などは、硬さの低下をしない焼戻し温度以下で行う必要があります。

これによって、完全に応力が除去できるというものではありません。

極端な話ですが、低温焼なましと「焼戻し」は同じような熱処理操作です。

軟化焼なましは、変態点以下の750℃程度までの温度で加熱して、その後に放冷します。

硬さは「完全焼なまし」するほどに低下しないのですが、完全焼なましよりも処理時間が短いことや、800℃以上に大気中で長時間加熱すると、酸化スケールの付着や脱炭が生じるので、それを軽減して、機械加工できる程度に鋼を柔らかくする目的で行われます。

鍛造品の「割れどめ」や「仮焼なまし」と呼ばれるものもこの軟化焼なましの場合が多いのですが、完全焼なましのように結晶粒が微細化しないので、その後に焼入れ焼戻しをする場合は、完全焼なましをしたものよりも機械的性質が劣化します。

重要な品物は、完全焼なましをすることが望ましいです。

これらの変態点以下で行われる焼なましは、目的とともに、熱処理の前履歴や品物の硬さなどの状態を確認して行うことがトラブルの防止になります。