これから熱処理に関する説明をします。最初は炭素鋼を基本に一般的な熱処理用語の意味を中心に説明したあとに、構造用鋼工具鋼などに進んでいきます。
(注意)このページは特に長い記事になっています。パソコンで読まれることをおすすめします。用語の説明は、こちらのページをご覧ください。

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焼入れとは

鋼を変態点以上の温度に保持した後に「急冷」する操作を「焼入れ」と言います。
一般的には、焼入れは「硬くする」ために行うものと考えていいでしょう。

後にも説明しますが、「硬い=強い」ということですので、焼入れをして刃物や工具などを作ることができます。

下図のように、鋼中の炭素量の増加に伴って、焼入れした時の硬さが上昇していきます。このために、鋼に含まれる「炭素量」は非常に重要です。

ビルなどの建築用の型鋼などの構造用の鋼材や鉄くぎなどは「軟鋼」と言われ、炭素量が0.1%以下と少ないので焼入れをしても硬くなりません。

焼入れをするために加熱する温度を「焼入れ温度」と言います。

標準の焼入れ温度はJIS規格や鋼材のカタログなどに示されていますので、その温度に加熱して、指定の冷却材(水・油など)で冷却します
(焼入れ操作の様子は、こちらのページ中ほどの動画を参考にしてください)

炭素量と最高硬さの関係図
このHRCはロックウェル硬さ計を使って測定する硬さですが、軟鉄は5HRC程度、カミソリの刃先が63HRC程度であるというようなイメージをもっておいてください。一般的には、58HRC程度以上の硬さであれば「刃物」として使用できるというイメージでいいでしょう。

ここでは、
1)焼入れすると、マルテンサイトという状態になり、硬くなる
2)炭素量とともに、焼入れ硬さが上昇する。
3)0.6%C以上になっても最高硬さはそれ以上高くならない。
というところを見ておいてください。

ところが、炭素量だけではうまくいかない問題が出てきます

たとえば、炭素量が約0.85%のごく小さな鋼の小片を水焼入れしますと、65HRC程度の表面硬さが出ます。これが15mm角ほどになると、均一に急速冷却されにくくなって、硬さもばらばらになり、 表面であっても中央部では60HRC以下のところもでてきます。そして30mm角程度になると、コーナーの一部が60HRCを超えるところもありますが、面の中央部分では40HRCというような低い硬さしか出ません。これを質量効果による硬さ低下といいます。

そして焼入れ性と言う性質が関係します

焼入れ性というのは、①どれくらい硬くなるのか ②どこまで内部まで硬くなるのか・・・という指標です。

炭素鋼はこの焼入れ性が低いので、冷却条件の影響を受けやすく、少し大きな品物になると上図のような硬さにはならずに、マルテンサイト量が減ってきて、硬さは下方に移動します。(参考として、半分ぐらいが焼入れされた状態の硬さ[50%マルテンサイト硬さ]が示されています)

最高硬さや表面硬さを確保したいのならば、焼入れ性の高い別の鋼種でないと無理・・・ということになります。

下に、炭素量が同程度のもので、他の合金元素を加えたときの焼の入りやすさを「最大有効直径」で示しています。

これらの鋼種は炭素量が同程度ですので、最高硬さは同程度ですが、合金元素が増えてくると、径が太くなっても焼が入ることがわかります。

構造用鋼の成分と有効直径

ここに示した6つの合金成分はすべて、焼入れ性を高めるもので、ここでは、C,Si,Mn値はほぼ同じなので、Ni,Cr,Moなどによって、最大有効直径が大きくなっているのがわかります。

【注意】これは1979年版のJISから引用していますが、この最大有効直径がどういうものであるのかを確認できませんでした。有効直径は普通は、既定の焼入れをした時に、中心部でいくらかの既定の硬さが得られる場合の最大直径を言いますが、50%マルテンサイトになる直径だとしているものもあって、これがどれを指しているのかわかりません。

上図に、50%マルテンサイトの硬さが示されていますが、炭素鋼にCrやMo、W、Niなどの焼入性を高める合金元素が加われば、それを加えていないものよりも焼入れ硬さが上昇します。

このように、同じ程度の炭素量でも、合金元素によって焼入れ性が上がるので、品物が大きくなっても表面硬さが確保しやすくなるということで考えておいてください。

この炭素量と硬さの図は、素地の炭素量がわかれば、最高硬さが推定できるので、炭素鋼だけではなく工具鋼などでも、非常に役に立つ便利なものです。

熱間鍛造用の金型などでは、硬すぎれば割れてしまいますので、たとえば、45HRC程度の硬さで充分だとすれば、0.6%以上の炭素量は必要がない (C量が高くないほうがいい)・・・ということがなんとなくこのグラフからイメージできるでしょう。(工具鋼については後で説明します)

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硬さは炭素量+合金元素で

焼入れした際の硬化の程度(硬さ)は、主に、鋼に含まれる炭素量(C%)で決まります。そして、焼の入りやすさや硬くなる深さ(焼入れ性)は(この後で説明する)その他の合金元素【こちら】によって変わります。

焼入れしたときの最高硬さが高いことや、その硬さが内部まで及ぶ鋼種を「焼入れ性の良い鋼種」と言います。

焼入れ性の良い鋼種は、油冷したり、空気などの気体で冷却(空気で冷やす場合は空冷)しても、充分に硬化させることができますが、焼入れ性の良くない鋼種は、水などで急冷して硬化させる必要があります。

また、品物が大きいと、大きさにつれて焼入れ時の冷却速度が低下します。これを「質量効果」と言います。

【業界用語の話】

「焼入れ」は、英語ではハードニングHardening ・ クエンチハードニングQuench-hardening などと称されますので、熱処理業界の人は、焼入れすると言わないで「クエンチ」や「クエンチング」などと言う人もいます。
また、JISの加工記号では「HQ」と表示するなど、分類で「H」が使われており、古くから焼入れのことを「エッチ」「マルエッチ」などという業界用語があります。

紛らわしい熱処理用語

熱処理用語には、この「焼入れ」のほかに、よく似た言葉が出てきます。「焼き戻し」「焼なまし」「焼ならし」などですが、混同しやすい用語ですので、以下に簡単に示します。

1)焼入れ : 鋼を硬くする操作。(加工記号はHQ:クエンチ)
2)焼戻し : 焼入れした後で、硬さを下げたり、強靭性を増す操作。
         (同 HT:テンパー)
3)焼なまし :鋼をやわらかくしたり、応力を除去する操作。
         (同 HA:アニーリング)
4)焼ならし : 組織や硬さを均一にする操作。
         (同 HNR:ノーマライジング)

ここではこの違いだけをイメージする程度でいいでしょう。
これらの熱処理操作によって、硬さだけでなく、鋼の組織、機械的性質、化学的性質、その他が変わるということです。


(参考)臨界直径・臨界冷却速度

上の炭素量と硬さ図は、理想的な冷却を想定したものですので、実際の熱処理では、この通りには行きません。また、0.6%以上の炭素量では、焼入れ硬さが同じ硬さになる・・・と表現されていますが、実際には、焼入れ温度、微妙な鋼材の成分の違いなどで、この通りの硬さに反映されるものでもありません。
一度にそれらの要素を理解するのは難しいので、ここでは、成分の影響と寸法に伴う質量効果は、焼入れした時の硬さに対する影響が大きいということだけを覚えておいてください。

その他、冷却に関係して表現される熱処理用語には、次の用語があります。

【臨界直径】
直径に対して3倍以上の長さの品物を、与えられた方法で焼入れしたときに、 その中心が50%マルテンサイトになる丸棒の直径を「臨界直径」と言います。

【臨界冷却速度】
焼き入れの際に、硬いマルテンサイトが生じる最低の冷却速度を臨界冷却速度と言います。

臨界冷却速度よりも早く冷却した鋼は、硬いマルテンサイト量が増えますし、 それより遅い冷却速度ではトゥルースタイトやベイナイトなど、マルテンサイトでない組織が多くなって、マルテンサイトほど硬くならない状態になります。

またここで、ある冷却方法で棒材の中心部が50%がマルテンサイトになる鋼材径を臨界直径と言うのに対して、無限大の冷却速度での臨界直径を、理想臨界直径という言い方をします。

臨界冷却速度は、もちろん、鋼材の成分(鋼種)と品物の大きさで変わってきます。

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焼入れ性を増す合金元素

合金元素の焼入性倍数

①焼入れしたときに、十分な硬さが得られること ②その時の硬化する深さが深いことを「焼入れ性がいい」というように表現します。

図のように、 焼入れ性を増す合金の含有量によって、焼入れ性が変わります。つまり、鋼材の機械的性質や熱処理特性が成分によって変化するということになります。

焼入れ性が増せば、質量効果を受ける大きな品物でも、表面の硬さが増しますし、表面から内部への硬さ低下度合いが緩やかになります。

しかし、先にも書きましたが、鋼種としての成分を考えるとき、これらの成分を増やせばいいというものではありません。

後に出てきますが、例えば、焼入れしたときに残留オーステナイトが多くなって、 焼が入りにくくなったり、炭化物を作る元素であれば、じん性などの機械的性質が低下したりします。ここでは、このグラフにある合金成分が高い鋼種は、焼入れ性がいい・・・という程度に理解ください。

【(参考)高硬度鋼

ショアー硬さの100は、炭素工具鋼の最高硬さを100としたということを聞いたことがあります。ショアーはショアー硬さ計で測定する硬さです。

硬さ計の違いによる硬さ比較をする場合には、換算表を用います。 硬さ換算表にはこのような高い硬さの部分は掲載されていませんが、数値を外挿すると、HSの100は、70HRC、1000HV程度の硬さのイメージになります。

昭和年代にはこのような硬さの出る市販鋼種はなかったように思いますが、近年では、新しい製鋼法で作られた粉末ハイスの一部や高硬さを売り物にした高合金鋼で、70HRCを超える鋼種が販売されています。

これらを焼入れしてロックウェル硬さ計で測ると、確かに72HRC程度の硬さが出ます。しかし、これらの鋼種は、非常に硬さの高い炭化物が多い鋼種ですので、その硬さを含めて高い硬さになっているということになります。

鋼中の炭化物は1500-3000HVなどと非常に硬いので、摩耗試験での耐摩耗性は増しますが、「硬い」ということは「もろい」ということにもなります。

例えば、鋭利な刃物では、炭化物がこぼれ落ちて初期摩耗が進むなどもあって、硬ければ寿命がよいという考え方はあてはまりません。

このように、使う対象によって「硬さ=寿命」になりません。鋼種ごとに適度な硬さがあることに注意する必要があります。


マルテンサイト

鋼は、鉄と炭素の合金で、おおむね、0.1%以上の炭素を含有する鋼は焼入れ温度に加熱(赤熱)して急冷することにより硬化します。急冷することによって、非常に硬いマルテンサイトという組織になって硬くなります。

一般的な熱処理解説書には、「焼入れとは、鋼を変態点以上に加熱してオーステナイト組織 (面心立方格子)の状態から急冷されることによってマルテンサイト組織 (体心正方格子)に変化させることで硬化します・・・」などのように説明されています。

焼入れ冷却中は、このマルテンサイトが生成する温度まで急速に冷却することによって、他の、柔らかい組織が出ないように、早く冷やすことが求められます。
速い冷却には「水冷」と指定されていますが、焼入れ性がいい鋼種では、「油冷」「空冷」というような、比較的遅い冷却の場合でもマルテンサイトが生成して硬化します。

焼入れした時にマルテンサイトにならない場合は、パーライト、ソルバイトなどの、マルテンサイトと違った組織に変化しているということになります。マルテンサイト以外の組織が多くなるにつれて、硬さが低下することになります。

この状態は、顕微鏡組織観察や硬さ測定などで確認することができます。

(参考)エムエス点・エムエフ点

焼入れ中に、マルテンサイトが生じ始める温度をMs(エムエス)点、マルテンサイト変態が完了する温度をHf(エムエフ)点と言います。 (こちらにも、Ms・Mf点の関連記事があります)

マルテンサイト変態は、温度の降下につれて進行するために、Ms点に達すれば、ゆっくり冷やしてもマルテンサイト変態が進行します。このことから、一般的には、焼入れ操作は、「焼入れ冷却中に、パーライトなどが析出しないように、Ms点までを速やかに冷却して、 それ以下の温度域では、品物全体を均一に冷却する・・・」というように操作する・・・と説明されます。

冷却過程でパーライトなどの柔らかい組織が析出すると、十分な硬さが得られません。また、Ms点以下では、急激な温度変化は、各部の温度差から、焼割れや変形の原因になる・・・という理由でしょう。

この、MsやMfはすべての鋼種でわかっているわけではありません。熱処理では大切な数字で、Msについては計算によって求める方法もありますが、合金成分量によって制約があり、すべてが計算によってわかる状態ではありません。

汎用的な鋼種ではメーカーが焼入れ方法などを詳しく説明しているものもありますが、ほとんどは経験で補っていることもあり、少し歯がゆいところでもあります。

鉄鋼協会の書籍「鋼の熱処理」によれば、Ms(K)=823-350C-40Mn-35V-20Cr-17Ni-10Cu-10Mo-10W+15Co+30Al という式が示されており、その他にも、いろいろな計算式があるようです。
Ms計算式の例
これは、九州工大の1986年のレポートの引用ですが、いろいろな計算式が考案されています。

試しに、その式のいいとこどりで現用鋼種のMs点の実測値と計算値をくらべてみました。鋼種はすべて相当材で、( )内は使用した計算値の最大最小値です。
Msの計算例と実測値に例
計算結果を見ると、低合金のものは当たらずとも遠からず・・・ですが、高合金になると、その多くは条件範囲を外れてしまって適用できないという結果でした。

一般的には、C・Mn・Crなどが多くなるとMs点が下がり、特に炭素の影響が大きいといえます。計算式を見ると、CoだけがMs点を上げるように働いています。

Ms・Mfについては、あまり深く理解されていない場合も多いのですが、複数鋼種の品物を混載して熱処理する場合などや、工具鋼の焼入れで、それを把握しているか否かによって、製品品質に影響が出るので熱処理業では理解しておくことが大切です。

【参考例】
工具鋼の焼入れについては、別のページで説明しますが、例をあげると、汎用鋼のSKD11のMsは200℃程度、Mfは40℃程度とされています。

熱処理作業では夏季に作業場の温度が50℃近くになるところもあって、Mf点が常温以下の鋼種は、焼入れしても、完全に変態しない(十分に硬化しない)場合があります。

また、一般の熱処理品は熱処理データをテストピースと違って大きいので、一般的な焼入れ作業の冷却では、焼割れの危険性を避けるために、通例は「品物の温度が100℃以下になったら焼戻しする・・・」などというようにするのが通例です。
これは、高合金鋼では、Hf点が室温付近やそれ以上の温度の鋼種も多く、硬さだけでなく、変態量のばらつきが出ます。このために、変寸量にもばらつきが出て、変形などの原因にもなります。

こういう内容の考え方や対処方法については、一般の熱処理書籍には書いてありません。


【その他】
オーステナイト系のステンレス鋼は、Ms点が常温以下にあるために、例えば、水冷しても硬化しません。この熱処理は、安定なオーステナイト組織を維持するための熱処理で、この操作を溶体化処理(固溶化処理・水靭など)と言います。

マルテンサイトについては、こちらにも関連記事があります。


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焼入れ操作

熱処理パターン

この図は、熱処理の工程を表したもので、熱処理線図と言われるものです。

左半分の「焼入れ工程」と、右の「焼戻し工程」に必要な条件が示されています。これら焼入れ・焼戻し工程は、セットになっているものとして考えます。

この予熱は、品物の温度を均一に上昇させるために、適当な温度に保持するためのもので、小さなものでは不要です。また逆に、品物が大きいと、2段階以上の予熱温度をとる場合もあります。

焼入れ温度(本熱という場合もあります)は、鋼種ごとにカタログやJISに示される温度に加熱します。

冷却方法1(焼入れ温度からの冷却)には 水冷、油冷、空冷などがあり、通常は常温(室温)まで冷却します。

この操作が「焼入れ」です。この際に、鋼種に応じた冷却をしないと十分な硬さが得られません。

その反面、熱による膨張収縮の影響を受けるので、必要以上の速い冷却をすると、変形や割れの危険性が増します。

このため、JIS規格やカタログなどには、 鋼種ごとに冷却剤(「油冷」「空冷」などの冷却方法)が示されています。

焼戻し温度 主に硬さを決めるための温度です。構造用鋼などで500℃以上の温度で焼き戻しするものは1回の焼戻しで問題ありませんが、2回またはそれ以上の焼戻しが必要な場合があります。

冷却の方法は、水に入れる「水冷」、油に入れる「油冷」、空気中で冷やす「空冷」などのほか、攪拌するかしないか、引き上げるタイミングなどで冷却速度や冷却温度を調整します。

【熱処理の記録】

当社のような熱処理業では、熱処理の加工記録(検査表の記録)には、焼入れでは「850℃×1時間油冷」のように記録します。これは、焼入れ温度850℃で品物を1時間保持した後に油冷する・・・という内容です。

これは簡単な記録内容ですが、実際には、作業記録として記録されていない標準的な条件がたくさん含まれます。例えば、60℃程度の油温の中に品物をつけていますし、冷却中には、油温に達するまで冷却しないで、高い温度で引き上げるなど、冷却中の時間と温度を管理しています。

Ms点以下まで連続して冷す操作もありますし、一般的には、曲がりや割れなどの問題を考慮して、冷却時には、 「早すぎず、遅すぎず」・・・という熱処理操作をしています。

これは、鋼種、品物の大きさ、要求硬さなどが関係するので、表現するのが簡単ではないのですが、ノウハウや勘による作業も多く、作業記録には記録されないことで熱処理をわかりにくくしている点も否めません。それを標準化することも大切になってきています。

  

「焼入れ=急冷」とは限らない

一般的には「焼入れ=急冷」と説明されますが、Cr・Mnなどの焼入れ性を高める元素含有量が多い鋼種(高合金工具鋼など)では、 空気中に放冷する(空冷)だけで充分に硬化する鋼種がたくさんあります。この場合は、「急冷」ではありませんが、遅い冷却でも十分硬化しするので、「焼入れ」になります。

しかし、同様に加熱後に空冷操作するものでも、構造用に用いる低合金鋼などで、組織の均質化を図るために空冷する操作があります。これは焼入れと呼ばずに、「焼ならし」と言います。 もちろん、焼入れするほどの硬さは得られません。

さらに、空冷して十分に硬化する鋼種でも、油冷する場合があります。これは、早く冷却して、硬さ以外の特性を出す操作(じん性の低下を抑えたり、硬化深さを確保するなど)ということになります。

その他で、水冷についても、 オーステナイト系のステンレスなどで、その耐食性を高めるために、オーステナイト化温度から水冷する操作をしますが、これも焼入れとは呼ばずに、溶体化処理、固溶体化処理などと言います。

・・・・・このように、焼入れ操作の問題だけをとっても、非常に多岐にわたりますので、これらも、熱処理をわかりにくくするのですが、このプラスα項目が実際の熱処理(や熱処理上の問題を考えること)に重要ですので、基本事項~関連項目というように、説明していきます。

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焼入れ温度

一般的には「変態点の50℃程度高い温度」と説明されています。しかし・・・
旧JIS抜粋
過去のJIS規格(1979年版ごろまで?)には、上表のような参考値が掲載されていました。これは、φ15程度以下の試験片での値ですが、いろいろ誤解されやすい点もあって、現在は除外されて「参考事項」とされています。しかし、現在でも、構造用鋼におけるこの硬さ値の範囲は、標準的なものになって強く根付いています。

JIS鋼種以外の熱処理の温度も、メーカーカタログなどに「適正焼入れ温度」などで温度範囲が表示されていますので、基本的には、その温度を外れないように加熱します。
日立金属の標準熱処理条件例
(日立金属のカタログに掲載された熱処理温度)


変態温度と熱処理温度

こちらの状態図をご覧ください。 これは、状態図の中に、説明のための温度範囲などを追記しているものですが、この左中央の赤丸で囲んだ下に、A3-S-A1の線が変態線と呼ばれるラインで、これを 「オーステナイト化温度」と呼ぶこともあり、この温度以上に加熱保持して急冷すると硬くなります。

ここに示した図は「恒温変態図」です。実際の熱処理では昇温冷却の速度があるので、この図で説明していいかどうかも迷うところですが、加熱や冷却の場合はこの変態線(変態温度)は、加熱の場合は上方に、冷却の場合は下方に移動します。

上表で、構造用鋼の記載例中にあるAcは加熱の時の変態温度を、 Arは冷却の時の、それぞれおおよその「変態温度域」を示しています。(あくまで参考値です)

一般的には、焼入れの加熱温度は、加熱速度を考慮して、おおよそ「Ac3変態線+50℃程度」とされていたり、構造用鋼のように、いろいろな実験結果から温度範囲が決められているものもありますが、工具鋼などでは、下図のような焼入れしたときの硬さによって決める考え方で適正焼入れ温度を決めています。

どのような鋼種でも、焼入れの場合の一般的な焼入れ温度・硬さの傾向は、図のようになります。

焼入れ温度硬さ傾向

これは主に、「結晶粒度」や「残留オーステナイト量」 などによって 図のような傾向になるのですが、温度を高くしすぎて結晶粒が大きくなったり、残留オーステナイトが多くなるのは、いい傾向ではありませんので、必要以上に焼入れ温度を高くするのはいけません。

基本的には、最高硬さが得られる温度の手前の温度に加熱して焼入れします。
JISや鋼種のカタログには、鋼種ごとに「標準加熱温度」が示されていますので、その温度範囲を外れないようにします。

加熱温度が低いと、焼入れ硬さが低下傾向になっていますし、高いとじん性などの機械的性質が悪くなっていきますので、推奨温度範囲で加熱します。

特に工具鋼などの合金成分が多い鋼では、標準温度範囲を超えた温度に加熱すると、残留オーステナイト量が増えて、硬さが出にくくなるとともに、結晶粒が粗大化して、じん性値などが低下します。

焼入れ温度を超えて高温に加熱することを、しばしば「オーバーヒート(過熱)」と称される場合があります。しかし、この用語にはほかの意味もあって混乱するので注意しないといけないのですが、このように言う人が多いことも事実ですので、紹介だけをしておきます。

(参考)SKD11(SLD)の顕微鏡組織例をこちらに示します。


しばしば、工具などにおいて、耐摩耗性の必要な品物は高めの温度で、じん性の必要な品物は低めの温度で・・・と言われます。しかし、標準温度を外れないことが大切です。

焼入れ硬さが出やすいようにと、安易に高めの温度を採用することも行われていますが、これは結晶粒の粗大化で必ずしもいい結果になるとは限らないので、注意しないといけません。

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焼入れ保持時間

保持時間の図
品物を加熱して、焼入れ温度に到達してから、その温度で保持する時間を 「焼入れ保持時間(または単に保持時間)」と言います。

実際に品物を加熱する際には、図のように、品物の表面で保持時間を決めることになりますが、内部の温度が把握しにくく、また、目的の加熱温度に近づくと、昇温が緩やかになりますので、それらを考慮して時間を管理する必要があります。

一般鋼材の焼入れの保持時間については、古くからのアメリカでとられていた基準に沿って「焼入れでは鋼材1インチ当たり30分、(焼戻しでは1インチ当たり1時間)」と言われてきましたので、当社も、この基準でサイズや装入量を層別して保持時間を決めています。

近年、構造用鋼などの低合金鋼などでは、保持時間が不要だという考え方があります。さらに、合金成分の多い鋼では、それが溶け込むためには、ある程度の時間が必要だという意見があります。

当社での実験によれば、工具鋼を含むほとんどの鋼では、特に焼入れ保持時間を設ける必要はありませんでしたが、過熱(変態点を超えても変態しない状態)を考える必要があることや、炭化物(厳密には共析炭化物)がオーステナイト中に溶け込むのに必要な時間、さらには、温度にともなう不確かな要素(炉の熱容量、加熱速度、予熱の有無、装入方法、温度分布など)などを考慮すると、ゼロではなく、 若干の余裕を持った時間が良いという考え方で上記の時間を採用しています。

もちろん、保持時間が長くなると、結晶粒が大きくなって、じん性が低下するなどの問題が出ますので、特に焼入れでは必要以上の保持時間をとってはいけないのは当然です。

高速度工具鋼については、合金成分量が多く、1100℃以上の高い焼入れ温度で焼入れするものが多いので、長い保持時間を取って結晶粒が粗大化するのを避ける必要から、短かめの保持時間が指定されます。
(これについては、いろいろな要素が関係しますので、ここでは詳しくは触れません)

焼戻しについては、こちらで説明しています。
焼戻しの保持時間は、おおむね、「1インチあたり1時間」を基準にして作業を標準化してしまえば、特に問題はないでしょう。


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焼入れ時の冷却

冷却シミュレーション
焼入れのために高温に加熱して赤熱した品物を冷やすときに、扇風機に当てて冷やすよりも油のほうが、また、それよりも、水中に入れるほうが、さらに、冷却中に強く振るほうが早く冷えます。

このために、水冷(または水焼入れ)、油冷(油焼入れ)、空冷(空気焼入れ)、ガス冷(雰囲気冷却:普通は窒素ガスによる場合が多い)などの方法で冷却速度を変えるのはもちろん、攪拌程度、途中引き上げなどで調整します。

図は、小さな丸棒を3種類の方法で冷却したときの温度推移を示した例です。

この図で見ると、小さな品物で、なおかつ、単純な形状であれば、油冷→ソルト冷却→衝風空冷の順で早く冷えるということが確認できます。

一般の品物になると、冷却中は隅角部や表面から温度が下がりますので、冷え方が不均一になり、曲りや焼割れ、硬さの差異が生じます。

このために、冷却過程の温度を調節するために、完全に冷却するまでに途中で液体から引き上げたり、 気体の風量を調節するなどが行われます。それで「曲がり」や「割れ」対策をする場合もあります。

このように、冷却速度を調整する方法には、撹拌したり流速を変えたり、冷やす時間を変えたり、ソルトバスや ホットオイルなど、冷却剤の温度を変えるなどで品物が冷える速度(冷却速度)や変態終止温度を変えたり調節したりします。

その他、焼入れ冷却の方法として、金型ではさみ、その熱伝導を利用して冷却する方法もあります。「プレス焼入れ」「金型焼入れ」などと呼ばれて、 曲り取りを併用する焼入れとしても利用されます。最近行われる「ホットスタンプ」とよばれる、自動車用鋼板などのの成形技術も、このような金型冷却を利用しています。

冷却をシミュレートするためには、いろいろな要素を考えなければなりません。品物の持つ温度を、冷媒である空気や水などが奪い去ることで品物の温度を低下していきますが、熱の移動は、伝導と対流が主に関係します。鋼材の特性で、温度域によって熱伝達係数、比熱、熱伝導率などが変わります。冷媒の温度、攪拌速度(流量)や、一般的には鋼であれば、組織変化する時の発熱、品物や冷却材の量なども影響します。これらを、シミュレーションソフトを使って検討するのも大変ですが、 熱処理品質向上のためには、冷却過程の研究は一つのポイントといえるでしょう。

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焼入れ性

焼入れによって硬化しやすいかどうかを表現する用語に、「焼入れ性」があります。これは、鋼が、焼入れによって高い硬さになるかどうか、内部までその硬さが低下しにくいかどうか・・・という特性を言います。

焼入れ性試験や断面硬さの傾向(Uカーブなど)でそれを表現される場合もありますが、この用語は、概念的なものになってきているようです。つまり、「焼入れ性が良い鋼種」は、焼入れ温度から、急冷しなくても、油冷や、空気中で放冷などのするなどの、おそい冷却方法でも充分に硬化する鋼種で、逆に、焼入れ性が悪い鋼種は、小さな品物でも、 水で急冷しないと充分に硬化しなかったり、表面硬さにムラが出るような鋼種という区別を表す程度になってきています。

焼入れ性は、構造用鋼などではJISで、ジョミニ一端焼入れ性試験など、焼入れ端からの硬さ推移を測定するなどで視覚化されるものもあります。

焼戻しをした時の硬さ推移が表示されているので、内部硬さの推測などに利用できますが、この試験は、水冷による試験であることで油冷用の鋼種には向かないことや、25mm径の試験片のために、焼入れ性の良い鋼種では全体が硬化するなどで不都合があります。それらもあって、焼入れ性のいい鋼種の評価方法として、日立金属(株)では、「半冷試験」という方法などが利用されています。

型材などの品物を設計する場合には、焼入れした結果、①どれくらい硬くなるのか? ②その硬さを得るための加熱温度は何度がいいのか? さらに、 求める表面硬さが得られるには ③品物の大きさの限界はどのくらいか? ④そのときの内部の硬さはどうなっているのか??? などがあらかじめわかると便利ですが、残念ながら、各鋼種についての資料がそろっていません。現状では、「焼いてみるほうが手っ取り早い」状況といえるでしょう。

鋼は鉄(Fe)と炭素(C)の合金で、炭素量で焼入れしたときの最高硬さが決まるのですが、品物が大きくなるにつれて質量効果によって表面の硬さが低下します。そこに焼入れ性を高める合金元素を加えると、表面硬さの低下と、内部への硬さの低下が抑えられます。これを、合金添加による焼入れ性の向上・・・などと表現されます。

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引張強さと硬さ

硬さは引張強さなどの「強さ」と相関があります。(硬さ換算表には、硬さと引張強さの関係が示されているものがあります)

硬さが高くなると、引張強さが増加しますので、「強さ」を上げるために熱処理(焼入れ)をする・・・ということになります。

しかし、硬さと衝撃値は逆の相関があります。一般的に言って、硬くなると耐衝撃性が「低下」します。このこともあって、機械構造用炭素鋼や低合金鋼などを用いる場合には、硬さよりも強靭性が重要なので、炭素量が0.5%以下のものを用いて、500℃以上の、比較的高温で焼き戻しして、表面と内部の硬さを少なくする熱処理(=調質)が主体となっています。

引張強さは、硬さとともに上昇しますが、およそ200kg/mm2(55HRC程度)以上になると、硬さとの相関がなくなってきます。 これ以上に高い硬さの出る鋼種であっても、硬さを上げても、それほど引張強さが出なかったり、逆に、低下してくる場合もあるので、むやみに硬さを上げることだけにこだわるのは考えものです。

工具類については、「切削工具」などの、非常に高い硬さと耐摩耗性が必要なものは、当然、炭素量が多くなっています。反対に、熱間で用いられる工具などでは「高温強度」「耐熱性」などの性質が必要なために、炭素量が0.4以下程度に抑えたものが多いのですが、これはやはり、炭素量による影響が大きいということでしょう。

いろいろな特性を高めるために、様々な合金元素が添加されて、それが新しい成分系の鋼種として分類されていますが、残念ながら、合金量を増やせばいいというものではありません。また、その特性を評価する試験方法を決めることも大変で、「絶対的に良いオールマイティーな鋼種」は簡単に見つからないので、鋼種選択という作業を難しくしているといえるかもしれません。

【硬化の仕組み】 

このHPでは主に、熱処理による硬化については、焼入れしたときにマルテンサイト変態して硬化する場合について説明していますが、一般的に言って、金属類の硬化の仕組みには「転位」「固溶」「析出」「粒子分散」などによるものがあるとされています。

簡単な説明をしますと、通常の鋼は、多結晶体で、その結晶が整然として並んでおらず、「転位」と呼ばれる欠陥があります。鋼を変形(加工)すると、その転位がさらにもつれ合って、硬く(加工硬化と言います)なります。

マルテンサイト変態も、結晶構造が変化することで内部ひずみが増加して強くなるものですが、これらが「転移」による強化です。次に、その転位の隙間に炭素や窒素などの侵入型元素が入り込んで、さらに内部ひずみを増加させて強化することができます。浸炭や窒化の機構も転位による強化です。

しかし、元素の直径が小さい、酸素、水素、窒素、炭素などではなく、クロムやニッケルなどになると、鉄に置換して、それで固溶体を形成し、鋼を強化します。例えば、強靭鋼と言われるものは、Crなどを添加することで、この強化機構を利用しています。これが「固溶」による強化になります。

析出とは、焼入れ、2次硬化、時効など、温度などによって共析炭化物や金属間化合物などの新しい相(組織)が析出することで強度が変化する場合などをいいます。

粒子分散は、素地中に炭化物などがあると、強度の状態が変わることなどが例として挙げられます。これらを組み合わせることで、新しい性質を持った鋼を作り出そうとする場合の基本的な考え方です。詳しくは、専門書籍で確認ください。

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不完全焼入れ

「不完全焼入れ」の定義はあいまいで難しいのですが、鋼を焼き入れたとき、表面と内部の組織や硬さに差があり、それが標準的なものと異なっている場合を「不完全焼入れ」と言います。

しかし、実際の品物では、正常に焼入れしても、表面と内部の硬さや組織が異なることは特殊なことではありませんので、この用語の使い方には注意する必要があるかもしれません。

品物の大きさによるのはもちろん、成分的な影響から、いくら急速に冷却しても、部分的にみると、冷却速度は異なっていますので、完全に同一のマルテンサイト状態にならないで、 ①未変態のオーステナイト(残留オーステナイト)が残る状態になっていたり、②パーライトなどと呼ばれる、フェライト(Fe)とセメンタイト(Fe3C :「3」は小さい3  炭素1つと鉄原子3つの化合物の意味)の混合組織が生じたり、③それらやマルテンサイトの中間のようなベイナイトと言われるような組織などが混在するものであったりします。これらも、総括して「不完全焼入れ」と言われます。

顕微鏡組織を見ることや硬さ測定によって不均一さの発生原因や発生経過を推定できる場合が多いのですが、実際の品物では、鋼種の焼入れ性や品物が大きさなどの限界が関係するとともに、 各部位の冷却速度や加熱条件なども均一にはなりにくいために、品物の各部位でいろいろな組織が出現したり、 それらが混在して焼入れが完了しているといえます。


不完全焼入れは良くないのか?

過去には、「不完全焼入れは、良くない」という言い方をされてきました。
例えば、構造用鋼などでは、均一性と強靭性を増す目的で、焼入れ後に500℃以上の高温で焼戻しをする場合が多くあり(調質という)、この時、不完全焼入れの場合には、完全焼入れしたものよりも耐衝撃性が劣る・・・などの影響が出ると説明されてきました。しかし、構造用鋼などでは、合金元素の量もあまり多くなく、品物の大きさが少し大きくなると、不完全焼入れになるのが当然でしょう。

これらは、全体的な強度などを考えて使用されるものなので、成分や形状からみて、完全焼入れができない場合には、設計的に成分などを考慮する方法もあるのですが、一方では、あえて冷却速度を遅くして、全体の組織を均一化して全体的な強度バランスを取ったほうがいい場合もあります。この考え方によって、水焼入れが推奨されている鋼種を油焼入れするという方法をとる場合も出てきます。

その他にも、水焼入れが推奨される鋼種でも、曲りや応力バランスを考えて、あえて油焼入れ焼戻しをしたり、鋼種に指定された焼入れ方法をとらずに、焼ならし+焼戻しする(業界用語で「ノルテン」と言われます)という仕様もあります。

このように、理屈とは別に、実用的な面から、熱処理の仕様が決められて実施されている場合も多くありますので、「不完全焼入れは、良くない」という一義的にいう言い方はふさわしくないのかもしれません。

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焼入性と有芯焼入れ

鋼を焼き入れをしたときに、表面が十分に硬くなることや、その硬さが内部まで低下しにくい状態を、「焼入性がいい」という言い方をしますが、「焼の入りやすさ」には、(1)どのくらいの最高硬さになるかということと、(2)どれくらいの深さまでその硬さが確保されているか・・・という指標があります。前者は主に、鋼中の炭素量に関係する「表面硬さ」、後者は「焼入れ深さ」という表現もあります。

教科書的な説明による「焼入れ性」は、機械構造用鋼などでは25mm径の片端面から水で冷却する焼入れをしたときの硬さで評価する 「ジョミニ1端焼入れ試験方法」などがありますが、これは主に、焼入れ性の低い材料評価するための試験でしょう。
これらの焼入性の低い鋼材を焼入れをすると、表面は硬化しますが、中心まで硬化しない状態になります。

S45C焼入れ模式図

この状態を「有芯焼入れ」と表現されることがあります。 例えば、S45Cのφ50の鋼材を水焼入れした場合に、最表面はマルテンサイト(+フェライトの混合組織)に なっていますが、 表面から数mm内部になると、フェライトと、ソルバイトなどの混合組織で、中心にいくほど、軟らかくなっています。 (この例では、片側表面を示していますが、表面から15mm内部は、全く焼入れ硬化は見られません)

断面の硬さを測定すると、中心部が低くなる「U字」のような分布になるため、それを「Uカーブ」と言いますが、これは、全体が同一組織ではないために、表面は硬く耐摩耗性がある状態に、そして、内部は、表面より軟らかく、衝撃性の強い状態になっていることで、品物の用途によっては、「良い状態」と言える場合もあります。

高周波焼入れで表面硬化する場合も同様で、中心部までは硬化しません。

高周波焼入れは、表面の硬さや疲労強度、耐摩耗性を付加する熱処理として重宝されます。硬化する深さは、主に印加する高周波電流の周波数によって決まり、 図のように、境界層を隔てた硬さの差が大きい状態になります。これが、表面に圧縮応力を与える、特徴ある熱処理性質が得られます。

一方で、ある鋼種(図ではS45C)を全体加熱して焼入れした場合には、上図のように、表面から内部への硬さや組織の変化が緩やになりますので、 全体強度も上がることから、その特徴を利用する場合があります。

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質量効果と臨界直径

SCM材の熱処理特性

品物が大きくなると、焼入れ時の冷却速度が低下して、焼入れ硬さが低下します。
この図は、SCM435の例で、日本鉄鋼協会データシートから引用したものですが、焼入れする品物が大きくなってくると、全体が冷えにくくなりますので、それにつれて、内部も表面も、硬さが低下します。

焼き戻ししたときの状態も示されていますが、全体的に、太くなると、硬さが低下しているということがわかります。これが、 「鋼材の質量効果による硬さへの影響」です。マスエフェクト(mass-effect)と言われる場合もあります。

このように、焼入れ性を高める合金元素の含有量が少ない構造用鋼では、少し大きな形状になると、表面硬さが低下する影響が出ますし、もとろん、表面と内部は同じ組織が得られません。

その機械的性質への影響については、一般的には、引張強さ、圧縮強さは「硬さ」に依存しますので、熱処理で硬さを調節することで、ほとんどのニーズに対応できます。しかし、同硬さにおいては、冷却が遅いと、耐力、じん性値の低下があるのが一般的ですので、そのような特性評価が求められる場合は、 予備試験や実体試験などで確認しなければなりません。しかし、試験片の取り方などの影響もあるので、それをやるとしても、いろいろ難しい問題がでてきます。

ここでいったん休憩して、次のページでは、機械構造用鋼の熱処理や工具鋼の熱処理についてについて紹介します。
  → 次のページ(構造用鋼の熱処理)
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      (参考)高硬度鋼
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      (参考)エムエス点・エムエフ点
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