長い文章ですので、目次を利用ください。

機械加工のしやすさと焼なまし

鋼を柔らかくする熱処理が焼なましです。

工具用などで市販されている鋼材は、通常、鋼が最も柔らかい状態の「焼なまし済み」の状態で販売されています。

この状態の鋼材は「直接切削材」と呼ばれることもあり、すぐに機械加工して使用できるように、「完全焼きなまし(または、球状化焼なまし)」されています。

これに対して、「改鍛用鋼材」や「改鍛用ビレット」などと呼ばれる材料は、のこ切断などで小分けができる程度に「軟化」しただけのものも多く、これらは、鍛造したのちに、もう一度「焼きなまし」が必要になります。

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焼なましは、「軟化」と「組織調整」が大きな目的です。

材料の焼なましが「不完全」であれば、硬さの不ぞろい組織の不均一などのために、機械加工がやりにくいかったり、加工した表面に「加工むら」が出ることがあります。そしてまた、加工中に曲りが生じたり、 あと工程の「焼入れ」の際にも硬さのばらつきや曲りの原因になります。

経験的に言えば、通常販売されている鋼材では、鋼材メーカーの品質管理が行き届いているので、焼なまし不良による問題はないと考えておいていいでしょう。

ただ、近年は工具用の鋼が高級化しており、高合金化鋼の中には、焼なまし硬さを下げにくい鋼種もあって、焼なましされていても機械加工がやりにくいという鋼種もありますので、特に高価な材料を使用する場合には、 メーカーの焼なまし硬さを意識する必要があります。
焼きなまし・焼入れ焼戻し硬さ

一般的に、機械加工のやりやすさを「被削性」という言い方をしますが、焼なまし硬さが高くなると、工具費用や加工時間への影響が大きくなります。

焼なまし後の硬さ

焼なまし後の硬さは、鋼種(鋼材の成分)で決まります。

機械加工しやすい鋼材の硬さは 150-180HB程度と言われており、軟らかすぎても、硬すぎても加工しにくくなります。

一般部品に使われる構造用鋼などでは、この程度の硬さになっているものが多いですし、焼なましではなく、「焼ならし」や熱間圧延状態で、このような適度な硬さになっているものも多いようです。

しかし、工具やナイフ用の材料では、焼なましをしても180HB以上の硬さのものが多く、構造用鋼に比べて加工しにくいのですが、「焼なまし後の硬さが250HBを超えると機械加工しにくい」という目安などを知っておくと、材料を考える場合の参考になります。

粉末から製造される「粉末ダイス鋼」「粉末ハイス」などの鋼材は、硬い炭化物が多いために、軒並みに250HBを超えていますので、硬くて加工しにくいと考えておくのがいいでしょう。

この粉末鋼にたいして、通常の方法で作られた鋼をそれと区別して、「溶製(ようせい)」という言い方をされることかあります。

例で、日立金属(株)の硬さ規格をみますと、炭素鋼系の刃物用鋼の「青紙」類では229HB以下とありますので比較的加工しやすい値ですが、 ダイス鋼のSLDでは248以下、ステンレス系のSUS440CやATS34などは272HB以下、粉末系のZDP189では321HB以下となっていて、 その焼なまし後の規格値自体が高合金化するにつれて高くなっています。

321HBは、構造用合金鋼を調質(焼入れ焼戻し)したときの高めの硬さですので、かなり加工しにくいということが言えます。

この加工しにくさの原因は、金属組織的に見た「炭化物」の組成、量、大きさなどが関係しますが、これは、熱処理した後に研磨する場合の研磨のしやすさ「研削性」についても関連します。

つまり、耐摩耗性が高いと言われる鋼種は機械加工がしにくいし研磨もしにくい・・・と考えておくのがいいでしょう。


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「焼なまし」について

焼なましには、「完全焼なまし」「球状化焼なまし」「低温(または応力除去)焼なまし」「拡散焼きなまし」などの熱処理の種類があります 。

ここでは、機械加工しやすいように、鋼を軟らかくする「完全焼なまし」と「球状化焼なまし」について説明します。

ちなみに、「拡散焼きなまし」は、 鋼材を作る段階での組織の調製のために行われますし、低温焼き戻しは、変態点以下の700℃程度以下の温度で、硬さや応力調整のために行われるものです。

一般的な熱処理操作は、焼なまし温度(800-850℃程度)に鋼材を保持して、 炉の中でおおむね、1時間に30℃以下でゆっくりと冷却しますが、この操作で、鋼は軟化して機械加工ができる硬さになります。冷却が早いと、充分に軟らかくなりません。

また、Ni(ニッケル)など、Ms点(マルテンサイト変態が生じる温度)を下げる元素が多い場合は、遅い冷却を途中でやめないで、ほぼ常温までゆっくり温度降下させないと軟らかくなりません。

当社では、いろいろな鋼種を同一炉で焼なましする場合には、完全に軟化するまでゆっくりと温度を下げるのは非効率なために、すべてが柔らかくなる温度になる前に炉出しすることも多く、その場合は、特定鋼種だけを再度、変態点直下の低温焼き戻しをして軟化させる工夫などをしています。

この、加熱してゆっくり冷やす熱処理操作を「完全焼なまし」あるいは「完全焼鈍:かんぜんしょうどん)」といいます。

工具鋼などでは、焼なましを「球状化焼なまし」と表現されている場合もありますが、これは、炭素量の多い鋼を均質化させ、完全焼なまし以上に軟化させる焼なましのことです。
左が完全焼きなまし、右が球状化焼きなましした共析鋼の1例です。

0.9%C焼きなまし 焼きなまし  0.85c球状化球状化焼きなまし

注意:この写真は、ほぼ同じ成分の共析鋼ですが、鋼種も倍率も異なっています。(左約2000倍、右は約1000倍)説明用に、METALS HANDBOOKから引用させていただきました。

左の、筋状になった炭化物(セメンタイト)が、右写真のように分断された状態を「球状化」といいますが、球状化したほうが硬さが低くなります。

ベアリング鋼(SUJ)では、球状化焼なましを行うと組織が均質化し、寿命が改善するとされていますが、これには、手間のかかる焼なまし操作などが必要です。 (ここでは、説明しません) しかし、工具鋼などでは、素地(マトリックス)の炭素量が上記ほど高くないことや、共析炭化物などにより、 あえて複雑な操作をしなくても簡単に球状化状態になるものが多いので、完全焼なましと球状化焼なましは同じ意味と考えてもいいでしょう。


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焼なましの注意点

通常に販売されている鋼材のほとんどは、鋼材メーカーで焼なまし済み(直接切削材)で、一定の品質が保たれていますが、それをいったん「火造り(鍛造)」した場合には焼なましをする必要があります。
今日では、鍛造を業者に依頼した場合は、鍛造後に焼なましを行われる場合がほとんどですので、入荷時に焼きなましの有無を確認するのがいいでしょう。

焼なましの熱処理仕様は、鋼種によって決まっており、メーカーカタログなどに記載されていますので、焼なましを依頼する場合も、鋼種と用途を指定すればいいでしょう。


【酸化防止と箱なまし】
 

完全焼なましの温度は通常800℃前後で、焼入れ温度より低いのですが、鋼を高温で長時間加熱するので、大気中では表面が酸化して変質します。鋼材メーカーや専業メーカーでは、雰囲気調整をしてそれを防いでいます。

雰囲気調整しないで「焼なまし」する際には、 出来るだけ空気との接触を避ける工夫が必要です。簡易的には、金属製の箱に入れて大気の接触を減らした「箱なまし」と呼ばれる方法も有効です。


【注意点】

焼なまし温度は、変態点と関係があり、焼入れ性の高い鋼種や、特にMS点が低い鋼種では、冷却速度が大きかったり、 充分に低い温度まで炉の中で冷却しないと、軟化しなかったり、反対に硬くなる場合があります。


【脱炭】

空気中で長時間加熱すると、表面に酸化スケールが固着して残ったり、合金成分が失われるなど、品物が変質します。 特に、酸化にともなって鋼中の炭素が失われることを「脱炭(だったん)」といい、必ず、焼入れする場合にはそれが残らないように機械加工で除去しないと、硬さ不良や割れの原因になります。

後工程の「焼入れ」時に焼なまし時の脱炭が残っていると、その部分は十分な硬さが得られません。焼入れ加熱時の脱炭も同様ですが、脱炭があると、表面硬さが出ないだけでなく、 焼割れ(焼入れした時に割れること)が発生しやすくなりますので、機械加工等によって事前に除去しておく必要があります。

鋼材メーカーでは、黒皮品を含めて、販売する状態での「脱炭」の最大量を規定していますので、それを参考に、焼入れ前の機械加工で脱炭部分を除去してから焼入れすることが重要です。材料を購入するときにそれみ基づいて、大きめの材料を購入する必要があります。

日立金属(株)を例にとると、たとえば厚さ1/2インチ以下の圧延材では、最小削り代(けずりしろ)は0.4mmとしていることから、 それに曲りの許容量や、熱処理後の曲りを加えた仕上げ代(しあげしろ)を加えると、小さい品物でも、製品厚さに対して1.5-2mm程度以上の、厚い鋼材を購入する必要があります。
(ナイフ用の材料などでは、研磨仕上げをして販売されているものがありますが、この場合は「脱炭」などの変質層は除去されていると考えていいでしょう)

直接切削材として使用しないで、「鍛造」・「焼なまし」をした場合には、おおむね、片肉1.5mm以上の変質層を見込む必要があります。脱炭の許容量や仕上げ代は、鋼材を購入する際に問い合わせてわかる場合もありますが、鍛造した場合の表面の変質量はかなり大きいので、余裕を持った材料取りをしたほうがいいでしょう。


◎鍛造時の注意

熱処理とは直接関係ありませんが、過去には、鍛造時の不具合による問題も多かったので、ここで簡単に触れておきます。

鍛造の加熱温度は焼入れ温度より高く、自由鍛造では数回の加熱が繰り返されますので、非常に作業管理が重要になります。
高温になるにつれて、結晶粒が粗大化して、品質は劣化しますし、鍛錬時の変形による発熱によっても、さらに昇温しますので、高級鋼においては、圧下のテクニックや鍛造終止温度の管理が特に重要です。

この終止温度が高すぎると、結晶粒が大きいままに残ってしまいますし、終止する温度が低くなりすぎると、鍛造時の変形抵抗が大きくなって、 鍛造中の割れにつながる・・・ということになります。
鍛造は、高度な技術のいる作業です。また、鍛造で生じた不具合は、熱処理ではカバーできない・・・ということを 、頭のどこかに留めておいてください。

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