高合金高炭素鋼は、製鋼時に、溶液(溶湯)の状態から凝固して全体がオーステナイトの状態になるまでに、鋼中に炭化物が析出します。
これが共晶炭化物で、一次炭化物と言われることもあります。
この炭化物は、焼入れなどの熱処理では、オーステナイト中に固溶しないので、焼入れ焼戻しなどの熱処理では変化しません。
これに対して、焼入れ温度でオーステナイト中に固溶して、高温焼戻しで硬さ上昇などに寄与する炭化物を「共析(きょうせき)炭化物」といいます。
製鋼の際に溶湯を鋳込んで冷却して凝固させて鋼塊にする際に、融点の高い炭化物から順に鋼の組織中に析出しますが、この炭化物の多くは、高い温度で析出しているものなので、焼入れなどでのオーステナイト化温度では素地(組織)の中に再固溶して消えたり形状が変化することはありません。
その炭化物が共晶炭化物(一次炭化物)で、これと、熱処理温度でオーステナイト中に溶け込んで、焼入れ後に500℃以上の焼戻しの際に析出する炭化物が二次炭化物(または共析炭化物)は材料を考えるうえで重要です。
溶湯からの凝固では、様々な炭化物の形態や構成(成分)のものが生じます。
これらの析出状態により、複雑に機械的性質や鋼材品質が変化しますので、製鋼方法や製鋼技術は鋼材品質に関係します。
特に高合金工具鋼では、この製造履歴が工具の品質に大きく影響しますので、凝固速度の調整はもとより、ソーキング等によって鋼の状態を調整することが重要になります。
一般的には、共晶炭化物の組成や形状は耐摩耗性を高めるとともに、じん性を低下させるとされています。
つまり、共晶炭化物の耐摩耗性については、
1)炭化物の硬いほうが耐摩耗性が高い
2)量が多いほうが耐摩耗性が高い
3)粒の大きいほうが耐摩耗性が高い
という傾向があり、反対に耐摩耗性が高くなると、鋼のじん性は低下するのが一般的です。
また、炭化物を構成する炭素と合金成分の割合が増えると、マトリックス(素地)中の成分が影響を受けますので、炭化物量(しいては鋼材の化学成分)は鋼材の機械的性質や特性を大きく変えるために、凝固時の制御技術(製鋼技術)の良しあしは非常に品質と関連があります。
共晶炭化物はじん性を低下させるので、特に、切削用の鋼材では、小さくて種々の炭化物を均一に分散することが良いとされています。
このことから、高炭素高速度鋼では「粉末ハイス」が良いとされるのは炭化物が細かくて分散していることで「じん性が高い」というのがその理由です。
しかしこれもまた、大きい炭化物がある溶製のハイスよりも耐摩耗性が落ちるという評価もあるので、じん性と耐摩耗性を両立させて高性能化するのは難しいことといえます。

これは、プロテリアル(旧:日立金属)さんのSLD(SKD11相当)のカタログ(倍率は不明)に掲載されている図表で、白く見える大きな炭化物が、鋼塊の凝固時に析出した共晶炭化物です。
全体の炭化物量は、焼入れによって減少していますが、これは、共析炭化物が素地(マトリックス)に溶け込んだためで、それは500℃以上の高温焼戻しすることで再び析出します。
ここでは「ε」と示されている炭化物ですが、500℃以上の高温焼戻しすると、共析炭化物が析出して、腐食されやすい組織に変化し、高温の焼戻しをした組織は、焼なましの組織写真のような黒っぽい組織になります。

