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恒温変態曲線について

鋼を焼入れ中に品物を一定温度に保持して、そしてその温度の状態で時間が経過すると、パーライトやその他の組織に変態します。

これをいろいろな温度と時間についての変化を表すと、下図のように、その形がSに似た形になるものが多いので、これは「S曲線」といわれます。

また、この「S曲線」は、「TTT曲線」、「時間・温度変態図」とも呼ばれます

共析鋼のTTT曲線の例

この図は炭素鋼(共析鋼:約0.8%C)の例です。

これは、ソルトバスなどで適当な温度に保持して、一定時間が経過すると、温度域の違いによって、オーステナイトがその他の組織に変態するということを示したものです。

この図の作り方は、その変態時点の温度と時間をプロットして作られています。

たとえば、焼入れのための加熱温度(図にオーステナイトと書いてあるところ)から急冷して、410℃または300℃に保持して、時間が経過すると変態(組織変化)する様子が示されています。

たとえば、点線のように急冷する途中で、550℃のソルトバスに入れてその温度で保持すると、1秒以下でパーライト変態が始まり、5~6秒で、すべてがパーライト組織になるということがこの図で示されています。

また同様に、点線に沿って急冷して300℃で保持すると、1分程度で変態が始まり、20分程度でオーステナイトがベイナイトに変態します。

変態の完了後は、空冷しても水冷しても、その他(例えば、マルテンサイトなど)の組織に変態することがありません。

すなわち、この図中に書かれた組織や硬さは、常温のものです。

蛇足ですが、通常のS曲線では、パーライート・ベイナイト変態完了後の冷却過程などは表されていませんが、変態後は、どんな冷却でもいいというです。

少し詳しいこの特殊な図の見方

もう一度、図のBs-Bf点線を例にとって、図の見方を説明します。

これは、およそ800℃の焼入れ温度から420℃の熱浴中に試験片を急冷して保持すると、約4秒後にべーナイト変態が起こり、 1分少々でその変態が完了するということが示されています。

そして、その後いくらその温度に保持しても、また、常温まで冷却しても、組織の状態は変わらない … ということです。

そして、420℃の状態で十分に時間が経過してから常温まで冷却してから、その硬さを測るとHRC40程度になっており、その組織を観察すると、羽毛状のベイナイトという組織になっている … というようにこの図を読み取ってください。

蛇足ですが、高温の状態での組織や硬さではなく、この図では、恒温変態が完了してある適当な時間が経過してから、常温まで冷却したときの硬さや組織の呼び名が示されています。

これは説明用の図ですから、通常の恒温変態曲線(S曲線)には、変態後の硬さや組織は示されていないのが普通です。

通常のS曲線では、Ps、Pf、Ms だけが示されているものが多く、 その他の情報は示されていないのが通例です。

ここで、550℃付近で左にせり出している「S字」の出っ張りを「パーライトノーズ」と言います。

パーライトノーズについては、熱処理講習会などでは、「焼入れの際にパーライトノーズにかかるような冷却をすると、 十分に焼が入らない … 」というような説明をされます。

つまり、この図では、800℃程度から冷却を開始して、1秒以下で550℃以下に冷却しないと、一部がマルテンサイトにならずに、 柔らかい組織が出てくる … ということになります。

実は、この図は熱処理的にはおかしな図です

しばしば、熱処理の解説で、この上の図のように、S曲線に冷却過程を書き加えた図を用いて説明されます。

でも、S曲線は、そもそも、冷却過程の概念がありませんから、この図のように、冷却を含めた説明図としてはおかしい使い方です。

しかし熱処理の説明用に、(等温ですが)変態するということを理解しやすいために、このようにS曲線が用いられています。

あくまでも、説明用の図だということで、この冷却線が加えられた図を見てください。

S曲線は何の役に立つの?

たとえば、油冷する焼入れを例にすると、時間とともに温度が降下するので、この恒温変態図のような変態とは異なります。

むしろ、恒温変態させるのは特殊な熱処理ですから、なぜS曲線が使われるのかが疑問になっている方も多いかもしれません。

私自身もそうですが、私は、「説明しやすい熱処理線図がなかったから … 」だと、勝手に思っています。

パーライトノーズにかからないような冷却をすることや、反対に、十分な硬さに焼入れできなかった場合は、冷却が遅いことを理解するためのものだとしたら、むしろ、連続冷却曲線(CCT曲線)のほうが実際に近い感じです。

しかし、CCT曲線はすこし複雑な図なので、少しわかりやすい、上図のようなS曲線が説明に使われていると勝手に思っています。

CCT曲線は、残念ながら、たくさんの鋼種のものが作成されていません。

これは、「連続冷却」という特殊な試験方法なので、装置も特殊で結果も不安定なのかもしれません。

それに対して、S曲線は、ソルトバスなどで安定的に試験ができることもあって、いろいろな成分の鋼について公表されています。

これらで、S曲線のほうが説明しやすいということから、上図のような説明になるのだろうと思っています。(あくまで個人的な考えです)

マルテンサイト変態について

最初の図中の「Ms」はマルテンサイトが生成し始める温度を、また、Mfはマルテンサイト変態が完了する温度を示しています。

マルテンサイト変態は、時間変態ではなく、温度変態です。

つまり、これがS曲線に示されているのは、上図でいえば、2分程度以内に220℃程度に品物の温度が低下しておれば、時間に関係なく、温度が低下するにつれて安定的にマルテンサイト量が増えて硬化するということです。

ただ、Ms点についても、本来は、この恒温変態図は温度を一定に保持したときの変態状態を示すものですので、このMs点以下の温度の挙動についても、「ただ示してあるだけ」ということになります。

しかし、これがあると、役に立ちます。

そこで改めて、S曲線をみてみましょう

そうすると、この図では、①パーライトノーズにかからないように冷却するとマルテンサイト変態が起こって鋼が硬化すること、また、②パーライトノーズにかからないように冷却後に、適当な温度で保持して等温変態をさせると、その温度に応じた組織と硬さになる … という程度のことだけですが、このS曲線でわかります。

Ms点が示されているので、熱処理操作に役立ちます。

たとえば、その温度付近で冷却速度を制御して、焼割れや変形をコントロールするために使えますし、また、マルクエンチ(Ms点の直上付近の温度で品物を保持してから冷やす恒温熱処理の一種)の温度なども、Ms点を基準にして保持温度を決めますから、近い成分の鋼のS曲線を探してみて、Ms点がわかるだけでも、使い道があります。