レアメタル・レアアース

合金元素は地下資源で、鉱石を産出する国は限られています。その多くは「レアメタル」とよばれているように、資源の乏しい日本ではそれを確保することは重要な問題です。合金鋼の原料に使用する「フェロアロイ(合金鉄)」は、製鋼には欠かせないものですので、政府による備蓄対象にもなっています。

レアメタルのうちで、鋼の合金成分として挙げられるのは、ボロンB、クロムCr、マンガンMn、コバルトCo、ニッケルNi、ニオブNb、モリブデンMo、タンタルTa、タングステンW、などがあります。

フェロアロイの生産は、中国が突出しており、ニュースの種になることもあります。もちろん、日本国内でも加工して製造されていますが、産地や産出量が限定されますので相場が形成されます。さらに、産出国の政治的要素なども加わって、この価格が変動します。

しかし、幸いなことに、 鉄鋼の主要成分であって、その特性を大きく変える、炭素C、シリコンSi、マンガンMn、クロムCr,ニッケルNi、などの合金は、 生産量(産出量)も潤沢で、短期的価格変動はあるものの、価格、量ともに比較的に安定供給されていて、鋼材価格としては大きな変動は少ないといえるでしょう。
これら鉄鋼に欠かせない合金元素は、相場が形成されている不安定な要因があるために、特に合金元素量の多い工具鋼などを作るメーカーでは「サーチャージ」や「エキストラ」という言い方で、 鋼材価格の変動幅を調整する仕組みが出来ています。

次に、レアメタルと並んで、レアアースとよばれる希土類元素がニュースでもしばしば取り上げられています。
比較的、耳にするのは、ネオジムやサマリウムなど、磁石材料などに使用されている元素がありますが、レアアース類の多くも、やはり、中国に産出量の多くを依存しているために、 価格や安定供給に対しては問題があります。

このレアアースについては、その効果が未知の部分も多い状態で、さらに高価で安定供給が難しいとなれば、単価の安い鉄鋼類では使いにくいものですが、もちろん研究されているでしょうから、今後に期待するという状況です。
精錬や製鋼は元来、錬金術のようなものですので、このレアアースは、非常に興味深いものといえます。


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マルテンサイトとオーステナイト

赤熱する温度に加熱された高温状態の鋼は、面心立方結晶構造に変化します。
その組織を「オーステナイト組織」と言います。
鋼を構成する成分によって変わるのですが、それを急冷することによって硬くなったり柔らかくなったりします。炭素量が0.1%を超えてくると、体心正方格子の結晶構造に変わるとともに、硬くなります。この操作を焼入れと言い、その硬くなる部分の組織を「マルテンサイト組織」と呼びます。
また、オーステナイト系ステンレス鋼と呼ばれるものでは、急冷すると常温でも安定なオーステナイト状態のままになっています。この組織は耐酸化性が高いもので、硬さもむしろ低い状態になります。これは焼入れとは呼ばないで溶体化処理という言い方をします。

このマルテンサイトですが、焼入れることによって硬くなっている組織を見つけたドイツ人のマルテンスさんにちなんで「マルテンサイト」と名付けられたようですが、 焼入れしたままで、観察用の腐食液で腐食しにくい状態のものを「αマルテンサイト」、少し温度を上げて腐食しやすくなった組織のものを 「βマルテンサイト(焼戻しマルテンサイト)」と区別されていて、このような変化をさせて鋼を強靭なものに変える操作を焼戻しと言います。

この呼び方の違いは徐々に覚えていけばいいのですが、焼入れしてから(250℃程度以下)までの焼戻しによって、「マルテンサイトが焼戻しマルテンサイトになることで『ねばさ』が増す」 という程度に覚えておいてください。これが大きなポイントで、焼入れしたままの状態で(たとえば、刃物として)使用するのではなく、「焼戻しをして使用することが重要」だという一つの理由です。

焼入れ温度に加熱した状態(これを、「オーステナイト化する」という場合もあります)の結晶構造は面心立方晶ですが、焼入れすることで、 αマルテンサイトの体心正方晶になります。βマルテンサイトは体心立方晶になっているようですので、区別されているのでしょう。

正方晶は、立方晶が伸びて、結晶の最小単位の形が正方形から長方形になったものとイメージしていただくといいのですが、この、オーステナイト状態の高温から、 急冷によって体心立方 (正方)晶のマルテンサイトに変わることで体積が膨張し、さらに硬さが非常に高くなります。(膨張するために内部応力が高くなって硬くなるという見方もできます)

焼入れして品物が常温になっても、 すべてが変態しないで、一部にオーステナイト組織が残るものもあります。

それを「残留オーステナイト」と言いますが、「オーステナイト」はやわらかく展延性に富んでいるために、ショックアブソーバーとなって、じん性(耐衝撃性)が向上しますが、十分硬くならないことやその他の欠点もあります。
焼入れにおける残留オーステナイトは非常に重要な点で、各所でこれについての考え方の説明が出てくるのですが、膨大な内容なので、徐々に理解していってください。

焼入れ時の冷却速度が遅いと、体心立方晶の組織(パーライトなどのマルテンサイト以外の組織)が晶出しますが、「焼入れ」の経過によって、結晶構造や組織、機械的性質などが変化します。
(厳密に言うと、いろいろなことを付け加えて説明する必要がありますし、多くを知る必要があるので、ここではこの程度のイメージで考えておいてください)


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マルテンサイトの話

鋼のマルテンサイトは「硬い」と説明しました。必ずしも、「マルテンサイト=硬い」ではありませんが、鋼の焼入れにおいては「マルテンサイトは硬い」とイメージしておいていいでしょう。

「鋼を焼入れして硬くなるのは、マルテンサイトという結晶構造の鋼が硬い・・・」ということですが、近年「形状記憶合金」や 「加工誘起マルテンサイト」などというニュースでもマルテンサイトというそれに関係する言葉が出てくることがあります.
これについて簡単に紹介しておきます。 

例えば、形状記憶合金(ニッケル-チタン合金が有名)は、焼入のような急冷操作によってマルテンサイト化し、その状態では柔らかいのですが、それに力を加えて変形をさせた後に焼戻しするようにその温度を上げてやると、加工を加える前の形状に戻る・・・という優れものです。

このNi-Ti合金は、形を成型した状態で、400-500℃程度に加熱して冷却すると、その形状を記憶しており、変形を加えても40-100℃程度に加熱すると、記憶した形状に戻るというものです。
このことは熱処理や材料を考えるうえでも重要な内容を含んでいますが、ここでは割愛します。

次に、加工誘起マルテンサイトという言葉を耳にしたことがありませんか?
加工などによって、品物に外力が加えられて変形した時に、オーステナイトがマルテンサイトに変態するという現象などですが、オーステナイト系ステンレスのSUS304を引き抜いたりして、強度の塑性変形を加えると、 一部がマルテンサイト変態し、 硬さの上昇や疲労強度が低下する・・・などの機械的性質の変化が見られます。

これは、加工変形によって一部の組織が加工硬化やマルテンサイトが生じるという現象です。
これはオーステナイト系ステンレスだけではなしに、高合金工具鋼を正規の焼入れをした場合でも数10%のオーステナイトが変態せずに残っているものがありますので、これがショックアブソーバーとなってじん性に寄与している場合もありますが、外力が加わり、塑性変形によってそのオーステナイトの一部が変態すると、局部的にもろい組織ができて、早期に破壊することもあります。

SUS304などでは、再溶体化処理をしてオーステナイト状態に戻してやったり、塑性変形量を考慮してマルテンサイト化をさせないように加工するなどの検討をするとともに、塑性変形させても組織変化しない安定なオーストナイト系の材料を使用することも検討しなければならない場合も出てきます。

焼入れする鋼では、焼入れ時の残留オーステナイトを少なくするために 、焼入れ後にサブゼロ処理をして、残留オーステナイト量を低減することや、 高温焼戻しをして2次硬化する鋼(たとえば、高速度工具鋼:ハイス) などの材料を使用する方法などがあります。

この残留オーステナイトや加工誘起マルテンサイトなどについては、品物の破壊現象の解明や材料強化を考えるうえで興味深い内容といえるかもしれません。


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残留オーステナイト

焼入れした鋼の中に残っているオーステナイトは「残留オーステナイト」と呼ばれます。 

残留オーステナイトが多くなると、①焼入れ時の硬さ低下 ②弾性限の低下 ③経年変化が出やすくなる ④着磁力の低下する ・・・ などの影響(多くは悪影響ですが)がでてきます。
経験的なことですが、ショアー硬さとロックウェル硬さの相関が崩れ、ショアー硬さがでない・・・という現象も経験しています。

適度な残留オーステナイトはじん性を向上させ、ショックアブソーバーとなって、焼き割れや使用中の割れを防ぐという「良い影響」もあると言われていますが、当社で製作している金属せん断刃物のうち、高負荷が加わる刃物については、残留オーステナイトはできるだけ少ないほうがいいと考えており、 刃先のような微小部分に大きな力を受けるものや、変形生じるような力をうける製品は、焼入れ温度の管理や高温焼戻しによってそれを少なくするのことを基本としています。

これとは正反対で、摩擦摺動面などで、残留オーステナイトが残っている品物の最表面が変形を受けてマルテンサイトなどに変わることで、その部分が硬化して、 耐摩耗性が向上するという「加工誘起マルテンサイト」についての考え方もあります。

これについては、CrやNi量の多いステンレス鋼の削り加工時に、急に削りにくくなることを経験することがあります。これには、加工部分の組織の微細化などによるものもありますが、加工誘起マルテンサイトの生成が関係しており、着磁する状況が見られたり、耐食性が低下、破損などにつながることがあります。

この残留オーステナイトについては、未知の問題を含んでおり、非常に興味深いものと言えます。

SLDの残留オーステナイト 日立金属技術資料SKD11の残留オーステナイト量
【焼戻しでの残留オーステナイトの減少】
残留オーステナイトは、焼戻し温度が400℃以上になると分解し始め、多くの鋼種は、550℃以上でほとんどゼロ%ちかくになりますので、 高温焼戻しをする高速度鋼などの鋼種であれば、それを懸念することは少ないと言っていいでしょう。

そのほか、サブゼロ処理によっても減少します。
しかし、液体窒素温度までのサブゼロ処理でも、完全に消失しない鋼種も多いので、 サブゼロ処理での消失を過信しないように注意する必要があります。

当社での特殊な例として、航空機部品などで残留オーステナイトを嫌う熱処理品では、サブゼロと高温焼戻しを繰り返して、 それをほとんどゼロにしているなどの例がありますが、厳密にいうと、完全になくすのは難しく、熱処理費用は非常に高価になります。(下記のサブゼロの項もあわせて参照ください)

ナイフや工具に多用されるSKD11に代表される冷間工具鋼では、 通常の焼入れをして、200℃前後の低温焼戻しをすると20%以上という、かなりの量の残留オーステナイトが残っていますが、その状態のシャルピー衝撃値などが高いことから、硬さとじん性を兼ね備えた、この熱処理条件で熱処理されている場合がほとんどです。

打ち抜き用の刃物などでは、 それが問題になるほど、高負荷の状態ではないと考えていいのですが、ゲージや超精密部品には適当な熱処理とは言えないでしょう。

ナイフや工具に使われる合金量の多い高合金工具鋼では、 Mf点(焼入れによってマルテンサイト変態が完了する温度)が常温付近やそれ以下のものがあるということも残留オーステナイトが多くなる原因の一つです。
さらに、実際の熱処理作業では、割れ(焼割れ)の危険を避けるために、完全に品物が冷えないうちに焼戻しに移行する場合も多いという操業上の理由も加わって、焼入れした後には、かなりの量の変態しないオーステナイト組織が残ってしまいます。

焼入れした後の残留オーステナイト量は、鋼種(成分)によって異なります。上図は日立金属の代表鋼種であるSLD(SKD11相当)の例です。
この鋼種の標準焼入れ温度は1000-1050℃となっていますが、焼入れ温度が高いとそれが増加しているので、絶対に、指定の焼入れ温度範囲を超えてはいけないのが鉄則になります。
また、焼入れ時の冷却速度が遅い場合は、それが増加するというデータもあります。興味ある方は日立金属のSLDの関連資料を確認いただいたらいいのですが、熱処理操作における焼割れ防止対策などで、大きく状態が変化しますので、単純には説明しにくいこともたくさんあって、この残留オーステナイト問題は、いろいろな内容を含んでいます。


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残留オーステナイトは曲者?

当社で、熱処理の仕方(特にサブゼロ処理の方法)による残留オーステナイトの量を調べた実験をしたことがあります。

通常の熱処理をしても20%程度以上残留するとされるSKD11などの冷間工具鋼について、 焼入れ温度や冷却速度を変えた冷却条件で焼入したあと、 Mf点以下に温度で、保持温度などの条件を変えてサブゼロ処理やクライオ処理をしたのですが、 教科書や文献になどにあるような結果にはならずに、 オーステナイトが分解しない300℃以下の焼戻し温度範囲では、残留オーステナイトが完全には消失することはなく、 いずれも、数%のオーステナイトが安定化して残っていました。

多くの書籍には、「サブゼロ処理によって残留オーステナイトをなくす」という表現がありますが、一連の実験では、SKD11やその相当鋼では、いろいろな処理をしても、 それを1%以下にすることはできませんでしたので、「無くなる」のではなくて、特に高合金鋼では、「少なくなる」という表現が無難なところでしょう。

この、液化ガスを使ったサブゼロ・クライオ処理は費用がかかりますので、よほど特殊な要求が無ければ、それに変えて560℃以上の焼戻しで硬さの出る鋼種を検討するほうが、全体費用の面では有利といえるかもしれません。


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ステンレス鋼

ステンレス鋼について、簡単に説明をします。
ステンレス鋼は、「不銹鋼(ふしゅうこう)」や「ステン」「サス(鋼種記号SUSから)」などと呼ばれます。
「さびない」のではなく、「さびにくい」というのが適当な言い方で、赤さびのような「さび」が内部に進行しにくい鋼と言えます。

ステンレス鋼は合金元素のクロムCrやニッケルNiを多く加えることでさびにくくしていますが、JISなどではいくつかに分類されています。

これは、フェライト系・オーステナイト系・マルテンサイト系・2相系・析出硬化系 などですが、ここでは、熱処理して硬くなる「マルテンサイト系ステンレス」と、 さびにくさの代表格の「オーステナイト系ステンレス」を取り上げます。

マルテンサイト系とは、焼入れ焼戻しをして硬くなるさびにくい鋼ですが、その中でも、58HRC以上の硬さの出るSUS440C、さらに、通常の焼入れ条件で61HRC以上の硬さが出る、日立金属のATS34などは、カスタムナイフなどのポピュラーな鋼種となっています。

「オーステナイト系ステンレス」と呼ばれるものは、焼入れと同様の高温から急冷する操作をする(これを「溶体化処理」「固溶化処理」などと言います)と、 マルテンサイトに変態しないで、常温でも安定したオーステナイト状態になる、耐食性・耐酸化性に優れた鋼です。

このオーステナイト系ステンレスのうちで、安価でポピュラーなSUS304は、-200℃程度の極低温に保持すると、マルテンサイト変態してしまいますので、 (Mf点が極低温域にあるということですが)さらに低温特性や耐食性などを高めるためには、さらに炭素量を下げたりNiやCr、モリブデンMoなどを加えた鋼種が数多くあります。
より安定なオーステナイト状態を維持する鋼種は、当然のことながら、高価になっていきます。

【ステンレス鋼の種類】
今日では、過去には「超合金」と言われた鋼の分野のものもステンレス鋼に分類されており、鋼種記号につく番手も、SUS304などの300番台から800番台まであって、 全鋼種は200種類を超えているようです。

ステンレス鋼種の系列が番手で分類されているとわかりやすいのですが、アメリカが発祥の番号をJISでも採用しているために、バラバラで整理されていないので、おぼえにくくて面倒ですが、必要なものは、1つ1つ覚えるしか手がなさそうです。

特性の優れるものはおおむね高価です。
熱処理的に見ると、毛色の変わった高価な析出硬化系に分類されるものがあります。これは、高温から急冷する溶体化処理をして柔らかくした状態で機械加工などで成形後に、焼戻しのような「析出硬化処理」をすると、50HRC以上の硬さが出て、さらに耐食性に優れるものなどもあります。もう少し硬さが出る鋼種が開発されるとナイフ用などの用途も広がりますので、さらなる新鋼種を期待したいところです。

【鋼種名の呼び方】
鋼種の呼び方は、日本では、SUS440Cはサス・ヨンヨンマルシー、SUS304はサス・サンマルヨン、SUS630は、サス・ロクサンマルと呼びますが、この呼び方は、慣れるしかないようなところもあります。

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Ms点・Mf点(えむえすてん・えむえふてん)

焼入れする際に、マルテンサイトが生成される冷却速度の冷却をしたときに、マルテンサイトが出現する温度をMs点(エムエステン)といいます。

一般的には、鋼種の変態点は、鋼材の成分と焼入れ時の冷却速度に依存し、その生成量(マルテンサイトの割合)はMs点の温度以下の温度に依存します。

マルテンサイトに変態させるためには、オーステナイト状態になっている高温(例えば焼入れ温度)から、マルテンサイトが生成する温度域(Ms点以下)までを早く冷却する必要があります。
これについて、その速さや成分を交えて説明すると複雑になりますので、ここでは、 「冷却速度や成分によってマルテンサイト生成量が変化する」という程度に考えておいてください。つまり、 結果的に、常温になってもオーステナイトが残った状態で焼入れが完結する鋼種も多くありますし、 マルテンサイト以外の組織になるものがあるということです。

Ms点を把握することは、熱処理では重要です。特に、大きな品物になると、冷却過程で品物の部位で温度差が出ますので、温度による膨張収縮と、 変態によるそれが重なり合って、曲り、変形、割れなどの発生原因になる要素であるためです。

Ms点は、実験によって測定しているもの(例えば こちらのG点がMs点といえます)や、 例えば、次のような、Ms温度の予測式もあります。(その他にも、たくさんの実験式があります)

Ms(℃)=499-324×(C%)-32.4×(Mn%)-27×(Cr%)-16.2×(Ni%)
    -10.8×(Si%)-10.8×(Mo%)-10.8×(W%) ・・・Rowland&Lyleの式

一般的には、Co以外の合金成分はMs点を下げるように働き、式によって数値は異なりますが、傾向としては、同様で、どの予測式でも、もっと影響の大きい元素は、C(炭素)です。

また、ここでは示しませんが、冷却速度が増すと変態温度が高くなる傾向がありますし、同様の実験式は数多くあって、それぞれ、 実験式に合う範囲の合金量の範囲などが付随しています。大まかな傾向を知るには、十分、利用価値があります。

このMs点に対して、マルテンサイト変態が完了する温度をMf点(エムエフテン)と言います。
もちろん、高合金鋼などでは、Mf点が常温以下になるものもあります。もちろん、完全にマルテンサイトに変態しないで、オーステナイトが残っていたり、 ベイナイトなど、他の組織に変化して変態が完了するものもあります。

これらMs・Mfを測定された鋼種は、あまり多くはありませんが、実験値が示された鋼種から類推して推定することで利用できるでしょう。


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サブゼロ処理・クライオ処理・深冷処理

これらは、いずれも0℃以下に冷却する処理を言います。
一般的には、焼入れのあとに引き続いて0℃以下の低温槽に入れて冷却します。
これによって残留オーステナイトがマルテンサイトなどに変わり ①硬さの上昇  ②精密部品などの時効変形(時間がたつにしたがって、 寸法や形状が変化する現象)の低減 などに効果があります。
鉄鋼の場合は、この処理だけを単独に行うことはほとんどなく、 通常は、焼入れ焼戻しに付随する処理として行います。

一般的には、品物を冷やすためには、液化炭酸ガスやドライアイスを用いて-75℃程度の温度に品物を冷却することが多いのですが、 -100℃以下の温度でのサブゼロ処理を「クライオ処理」または「超サブゼロ処理」と言って区別される場合もあります。
これには比較的安価な液化窒素ガス (-180℃程度まで)を用いる場合が多いようですが、安価といっても、通常の焼入れ以上に費用が掛かってしまいます。

この費用の面もあって、一般品に対しては、ほとんど行われていないのが実情で、ガスなどの冷却材を含めた熱処理費用が高価なので、特殊な熱処理の部類と言っていいでしょう。

残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させるためには、サブゼロ処理を焼入れ直後に実施するのが効果的で、焼入れ後にいったん温度を上昇させたり、 焼戻しまでの時間が長いと、残留オーステナイトが変態しにくくなります。このような状態になることを「オーステナイトの安定化」と言います。

品物を冷却するためのこれらの装置は、低温ガスの場合は専用の冷却槽を用いますが、大きな品物では、簡易的に木枠や発泡スチロールで囲って、 ドライアイスを用いて冷却します。均一に冷却するために、アルコールを併用する場合があります。
アルコールは危険物のために、取り扱い上の問題があるとともに、引火しないような対策が必要になります。

【冷やしバメ】
この冷却操作は、「冷やし嵌め(ひやしばめ)」などにも利用できます。
内径側に来る品物を冷却してはめ込むことですが、異材質を一体化したり、 内径側の品物に圧縮応力を与えて破損しにくくします。
焼嵌めしろ(しめしろ)は、線膨張率と温度差から計算できます。
当社では、作業中の「霜付き」や 「しめしろ」を多くするために、ひやしばめよりも「焼ばめ」を多用しています。この場合は、外形側の品物を加熱することになります。

【冷却における注意点】
冷却中に割れや変形の可能性があります。
冷却速度が速すぎると、応力変化に対応できないで割れが生じる懸念があります。また、鋼が低温になると低温脆性という現象があり、鋼がもろくなります。さらに、常温に戻る際に結露します。あらかじめ、これらについて考えておく必要があります。

【その他の効果???】 
HPなどには、オーディオや電子部品において「クライオ処理」をすると、音質や電気的特性が良くなる・・・という記事を目にします。

当社でも、平成15年頃に無酸素銅線や電気銅線、鋼類などでそれらの効果を実験しましたが、単独に実験した範囲では、銅線類では、温度とともに寸法や抵抗値は変化しますが元の温度に戻ると、それらも元に戻っていましたし、鋼類では、残留オーステナイトの分解による硬さ上昇による摩耗量変化はあったものの、 定性的な評価は確認されませんでした。また、高温焼き戻しした鋼の炭化物量や形状なども差異はなく、この時には、「クライオ効果」の真偽のほどははっきりしませんでした。

しかし、WEBの記事には、クライオ処理を音響機器類にすると音質が良くなるという記事や、海外(アメリカ)では、古くから、クライオ処理のテクニックを含めて慎重に実施すると飛躍的に工具類の寿命が延びるという内容の成果が紹介されています。

これについても、当社では、それで処理した輸入品と当社で処理したものを比較するなどで調べたことがありましたが、 通常のサブゼロ処理における硬さの上昇の効果と残留オーステナイト軽減による効果は認められましたが、使用した寿命などの効果ではばらつきがあって、当時は、その効果を特定することはできませんでした。

【音質への効果?】
使用しているスピーカーコードをクライオ処理して音楽を聴いてみたところ、不思議にいい音に感じる時があります。 プラシーボ効果も加わっているのかも分かりませんし、ご承知のように、「音や音楽」はその時の気分で音の聞こえ方は変わるものですので、こういう内容は、科学的とはいえないので結果の紹介は控えますが、 「音が良くなる」という著名人もおられるので、これを否定することも微妙な領域ですね。いろいろやってみるのもいいかもしれません。

【耐摩耗性や寿命の増大?】
また、実際に、高価な深冷処理(サーモオボンドという処理)をしたペーパーカッターの輸入品と当社で普通にサブゼロをした品物を実機でテストしたことがあります。
いずれもSUJの相当鋼で、輸入品は60HRC,当社製は62HRCとサブゼロなし60HRCを比較したところ、寿命に、ばらつきはあったものの、輸入品と当社サブゼロ品で寿命が格段に延びた例がありました。しかし、試験数が少なくて、この判定もよくわかりませんでした。

【新熱処理の可能性?】
SUS304などの準安定系のオーステナイト系ステンレス鋼は、極低温に長時間保持すると、マルテンサイトに変態するように、これらの処理をして「何もない」と言って片付けるのは惜しい感じがしています。
多くの深冷処理の研究例でも、飛躍的な効果も見られないという結果がほとんどのようです。
過去には、磁気の影響や放射線の影響などを調べられている例もありましたが、これらの実験や研究は、表面的には沈静化している感じがします。しかし当社でも、もっと時間があって色々やってみると何か変わった未知の特性が見つかるかもしれないという考えは捨てきれません。
時間の余裕と金銭的余裕があったら、もう少し首を突っ込みたい未練はありますね(笑)。

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