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旧JISの硬さ・JISの硬さ

構造用鋼の調質硬さや焼なまし硬さについて「JIS硬さ」という言葉がしばしば聞かれます。

このような用語はJISにはありません。

慣用的に用いられる言い方(用語)ですから、間違いがあるといけないので説明します。

過去のJIS参考資料にあった硬さのこと

現在のJIS規格には調質硬さや焼なまし、焼ならしなどの、標準的な熱処理をした時の硬さなどの参考資料は掲載されていません。

しかし、過去の鉄鋼JIS規格には、構造用鋼などについて、標準熱処理をした場合の機械試験値や硬さが掲載されていて、その硬さ(硬さ範囲の値)は慣例的に「JIS硬さ」と呼ばれていました。

ここに掲載された数値は、小さな試験片を用いて、JISに示された標準的な熱処理を行うと、以下の表のような機械的性質(の試験結果)になる … という参考値ですが、この数値は、しばしば、熱処理を依頼する場合の硬さ値に使われることが多くありました。

構造用鋼の機械的性質例

この表の右端の硬さ表記がそれで、現在、JISの規格表にはこの表は含まれていません。

たとえば、S45Cの調質硬さは、ここにあるように「201~269HB」ニシタください … というように使われていました。

これは非常に便利なものです。 しかし、現在のJISハンドブックを見ても、次第に掲載されなくなっています。

このために、「JIS」に掲載されていないために「旧JIS」というような言い方をされていることもあるのですが、現在でもこの表中の硬さを「JIS硬さ」という人もいて、一つの指定の硬さの基準値として、脈々として引き継がれてこれらの硬さ値が残っています。

JIS規格を集めた古い版のハンドブックの鉄鋼や熱処理編には、機械構造用鋼(S-C材、SCM材など)の、標準熱処理条件で熱処理(焼なまし・焼ならし・焼入れ焼戻し)した時の機械的性質(引張試験・シャルピー試験の値)と「ブリネル硬さ範囲」などが掲載されていました。

しかし、それが掲載されなくなってからも、それに変わるデータもないこともあって、熱処理現場などでは、有用なデータですから、現在でも生きています。

この数値は、小さな試験片を用いて製作されたデータであるので、特に、焼入れ性の高くない構造用鋼では、実際の(大きな)品物を熱処理した場合の数値が乖離してしまいます。

だから、これを使用して混乱や間違いがおこらないように … という理由で掲載されなくなったところもあるのかもしれませんが、それに変わる熱処理データもないので、これが掲載されなくなって少し残念です。

S40Cの熱処理特性例S45Cの特性例1 S40Cの熱処理特性例S45Cの特性例2
S40Cの熱処理特性例S45Cの特性例

これらは大同特殊鋼さんのハンドブックに掲載されているものから引用したものです。

大同特殊鋼さんは、さすがに素晴らしい材料メーカーで、これらのデータを主導して作成していた会社なので、胸を張って掲載できるのかもしれません。 山陽特殊製鋼さんも自社製造鋼種のデータを掲載されています。

「JIS硬さ」は変な感じの言葉ですが

昭和年代末期まではこの古いJIS規格値は、構造用鋼の全てにわたって掲載されており、たとえば、焼入れ焼戻し(調質)した時のブリネル硬さは「S45C 201~269HB」「SCM435 269~321HB」などのように、鋼種ごとに標準熱処理をした時の参考的な硬さ値などを当時(昭和40年代)から、私の知っている限りで「JIS硬さ」という呼び方がされていました。

特に要求硬さが示されなくても、これが標準的な硬さ(硬さ範囲)として用いられていましたし、それで大きな問題も起こっていなかったということで、当時は「良き時代」だったのかもしれません。

もちろん、「調質」と言えども、機械構造用鋼のほとんどは質量効果(品物が大きくなると小さい品物と違った性質になること)によって、中心と表面の硬さや組織などは異なるので、そこに示された機械的性質と熱処理をした品物の値とは同等にならないのですが、この硬さ値は一つの標準的な取引指標(硬さ指標)になっていたことは確かです。

JIS工場(=JISマークの表示許可工場)などでは、その表示許可工場ごとに品質標準を作ることを要求されるようになって、JISに掲載されていた硬さのとらえ方も変わってきたのですが、決してこの「JIS硬さ」は、消えずに、現在でも、熱処理硬さを決める一つの目安にするのが便利なので、その値が脈々と残っています。

「JIS硬さ」といわずに「旧JISの硬さ」と表現されていることもありますが、同じものです。