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鋼の硬さと機械的性質|熱処理と切り離せない関係

熱処理の品質評価(熱処理検査)は、ほとんど、熱処理後の硬さを測定する以外は、試験されることはありません。

機械試験などは別費用になりますし、要求がなければ行われません。

通常の品物では、硬さを測定できる箇所は限定されますし、使用できる硬さ試験機も、限定的です。

そのために、硬さや硬さ測定の方法などについてのポイントなどを知っておくことは重要です。

ここではすべてを紹介できませんが、熱処理業者などが行う熱処理硬さ検査は、要求された硬さ(例えば、HRCはロックウェル硬さ試験機、HVはビッカース硬さ試験機)で測定するのが当たり前ですが、実際には、「測定可能な試験機は限られているし、測定できるところも限られる」ので、要求する硬さ(例えば、尖った刃先の硬さなど)と、実際に測定する測定部位や硬さ試験機は違っていることが多いのです。

これは、JISなどでは、「事前に打ち合わせして決める」となっていますが、ほとんどは硬さ換算表を使用することで、暗黙的に行われています。

熱処理検査成績書などで、使用した試験機などがわかるようになっていますが、そのために、ここでは、硬さ換算表と、硬さと機械的な性質のとらえ方の初歩的なことを紹介します。

JISでは4つの硬さ試験が規定されています

「硬さ」は、JISには鉄鋼用に、押し込み硬さ(ブリネル、ロックウェル、ビッカースなど)や反発硬さ(ショアーなど)の4つの「硬さ試験」について規定されています。

これらの試験方法等についてはJISで規定されているのに加えて、相互の硬さでの硬さ値や引張強さにかなり広範囲の条件で安定的な一定の関係が見られることから、アメリカのSAEの規格には「硬さ換算表」に硬さと引張強さの換算が掲載されています。(JISには「硬さ換算表」は規定されていませんが、JISハンドブック「鉄鋼編」や「熱処理編」などに掲載されています)

使用できる試験機は限られるので、通常は、それで測定した値を換算して検査成績表などに表示されるのが一般的になっています。

さらに、いろいろな鋼種で、「硬さとシャルピー値の関係」などのように、硬さとじん性値、硬さと耐摩耗性などの関係を示すデータがメーカーのカタログや技術資料に広く公表されています。

このような経緯から、過去には、熱処理後の品質確認のために、各種の機械試験による品質保証が行われていたこともありましたが、現状では、一般の熱処理検査としては、硬さ試験(熱処理後の硬さ検査)以外の試験は行われることが少なくなっています。

硬さ換算表

SEAの換算表の例

上はSAEの硬さ換算表の例ですが、この他にも数種類の換算表がJISハンドブックの巻末に掲載されています。

ロックウェル硬さと引張強さの関係

それらの表には硬さと引っ張り強さの関係も併せて示されており、それをいろいろな表からピックアップして、関係づけたグラフにしたのが上の図ですが、このグラフのように、直線的ではないものの、「関係性・相関性がある」ことが示されています。

大まかに言えば、硬さと強さは正の相関にあるので、硬さを高くすると「強く」なり、また、耐摩耗性が高くなります。

そして逆に、硬さが高くなると、じん性が低下しますから、それをもとに、硬さ値を見れば求める特性の傾向が把握できます。

つまり、「硬さ」で機械的性質が代替できますし、その他の性質も、メーカーなどの資料で類推できるので、硬さ以外の機械試験や検査は行うことが無くなっているのが現状です。

硬さと機械的性質の関係は鋼材メーカーの資料が便利

材料メーカーは、自社の製造する鋼種について、カタログや技術資料に、鋼種と機械的性質についての様々な試験データを公表しています。

もちろんまだまだ、WEBでそれらを簡単にみることができるという状態ではないですし、いずれのデータも、小さな試験片を利用したものですし、さらに、各社が固有の試験方法によっているデータも多いので、その見方も簡単とは言えません。

しかし、それらの公開された資料やデータを利用することで、知りたい機械的性質について、個別に試験をしなくても、硬さを測るだけでおおよその機械的な性質が類推できるようになっています。

SKD11の硬さと衝撃値
硬さと衝撃値の関係:大同特殊鋼のカタログより

各鋼種の硬さと抗折力
硬さと抗折力の関係:日立金属の技術資料より

 

機械試験で熱処理後の特性を確認するのも難しい

熱処理した結果の品物の機械的な特性は、機械試験(例えば引張試験)をすることで保証できるかというと、これも、実際には難しいことです。

たとえば、同時に熱処理などの加工をした同じ製品から試験片を取り出して試験をしても、正しい特性が反映されているとは言えません。

過去にしばしばあった、嘘のような話ですが、仕様書には、「別工程でつくった試験用の鋼材を、本体と同様に熱処理をして試験をする」 … などと、とんでもない内容の仕様書もありました。

そもそも、大きさや形状が違えば、熱処理後の特性が違ってきますから、それを機械試験しても意味はありません。

それらもあって、近年は、熱処理品の機械試験(引張試験や衝撃試験など)をすることがほとんどなくなりました。

むしろ、機械試験をして、間違ったデータが独り歩きする場合もあるので、メーカーが作成しているデータは非常に重宝します。

現在では、「硬さ」のトレーサビリティー(国家標準にまで遡れる仕組み)があり、検査者を含めた「硬さの確からしさ」が保証されているので、熱処理品の機械試験の必要性についての考え方が変わってきているということのようですから、硬さによって品質を保証するやり方は、理にかなっていると考えていいでしょう。

実際の品物の硬さは、形状の決まった「硬さ基準片」の硬さ測定とは違って、HRC51~53 と指定するのか、HS68~71と指定するのか、HB495~525と指定するのかが理解できる人は、機械技術者であっても、限られるほどに難しいことです。

硬さ換算表では、上記の範囲の硬さでは、同じような特性になっていると考えていいのですが、試験機の特性や、品物の形状を考えた測定位置での硬さが製品の特性を代表できているかどうか … などがわかるには、かなりの知識と経験が要求されます。

これ以上はここで紹介しませんが、製品寿命を向上させたい場合や、トラブルが生じないようにするためには、「事前の打ち合わせ」をすることが確実です。