安定化処理とは、時間経過にともなう寸法や組織の変化(これを時効による経年変化と言います)を防ぐことを意図した熱処理で、通常は、200~250℃程度の温度に加熱することをいいます。
この経年変化を防ぐための鉄鋼の熱処理では、高炭素高合金鋼などの焼入れで生じた 残留オーステナイト が、使用中に組織変化しにくくするために行うものです。
焼戻し温度を上げると、硬さ低下をする鋼種もあり、およそ200℃以上であれば安定化をさせる効果があります。
一般的な説明をすると、合金工具鋼などの焼入れが完了した時点では、組織中に残ったオーステナイト(これを残留オーステナイトといいます)がある鋼種では、その残留オーステナイトは、温度や外力に対して不安定な組織です。
残留オーステナイトは、焼戻し温度が400℃程度以上になると分解し始める鋼種も多く、それがソルバイトなどの安定した組織に変わっていきます。
そして、さらに温度を上げて、550℃程度以上になると、それがほぼなくなってしまいます。
しかし、焼戻し温度を400℃以上まで上げると、機械的性質(特に硬さ)が低下してしまう場合もあるので、硬さが低下しない程度の焼戻し温度まで上げることで残留オーステナイトの変化を防ぐことを「安定化処理」といいます。
この、焼入れ時の残留オーステナイトの生成量は主として鋼材の成分が関係します。
例えば、ダイス鋼SKD11では焼入れ直後には20~40%程度の残留オーステナイトがあり、焼入れ直後にサブゼロ処理をすると、10%程度以下(数%)になります。
しかし、サブゼロをする前に200℃程度の焼戻しをしてからサブゼロすると、ほとんど減少しなくなり、サブゼロ処理をしても10%以下になりません。
つまりこれは、焼戻しをすることによって残留オーステナイトが「安定化した」といえます。
しかしこれも、残留オーステナイトが完全に安定になるというものでもなく、変化しにくくなるという程度のものです。
焼戻しで残留オーステナイトを消失させるには、550℃程度以上の加熱が必要になります。しかし、そうすると、硬さが低下してしまいます。

プロテリアル(旧:日立金属)さんの SLD の技術資料より
焼入れ時の残留オーステナイトは温度や外力に対して不安定で、温度・時間とともにマルテンサイト、ベイナイト、トゥルースタイトなどの組織に変化していきます。
このために、製品になってからオーステナイトの分解が発生すると変形などの原因になるだけでなく、分解して組織変化したした組織は焼き戻ししていない状態なので、「じん性」などが低下します。
それを避けるために、SKD11などの高い硬さで使用する鋼種を使った製品は、できるだけ、高めの温度に焼戻しして、残留オーステナイトが変化しにくいようにすると、安定化の効果が高くなります。
もちろん、できるだけ高い温度が有効なのは言うまでもありませんが、硬さとの関係があるので、180℃以上の焼戻しを2回行うことでかなり効果的に働きます。
また、強加工に伴って生成する加工誘起マルテンサイト(強変形によって、焼入れ組織であるマルテンサイトが生じるもの)の主な原因も残留オーステナイトの分解によるものとされていますから、この安定化処理は残留オーステナイトによる悪影響を低減する一つの方法です。
しかし、残留オーステナイト量を低減する方法ではないので、残留オーステナイト量を減らす対策(サブゼロ処理や焼入れ条件検討など)はこれとは別に考えておく必要があるでしょう。

