JISに規定される機械試験や硬さ試験と違って、熱処理の焼入れ温度と硬さを調べるための熱処理用試験片については、特に規定がありません。
通常は、質量や形状で結果が左右されない、小さな試験片が用いられています。
そして、特に規定がないので、鋼材メーカーごとでも違っていていることを知っておくのがいいと思います。
さらに、古くからある、現在利用されている機械構造用鋼などのデータの多くは1975年以前のものですから、当時の試験の詳細もわからないものもたくさんあります。
もちろん、それらは、試験の詳細がわからなくても問題なく、現在も昔のデータが使用されているのですが、例えば、そのデータと比較するために、新しく何らかの試験をする場合などは、試験片の取り方、試験片の大きさなどの条件が違うと、全く違った結果になることもあります。
比較ができるように小さな試験片を使うのが一般的
機械試験と違って、熱処理の焼入れ焼戻しなどの関係する試験は、小さな試験片で試験されています。
S45CやSCM435などの機械構造用鋼の焼入れ(調質)関連の試験片は、焼入れ時に質量(大きさ)の影響を受けないように、10~15㎜径程度以下のものが使われます。
そして、工具鋼などの焼入れ性のいい鋼種でも、ほとんどは10mm角や10mm丸程度の試験片が使われています。
私が試験をする場合は、多くはプロテリアル(旧日立金属)さんのやり方に合わせていました。
これで特性が比較しやすくなるのですが、それでも、同じ条件ではないので、絶対的な値というものではありませんし、得られる値は全く同じにはなりません。
つまり、こうなると、絶対値での比較はできないので、「比較値」から結果を評価していく必要が出てきます。
試験片の規定がある試験もある
例えば、熱処理変態の様子や寸法や硬さ変化を調べる試験では、「フォーマスター」という装置を使って試験されることが多く、試験片サイズで冷却状態が変わるので、これには3㎜径x10mmという小さな試験片が使われます。
また、このHPでも紹介している大越式迅速摩耗試験機の場合も、摩擦距離を合わせる必要があるので、取説に書かれています。
その他、高い硬さでシャルピー試験をする場合は、プロテリアルさんのように、10Rノッチを加工して試験をするなどもあります。
試験や試験片についての規定があれば、それに沿っておかないといけません。
熱処理が加わる機械試験は注意が必要
機械試験(引張試験や衝撃試験など)については試験片の形状が規定されて、試験方法などもJISに基づいて行います。
しかしこれについても、試験片の寸法形状や試験方法が決められているだけです。
熱処理の成果(例えば引っ張り強さや衝撃値)の評価が加わって、材料や熱処理の優劣を評価する場合は、JISに決められた寸法形状以外に、試験片の採取方法などを決めて試験片を作らないといけませんが、しかし、意外とそれが抜けている場合も多いのです。
例えば、シャルピー試験や引張試験をして機械的性質を試験したい場合は、材料の採取位置や材料の方向を考える必要があります。
また、大きな製品から小さな試験片をとる場合は、鋼材の製造履歴が違うので、カタログ値のような値にならないことにも注意しておきましょう。
JISに試験片の詳細が規定されているというものではありませんので、独自に検討して、熱処理の影響を考えた試験をする必要があります。
メーカーが違えば試験方法が違っている
鋼材メーカーでは長い経験に基づき、独自の方法で試験をしています
そして、メーカーのカタログなどに示されている値は、特にJISなどの規定がない場合には、試験結果が安定した「良い結果」となるように、メーカー独自に試験されています。
そこで例えば、品物から試験片を採取して熱処理試験をしようとする場合(これを実態試験といいます)はカタログ値と大きな違いが出るのは当然です。
メーカーが熱処理の基準になるデータをとるための試験片は、十分に鍛錬して均一になるようにした鋼材を使って試験片作ります。
だから、極端に言えば、鋼材メーカーの試験は特殊なもので、試験片の採取の仕方が違えば、試験値も違ってきます。
工具鋼の場合でも …
焼入れ性の良い工具鋼についても、各メーカーでの試験片の取り方や試験方法が同じではありません。
ともかく、熱処理温度を変えて硬さを調べる熱処理試験では、決められた方法で作られた鋼材から、φ15程度以下、又は15角程度以下の小さな試験片を用いて試験されているものが多いようです。
これも、もっと小さなものでも良さそうですが、熱処理温度特性(焼戻し温度と硬さの関係)などを調べる場合は、数十回硬さ測定をするために、このような寸法に落ち着いていくのでしょう。
そして、メーカーのカタログにあるような数値は正しい言える値です。
しかし、市販されている材料を使って自分で試験をしても、同じような値にならない場合もでてきます。
つまり、高合金の特殊鋼(工具鋼)なども、大きい鋼材から試験片を取る場合は、品物の表面と内部で成分や品質が異なっているのは避けられませんし、また、焼入れ性が非常に高くても、試験片の採取位置や熱処理時の質量効果の影響なども出てきます。
だから、メーカーのカタログ値にあるような小さな試験片の結果と、別に試験した値を対比しようとしても、メーカーの数値と同じようにならないと考えているのがいいでしょう。
実態の品物から試験片を取る場合は、もっと、違った結果になります。
熱処理後の検査では、普通は表面硬さの検査だけなので、硬さ検査した時点では、内部の状態はわかりません。
だから、実際の品物から試験片を切り出せば、メーカーカタログ値とは違っているのが当然です。
それらもあって、メーカーが公表しているグラフやデーターも絶対的なものでないのですが、試験にはすごいコストや労力がかかっており、それで得られた貴重なデータといえます。

