組織とは

説明の中では、しばしば「組織」という用語が出てきます。
このHPでの「組織」は、断りがなければ、「金属顕微鏡組織」のことをさしています。

組織を見る場合は、「光学金属顕微鏡」を用います。

これは、小学校で実験に用いた、光を通して観察する透過型の光学顕微鏡とは異なり、見ようとする金属の表面を鏡面になるように磨き上げて、適当な腐食液を用いて腐食し、それに光を当てて反射した像を観察するものです。

通常は対物レンズと接眼レンズを組み合わせることで、50~1000倍程度の倍率で観察できるようになっています。

近年、デジタルマイクロスコープなどは、3000倍を超える倍率で観察できるようになっています。
ただ、機器が変わると同じ見え方にならないことを頭に入れておいてください。

組織の観察では100から400倍程度の倍率がよく用いられます。

近年は、「倍率」を表示せずにスケールを写し込んで大きさを表示することが多くなっています。
スケールを写し込んだ顕微鏡写真例(スケールを写し込んだ例)

最近の機器では、この機能が付加されているものもあり、さらに、デジタル写真になったために、写真に撮るときの倍率や印刷時の倍率変化にも対応できて正確な倍率がわかることから、今後はその傾向になっていくでしょう。

この倍率について、たとえば400倍の場合は、1mm÷400=0.0025ですので、0.0025mmが1mm程度の大きさになって見えるということです。

そして、スケールを写真中に写しこんで寸法表示をする場合では、例えば50μmのスケールが10mmの長さで見えていると、倍率は、10÷0.05=200倍ということになります。

上の写真の例でいえば、(画面表示のため、寸法はいい加減ですが、たとえば)100μmのスケールの寸法が18.5mmだとすると、18.5÷0.1=185(倍)になります。

しかし、現実的には、レンズの解像度などもあるので、たとえば、400倍の倍率では、0.01mm程度の大きさの対象物が判別できる程度・・・というように考えておくのが良く、倍率が高いと小さいものがはっきり見えるということでもありません。
高倍率が使われないのも、そのような理由からでしょう。

一般的に金属顕微鏡の場合は、対物・接眼レンズを替えて倍率変更をします。

倍率は、「接眼レンズの倍率x対物レンズの倍率」で、使用する倍率は、50 100 200 400倍という区分けになるので、細かい倍率の違いは、普通は意識するほどのことではないでしょう。


金属顕微鏡マイクロスコープ

上記は、いずれも当社の設備で、左は金属顕微鏡、右は、デジタルマイクロスコープです。

これらの最近の機器は、パソコンで画像処理することによって、表面角部の研磨ダレなどを補正できるほか、最表面部の組織や刃先などを立体的に表示することなどもできますので、非常に多くの情報が得られるようになりました。


顕微鏡試料

金属顕微鏡では、大きな面の組織を広範囲に見ることはできません。
そのために、大きな品物の場合は、見たい部分を切り出して小さい試料にして観察しますが、さらに、扱いやすいように、樹脂に埋め込んでそれを観察します。

これらの一連の作業では、大きな品物から試料を切りだすまでに時間と手間がかかります。

当社の場合は、破損原因の調査などの機会も多いので、大きな品物は、溶断、ワイヤカット放電加工機、高速砥石切断機、マイクロカッターなどの機械を使って小さい試料を削り出します。

その際に、観察位置や結果として予想される組織をイメージしながら、大きい品物から顕微鏡で見ることができるような小さい試料を作成する作業をします。

それを樹脂などに埋め込んで、観察しやすいような状態に成形することが多いのですが、フェノール樹脂などの熱硬化樹脂では150℃程度の熱を加えるために、 熱の影響を受けてはいけない品物の場合には、エポキシ樹脂などを使って熱が加わらないようにして埋め込む必要があります。


試料研磨

樹脂などに埋め込むのは、作業をしやすくするためで、その後に試料の表面(検鏡面)を、研磨紙の番手を変えていって、鏡面になるように仕上げをしていきます。

エメリーペーパー(研磨紙)の番手の粗いもの(#120番)から順次細かい番手を用いて、磨く方向が直交するように磨いていって、最終的には、#1500から#2000番程度の研磨紙で磨くと、ほぼ顔が映る状態になります。

それをさらに、アルミナの懸濁液を用いて湿式でバフ研磨すると、最終的には研磨目のない鏡面に仕上がります。

この作業は、単純作業ですが、熟練が必要な難しい作業です。
また、試料研磨のための専用機械もありますが、数個程度では、手作業のほうが早い状況です。


腐食

非金属介在物や炭化物分布、割れの進行具合などは、そのままの鏡面を金属顕微鏡で観察します。(これを「無腐食(ノンエッチング)」という場合もあります)

通常に組織を観察する場合は、適当な腐食液で観察する表面を腐食してから観察します。

腐食液によって金属の表面を腐食をすると、組成の部分ごとで腐食の進み方の違いが出ることを利用して、表面に凹凸を作ります。
それが模様(組織)として観察出来ます。

腐食液については、鉄鋼製品には、当社では、3%ナイタール(硝酸3%のアルコール溶液)を使用することがほとんどです。

ステンレスや腐食しにくい焼入れ状態の鋼は、王水(硝酸と塩酸の混合液)や王水とグリセリン混合液などを使うことが多いのですが、特殊な場合には、電解研磨をしたり、 その他の腐食液を用いて観察する場合もあります。

腐食液によっても、組成ごとの腐食程度に差が出ますので、かなり組織の様子が変わります。

そのために、できるだけ同じ腐食液で見るほうが違いがわかりやすいのですが、それでも、観察は、経験や慣れが必要な作業です。

このように、多少見にくくても、同じ腐食液で比較するといろいろな違いを見分けられることが多いために、まず、ナイタールで腐食して、目的によって腐食液を変えるというようにすると良いでしょう。


この腐食液の多くは強酸性のものが多いので、危険ですので、薬品に対する知識を得た上で使用しないといけません。

また、保管取扱い確実にするとともに、廃液の処理なども環境・安全に配慮することが必要です。


観察

観察では、金属顕微鏡を用いる場合は、通常は 100~400倍程度の倍率が使用されます。

熱処理に関する顕微鏡観察のうち、結晶粒度、介在物、脱炭試験などの特定試験項目については、JISなどに定められた方法にそって行います。

熱処理状態の判定などでは、 あらかじめ標準的に熱処理された試料(組織写真)との比較をすることになります。

金属顕微鏡では、高倍率になると像が暗く不鮮明になるので、高倍率で観察したい場合は、 デジタルマイクロスコープ(3000倍程度の観察が可能)や電子顕微鏡などを使います。

しかし、これらも、高倍率で見ることができますが、金属顕微鏡とは違った見え方をします。そのために、標準写真の整備をすることも必要ですし、いずれにしても、経験と熟練を要します。

特に、試料の調製や腐食技術は重要で、例えば、品物の切断面(端部)を観察する場合などは、ダレてしまわないように研磨するテクニックや腐食程度の見極めなどは経験を要する作業ですので、時間をかけて練習するなどで熟練します。

近年では、それらを軽減するために、顕微鏡等に付属するデジタル画像修正アプリなどを利用して、広範囲にシャープな観察ができるなど、非常に便利で使いやすくなっています。


ただそれでも、先にも述べたように、組織の見え方は、腐食液の種類や濃度、腐食時間、温度などによって非常に変わるので、見たい状態を作り出す技術は熟練が必要なのは変わりません。

これもあって、組織写真を見る場合には、常に、鋼種、熱処理の経緯、試料の調製の状態、腐食条件、使用機器と倍率・・・などに注意を持っておく必要があります。

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熱処理品の調査について

焼き割れや使用中の早期破壊などで熱処理の異常が疑われる場合には、外観観察、寸法検査、硬さ検査 などとともに、組織観察が非常に役立ちます。

そのために、熱処理における異常の可否を見ようとした場合には、組織を調べる前に、

①割れの位置や割れ起点について外観を観察すること 
②寸法測定をして、 どの程度変形変寸しているのかを確認すること 
③硬さ検査では、現物の広い範囲で硬さ検査をして硬さ分布を詳しく調べる・・・

などはもちろん、品物を切断して断面の硬さ分布を測定したり、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて、表面からの微小部分の硬さ推移などを測定すること・・・などを済ましてから、顕微鏡組織を観察する・・・などの手順が一般的です。

【破損品の原因調査における注意点】
当社での過去の調査例を見ますと、①材料の異常 ②熱処理の異常 ③設計や使い方の問題 ④不明 などが報告されています。

しかし、これらの調査結果の異常事項は、破損原因の可能性が高いと考えられるものを推定・特定しただけのものであって、それが真の原因かどうかは別なのですが、調査報告をしたことで、予期しないような製造責任問題や賠償問題に波及することもありますのでそれを念頭に置いておかないといけません。

「調査」と言うと、破損した品物の原因を探り当てるという意味合いが強いのですが、割れたり破壊するのは、品物を使ったからであり、そして、内部応力または外力が、材料の持つ能力を上回ったことによる結果といえます。

さらに言えば、完全無欠の組織などはありえません。

近年は、検査機器などがよくなって、どんな小さな異常や欠陥も発見できてしまうのが現実で、検査の専門企業が先端機器を用いて検査すると、小さな欠陥も現出できてしまいます。

だから、破損の原因などを考える場合には、例えば、品物から製造過程の不具合や品物自体の異常を調べるだけでなく、材料取りの方向性などの加工工程設計の問題、製鋼の工業的限界を含めた材料の製造上の問題、鋼種上の一般的品位との比較などの製鋼上の限界の問題、設計上の問題点・・・などを含めて広範囲にみる必要性や、再現試験などをすることも考えて慎重に試験調査を進めなければならないことはいうまでもありません。


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顕微鏡組織

しばしば紹介される顕微鏡組織の多くは、「標準組織」という状態を示しているものが多いようです。

ここでは、標準的な組織の一例として、山本工具化学研究社と日立金属の組織写真を引用して標準組織の一部とその熱処理条件などを紹介しています。

しかし、鉄鋼製品の実物の組織では、このような「標準組織」になっている場合はむしろ異例なのです。

品物の大きさによっても、また、鋼材の成分によって熱処理組織は変わります。
また、表面と中心では組織が完全に異なっているのは普通ですし、観察する面(検鏡面)の試料採取位置や圧延方向の違い、腐食の方法などで、まったく別の組織に見えてしまいます。
標準的な組織になる方が稀といえるのかもしれません。

このために、たとえば、実際の品物の組織を見る場合には、標準組織から標準状態の熱処理組織を知って、その上で、その標準組織との違いから、その品物の熱処理状態(経緯)を考えていく・・・というやり方をします。

とはいえ、標準的な組織とそうでない場合の組織写真を詳しく説明している書籍は、意外と少ないのですが、洋書の Metals Handbook には、特殊な熱処理をした組織などがたくさん掲載されています。興味ある方は一度ご覧いただくといいでしょう。

以下に示した写真も一例で、熱処理条件等の詳しい記述もないし、倍率も正確ではありません。(約350~450倍程度です)

変な説明になるのですが、「標準組織」といっても、1例に過ぎないもので、実際的には、いろいろな熱処理条件と鋼材の大きさなどの熱処理ファクターを頭の中で咀嚼して、その組織が「標準」と同じなのか、違うのか、違うとすれば、それはなぜなのか・・・ということを考えながら判定しているのが現実です。

また、これらの写真の多くは、炭素鋼のうちの共析鋼(SK85相当)で説明されるものが多いので、その他のものがどのようなものなのかということも、かなり奥が深い物になってしまいます。
このような状態であることを理解してから他のものにすすむといいでしょう。
何点かの組織の見かたについて示します。


マルテンサイト組織

マルテンサイト 

共析鋼を水焼入れしたままの状態では、マルテンサイトと呼ばれる、非常に硬さが高い状態の組織になっており、この顕微鏡組織を見るためには、研磨して、さらに鏡面状態にした鋼の表面を、酸(この場合は、ナイタールと呼ばれる硝酸アルコール溶液)などで腐食します。

この焼入れ状態の組織は、腐食がされにくい組織であるので、これを180℃前後の低温の焼き戻しすると、焼戻しマルテンサイトという、組織的には見た目にはほとんど変わりませんが、やや腐食されやすい状態になります。

焼入れ温度と冷却が適当であればこのような均一組織となり、64HRC程度以上の硬さが得られます。

マルテンサイトは細かく、針状で、かなり冷却が速くなければこの写真のような均一の組織は得られません。つまり、通常の品物では、このような組織にするのは難しいでしょう。

また、ナイタールは、当社では硝酸濃度が3%程度の薄めのもので長めの時間で腐食するようにしていますが、濃度や時間によっても組織の見え方は変わります。


マルテンサイトと残留オーステナイト

マルテンサイト+残留オーステナイト

1.1%Cの炭素工具鋼(過共析鋼)を通常の焼入れ温度(800℃)よりかなり高い温度(1030℃)から水焼入れした組織です。

ナイタールで腐食をすると、 加熱温度が高いので、組織は粗い感じになって、未変態の残留オーステナイト(白い部分)が多く見られます。

この写真からは、結晶粒が粗大化しているかどうかの判定はできませんが、 硬さは、正常な組織のものに比べて低下していますので、それで「残留オーステナイトが多くなっている」という判定をすることもできます。

これを焼戻し(200-400℃など)をしますと、オーステナイトの一部がマルテンサイトになる場合や焼戻し温度によって組織は変化していきますが、粗くなった組織は改善されません。

高すぎる温度で焼入れすると、変形や硬さムラの原因となり、最高硬さも低下します。


マルテンサイトと球状セメンタイト

マルテンサイト+球状セメンタイト

上記と同様の1.1%鋼を適正焼入れ温度で水焼入れした組織です。

C量が飽和している「過共析鋼」のために、未溶解の炭素は白い粒となって見える炭化物 (セメンタイト:Fe3C)となって残ります。

この試験片の硬さは焼入れしたままでは65HRC以上ですが、本来、炭素鋼は焼入れ性が低いので、厚さが10mm程度以上の品物になると、冷却が遅くなって、内部は不完全焼入れとなり、このような組織にはなりません。
少し品物が大きくなると、硬さも低下し、組織も変化します。


パーライト

炭素鋼を、指定された水冷などではなく、油冷など、ゆっくりとした冷却になると、マルテンサイトではなく、トルースタイト、ソルバイト、パーライト などと呼ばれる層状組織になります。

また、これらの組織は、完全に焼入れされたマルテンサイト組織を焼戻しで温度を高めていくことでも層状組織になります。

そのために、焼戻しの熱処理説明においては「焼入れ状態から焼き戻し温度を上げていくと、 ***に示すソルバイトなどの組織に変化していく」と言うような説明をされます。

焼入れ時の冷却速度が遅くなった場合には、マルテンサイト量が減るにつれて、 パーライトの層状が細かいトルースタイトと呼ばれる組織や、その層状が少し荒くなったソルバイトと呼ばれる組織になります。

これらの組織は固溶体での変化ですので、セメンタイトという炭化物とフェライトと呼ばれる純鉄に近い組織が層状になって現れますが、組織の違いはその層間距離が変わっているだけです。しかし、見た目には全く違いますし、硬さの変化もあります。

SK85の鋼材を購入した状態(焼入れをする前)は、通常、焼なましされており、機械加工がやりやすい状態になっています。

この時の組織は、パーライトと呼ばれ、ソルバイトやトルースタイトよりも、さらに荒い層状組織になっています。

この組織を拡大してみると、柔らかい部分はフェライト、硬い炭化物部分をセメンタイトと呼ばれる組織になっているのを観察できます。

ツルースタイト   ソルバイト 
 トルースタイト          ソルバイト      
パーライト   パーライト 拡大 
 パーライト            パーライト(拡大)

上記は、共析鋼の場合ですが、例えば、共析鋼より炭素量が低いS45Cなどの鋼(亜共析鋼)では、オーステナイト状態(約800℃程度)からの焼入れをすると、 成分量に応じて、フェライトの結晶と共析成分の結晶が析出します。

S45C焼ならし組織

写真はS45Cの空冷組織で、白い部分がフェライトで、共析成分の部分はフェライトとセメンタイトが層状組織が見えています。

これが、空冷ではなく、 水焼入れをすると、その共析部分がマルテンサイト変態することになります。(白いフェライト部分は残ります)

ここでは、ミクロ的な硬さの違いがある状態になっていて、マイクロビッカース硬さ計などで微小部分の硬さを測ると、白い部分(フェライト)は黒い部分よりも低い硬さになっています。

このフェライトは、初析のフェライトといい、硬さは、柔らかい組織ですが、言い換えれば、色の濃い残りの部分の組織の違いで、硬さ(ロックウェル硬さ計などで測った硬さ)が変わることになります。

つまり、マイクロビッカース硬さ計で、各部の硬さを測定すれば歴然とした硬さの差がわかりますが、ブリネルやロックウェル硬さでは、平均的な硬さとして測定されることになります。

この組織では、白っぽい部分や黒っぽい塊の部分がオーステナイトであった時の名残を示す結晶粒が見えています。

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工具鋼の組織の例:SKD11

工具鋼の多くは、含まれる合金元素の種類や量によって、バラエティーに富んだ組織が観察されます。
ここでは、SKD11(日立金属のSLD)の例を紹介します。

SLDは、炭素量が1.5%ですので、素地(マトリックス)に溶け込まない炭素は、炭化物となって、組織中に点在しているのが見えます。

これは、共晶炭化物と呼ばれるもので、製鋼の際に析出したものであるので、焼入れ温度程度の温度では変化しない、非常に硬いものです。

この硬い炭化物が耐摩耗性を発揮するのですが、工具の寿命は、硬さ(耐摩耗性)はもちろん、じん性などのネバさが重要ですので、それを確保するためには、焼戻し硬さとともに、焼入れ状態の温度の管理が重要です。
焼入れ・焼戻し状態が適正であったかどうかを組織によって判定することができます。

SLD(日立金属カタログから)①低温焼入れ

SLD(日立金属カタログから) 
①低温焼入れ:焼入れ温度が低い組織


SLDの適正焼入れ温度は980-1050℃とされていますが、これは900℃の焼入れ組織です。

極端に低い温度や温度保持が不十分であれば、炭化物(大きな白い塊=共晶炭化物ではなく、共析炭化物と呼ばれるもの)が十分に溶け込まないことで、焼入れ時の硬さが低くなります。また、炭化物量も適正温度での焼入れよりも多いために、 素地(マトリックス)強度が低く(つまり、焼入れ硬さが低く)なります。


SLD(日立金属カタログから)②適正温度での焼入れ組織

②適正温度での焼入れ組織

上の写真と比べて、共析炭化物が溶け込んだ状態で、これが標準的な組織とされます。
標準的な組織になる温度範囲であっても、一般的には、適正温度範囲内では、低めの温度をとることで「じん性」が高くなり、 高めの温度では「耐摩耗性」が増す傾向になると説明されています。

焼戻し温度を調節することによっても硬さの調整ができますが、焼入れ温度は大切です。
この組織のように焼入れすると、硬さは最高になり、64HRC以上になります。

白い粒は、鋼塊をつくる際に溶鋼が凝固する際にできた「共晶炭化物」です。これが非常に硬いので高い耐摩耗性を付与します。

>SLD(日立金属カタログから)③加熱組織

③過熱組織:焼入れ温度が高すぎる組織

SLDを1100℃で焼入れした組織です。
焼入れ温度が1050℃を超えると、結晶粒が粗大化し、残留オーステナイトが多くなります。

全体に白っぽい組織になっていますが、正常焼入れ組織に比べて2-3HRC硬さが低下します。

このようになると、正常な温度で焼入れしたものに比べて、じん性値も低くなっています。(もちろん、じん性値は、別の試験をする必要があります)

この組織のように、一度高温に過熱(over heat)したものについては、「完全焼なまし」で結晶粒の調整をしようとしても、均一な微細な組織に改善することはできません。

そのこともあって、焼入れ温度には注意する必要があります。(過熱した組織を改善する一つの方法は、鍛造などによらなければなりません)


(注)このページの写真の一部は下記より引用させていただいています。
写真の一部を使用していますので、原本の倍率とも異なっています。
組織の説明のみに使用していますので、 詳細は原本を確認ください。
上3枚 山本化学研究社 S47年 改訂4版 標準顕微鏡組織 第1類 標準片番号6・11・12 
下3枚 日立金属株式会社 型録番号 HY-B6-c P.17


そのほかの組織関連用語について

ここでは簡単に、熱処理異常、鋼材異常などを金属組織によって、その異常を見る場合について、簡単に示します。

基本的には、熱処理の異常があるかどうかは、上記の、標準組織との差異を見ることになります。

その場合には、組織観察とともに、結晶粒度、介在物、偏析 などを観察する場合もあります。 (これらについては、JIS規格の試験方法などにありますので、 詳しくはそちらを参照ください)
ここでは、熱処理の知識として 必要な程度の内容のみを説明します。

【結晶粒度】

JISには、フェライト結晶粒度とオーステナイト結晶粒度が示されていますが、熱処理での結晶粒度は、オーステナイト結晶粒度を指す場合が多いと考えておいていいでしょう。

例えば、焼入れの際の加熱で、焼入れ温度が高くなったりや保持時間が長すぎると、結晶粒が増大します。

通常は、粒度番号6以下の、たとえば「4」などの粗粒になると、 熱処理の不適当が疑われますし、極端な粒度が混在する「混粒」と呼ばれるものでは、鍛造・焼なましなどの不適が疑われるということになります。

もちろん、熱処理だけの問題ではない場合もありますし、鋼種的な特徴であるものもありますので、製鋼や熱処理の異常と断定できない場合も多々あります。

【介在物】

一般的には非金属介在物をさし、組織的に好ましくない「異物」です。

組成的には、硫化物系のものと酸化物系のものがあり、いずれも、通常の 鋼では、少ないほうがいいとされます。

快削鋼などのように、それをうまく使うようにしているものもあります。

近年は、溶解や脱ガス技術が高くなっており、通常品種の鋼でも、介在物の異常などはほとんどない状況になっています。

【偏析】
鍛造や圧延材の断面で、製鋼時の凝固組織の不均一さを見るときには、肉眼や低倍率で観察する「マクロ偏析」を観察します。

顕微鏡組織的には、組織の不均一さを見ることで、材料品質を判定する場合があります。

結晶粒界に炭化物や介在物などの異物が集まりやすく、それを見ることで鋼材の品位を確認できます。

顕微鏡を用いて見る偏析は「ミクロ偏析」と呼ばれ、多くは、材料の素性を評価します。

その他には、微小硬さの推移やEPMAなどの分析機器での線分析などを併用して不均一さを判定します。

通常の製鋼では、断面中心の品位劣るのが通常で、それを鍛錬方法や鍛錬比などで操作することで、それを緩和するようににして製造されています。

その程度や限度はいろいろな要素で変わりますので、当社が購入する鋼材で大量に使用するものは「鋼材仕様書」を取り交わすことでその品位を安定化させています。


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(来歴) H30.11.8 全面見直し。 H31.4.14 文章・誤字訂正