熱処理における硬さ試験は熱処理品の品質を決定するために重要なもので、その硬さ試験機の精度保持のために重要なのが「硬さ基準片」です。
しばしば「テストピース」と呼称されることもありますが、JISでは、「硬さ基準片」といいます。
これもあって、JISの要求精度などの基準を満たしていないものは、硬さ基準片とは呼ぶことはできません。
国内で使われている硬さ基準片の多くは「旭工業所」製か「山本化学工具研究社」製のものが使用されています。
(株)山本科学工具研究社のロックウェル硬さ基準片
硬さ基準片は硬さ試験機の管理や校正に用いられるもので、JISでその仕様が規定されています。
そのため、硬さ基準片の硬さ値は厳格に管理されていることもあって、高価になってしまうのは仕方がないかもしれません。
ただ、難を言えば、日を追うごとに価格が上昇することです。
私が勤務したときには、あまり値上がりが激しいので、一時期、自社で硬さ基準片を自作していたこともあります。
しかし、自社で製作して管理するとなると、それも大変です。
結局、思ったほど安価に製作できないので、は自社製作するのをやめて、毎年、かなりの数の硬さ基準片を購入することに戻ってしまいました。
熱処理現場で使うものは、定期的な管理のためだけではなく、日常作業での使用頻度も高いために、高価すぎて「使いにくい」 … という問題もあります。
硬さは熱処理品質を決める大切なもの
硬さは、引張強さなどの機械試験値に替えるものとして最重要な指標ですから、硬さ試験機の精度維持には硬さ基準片は必須です。
つまり、JISの規定に沿った硬さ試験機と硬さ基準片によって「社内の硬さ値」が管理され、それによって熱処理後の製品の品質が保証されている … という仕組みで硬さの精度(硬さ値)が保たれています。(これを「トレーサビリティーが確立されている」という言い方をします)
ただ、このように、各社がそれぞれ「JISに基づいた硬さ」を管理しているのですが、(大変不思議なことですが)硬さが管理されている2社の硬さを比べると「合わない」 … とか、購入した硬さ基準片の値がおかしい … ということを経験することがあります。
この場合は、顧客優先なので、納入先の硬さに合わせる「硬さ合わせ」をしますし、新規に購入した基準片の硬さの違いも、自社の硬さに「値付け」し直して用いることもあります。
またさらに、基準片の製造メーカーが違うとその硬さの違いがあることも経験しますから、一筋縄ではいかない問題もあります。
硬さ管理の運用は難しいことも多い
硬さ基準片の硬さも、製造会社が、JISに基づいた「値付け(硬さ値の確定)」をやっているものですから、絶対に正しい硬さではなく「統計的に管理された状態の硬さ」です。
JISやISOの認証工場では、硬さに関するトレーサビリティー(国家標準の硬さ値につながる管理体系)が求められていることもあって、それに沿って「硬さ」は管理をされていますから、この仕組みによって、硬さに関するトラブルはほとんどないようです。
ただ、実際の品物を検査するのと、硬さ基準片の硬さを測るのとでは状態が違いますので、硬さの標準を管理することと、品物の硬さを保証することとは別です。
例えばロックウェル硬さ試験機であれば、10kgf(重さ10kg)以上のものは測ってはいけない事になっていても、熱処理品となれば、それらを測定しないといけない場合もありますし、熱処理肌の品物を測定するなどのために、様々な誤差の要素が加わります。
もちろんこうなると、硬さ基準片の硬さの問題とは乖離してきます。
そのために、品物の硬さを保証するためには、試験機の管理とともに、硬さに対する技術、測定者の技能・能力なども重要になります。

