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非常に硬さの高い鋼「高硬度鋼」の話

鋼の最高硬さについてみてみましょう。

私が熱処理に関連する記憶では、例えば、鋼を焼入れして「マルテンサイト」状態になると非常に硬い状態になる … とか、ショアー硬さ計を作ったアメリカのショアーさんは、炭素鋼を焼入れしたときの最高値を100とした … ということや、ビッカース1000を越える鋼種やHRC72以上の硬さが出る鋼種 … などの話題がありました。

それを総括すると、鋼での硬さの最高限界は、HS100 HRC72 HV1000 というようなのですが、この硬さをイメージしてもらおうと思うのですが、まず、少し「硬さ」についてのおさらいをしましょう。

JISに規定された硬さ

鉄鋼関連の硬さに関するJISに、ショアー硬さ、ブリネル硬さ、ロックウェル硬さ、ビッカース硬さなどが規定されています。

大きく分けて、「反発硬さ」と「押し込み硬さ」に分けられるとの表現もあります。

「ショアー硬さ」は「反発硬さ」で、ショアー硬さ計で測定した硬さで、下のような試験機を使って、80HS(または HS80)などと表しますが、ダイヤモンドをつけたハンマーを落下させて、その跳ね返りの高さを「硬さ値」にしたもので、鋼の硬さが硬いほど、「よく跳ね返る」という指標です。

ブリネル硬さ、ロックウェル硬さ、ビッカース硬さなどは、硬い圧子(例えばダイヤモンドや超硬合金など)を押し付けたときの「凹みにくさ」を測定しています。

硬いものを押し付けてもへこまない鋼が硬い … という指標ですね。

ショアーD型の例
今井精機さんのWEBの画像

いずれの硬さ値でも、硬さ値自体は一種の「指標」ですから、硬さ計が違うものの比較が難しいのですが、鋼については、便利なように「換算表」が用意されていますから、それを使って鋼の焼入れ極限硬さをイメージできます。

便利なものですが、使い方の注意点などもあって、いつでも使えるものではないのですが、現状では、硬さの相対比較ができるものとして、難しく考えることなく、便利に使われています。

硬さ換算表の一部

これは、第一鋼業さんが使われている「硬さ換算表」の高硬さ部分の抜粋です。

使いやすいように、数値の間を補完されたもので、数値が高くなると換算できないために数値が示されていませんね。

そこで、先ほどの「最高硬さ」をイメージしやすいように、この表の数字を外挿すると、HS100は、70HRC、1000HV程度の硬さ程度に推定されるのですが、換算はできないものの、このあたりの数値が鋼における限界という感じです。

もちろん、鋼に含まれている「炭化物」はもっと硬いですし、硬さで言えば、試験機に用いられるダイヤモンドや超硬合金は焼入れ鋼以上に硬い … というのは自明です。

ちなみにダイヤモンドの硬さは、ビッカース硬さにすると8000-10000HV以上と言われていますが、ダイヤモンドがこの世で一番硬いものとされていますね。

さらに余談ですが、超硬合金などにも硬さが示されていますが、これらで作られた製品をショアーやビッカース試験機で硬さ測定すると、その部分から破壊しやすくなるので、不用意な硬さ測定は禁物です。それほど脆いということを知っておきましょう。

 

マルテンサイトの硬さではHRC65が限界

炭素量と焼入れ硬さ
炭素鋼の焼入れ硬さ:鋼の熱処理(鉄鋼協会編)から引用

炭素鋼や普通の合金鋼では、HRC65程度が限界のようで、HRC70というのは桁違いに硬い硬さと言えます。

昭和年代にはこのような「焼入れして硬さの出る鋼種」では、フェロチックと呼ばれる、硬い炭化物のTiC(炭化チタン)を鉄粉で固めた特殊な粉末材料しかなかったのですが、近年では、新しい製鋼法で作られた粉末ハイスの一部や、高硬さを売り物にした高合金鋼で、簡単に70HRCを超える鋼種がいくつかあります。

プロテリアルさんのカタログより
プロテリアルさんのカタログから

これらを焼入れしてロックウェル硬さ計で測ると、確かに72HRC程度の硬さが出ます。この硬さが、私が実際に測定した最高硬さです。

しかし、これらの鋼種は、非常に硬さの高い炭化物を多く含む鋼種ですので、その炭化物硬さの一部を含んでロックウェル硬さ計で測っているため、そのような高い値になる … ということですね。

つまり、炭素鋼の最高硬さ65HRCは、ビッカース硬さに換算すると830HV程度ですが、これらの高硬度鋼中にある炭化物は1500-3000HVなどの、ように非常に硬いものなので、それがロックウェル硬さに反映しているということです。

もちろん、この硬い炭化物によって、摩耗試験での耐摩耗性は増します。

しかし、「硬い」ということは「もろい」ということにもなるので、どんな工具にも使えるというものでもありません。

硬ければ良いというものでもない

硬さを高くしすぎると、鋭利な刃物では、刃先が欠け落ちたり、炭化物がこぼれ落ちて初期摩耗が進むなどで、思ったほど寿命が伸びない場合もあって、「硬ければ寿命がよい」という考え方はあてはまりません。

このように、使う対象によって「硬さ=寿命」になりません。

上の換算表で、引張強さの最高が2075Mpになっていますが、実際にHRC58程度の焼入れ焼戻し鋼の特殊な引張試験をすると、それ以下の値で破壊してしまいます。

しかし、十分に高い硬さがないと機械刃物などの工具はダメですので、硬さは重要な指標です。

つまり、鋼種ごとに適度な硬さがあるので、その特性を知って、うまく品物に生かさないと性能が充分に発揮できないことになります。