塑性変形や衝撃などの外力を加えられることで、オーステナイトや残留オーステナイトがマルテンサイトに変態したものを「加工誘起マルテンサイト」といいます。
例えば、SUS304などを引き抜き加工などの強い塑性加工すると磁気を帯びるという現象が見られることがあります。
これは、オーステナイトは非磁性ですが加工変形を受けることによって強磁性のマルテンサイトが生成するため … と説明されています。
この強加工で生じたマルテンサイトも「加工誘起マルテンサイト」です。
オーステナイト系のステンレス鋼は、常温で安定したオーステナイト状態であることで耐食性が保たれていますが、オーステナイト状態でない(磁気が生じた)状態の組織が生じると、耐食性や耐酸化性も低下してしまいます。
磁性を持つなどの異常組織を生じさせないようにするには、できるだけ加工変形量を小さくして加工するか、オーステナイトの安定性の高い鋼種を使用することで防止することになります。
オーステナイト系ステンレスなどで、強加工によって、いったんマルテンサイトが生じると、それを焼戻しして消失させても、以前のオーステナイト状態にはなりません。
もとのオーステナイト状態に戻すためには、再度、溶体化処理をする必要があります。
しかし、再熱処理をすると、加熱冷却に伴う変形や着色の問題は避けられませんから、再加熱すると、複雑形状のものは変形して使用できなくなる可能性が高くなりますので、これも困りものです。
その他の例では、工具鋼などでも、鋼中に残留するオーステナイト(残留オーステナイト)は強い加工変形によってマルテンサイト化することがあリます。
この変化を利用した鋼の強化方法もあるのですが、通常の工具では、使用中にマルテンサイトが生成すると、じん性が低下したり、破壊の原因になるので、好ましいものではありません。
残留オーステナイトは、560℃以上に焼戻しすることで消失(または安定化)するのでほとんどは問題になることはありません。
しかし、極端に高い硬さを要求して低い温度の焼戻しになってしまったり、納期短縮などで、不十分な焼戻しをするなどは、製品寿命に対しては良くない … ということを頭に入れておくのは無駄ではないでしょう。

