鉄と鋼の状態を理解しよう!

鉄に関係する話をしてから、熱処理の話に進みます。このページの内容は、サイドメニューの項目を参照ください。


「鉄」はFeで表される元素(物質)です。

鉄Feは、Si(シリコン)単結晶のような高純度のFeは製造するのが難しいために、鉄以外の元素が0.01%程度以下のものを純鉄 と言っています。


純鉄は、温度で4つの状態に・・・

①911℃までの地鉄(これはアルファ鉄という言い方もあります) 
②オーステナイト(これはガンマ鉄と言います) 
③1392℃を越えるとデルタ鉄 という分類をします。
④1536℃以上では解けて融体(液体) になります。

逆に高温の液体の状態から冷やしていくと、デルタ(δ)鉄→ガンマ(γ)鉄→アルファ(α)鉄になります。これらの変化は結晶構造が変化することでこのような呼び方をしています。

ギリシャ語の順番では、アルファ→ベータ→ガンマ→デルタですが、ベータ(β)鉄がないのは、結晶構造の変化ではなく、磁性変化した状態を指しているためです。

常温では強磁性の鉄が約730℃で常磁性に変わる磁気変態したものをβ鉄とよんでいましたが、今日では、ほとんど使われていない呼び方です。


結晶構造の変化

このうち熱処理と関係深いのは、γ(ガンマ)鉄とα(アルファ)鉄で、γ鉄は面心立方格子、α鉄は体心立方格子の結晶構造をしています。デルタ鉄は熱処理では出てきません。

FCCfccfcc=γ鉄
BCCbccbcc=α鉄

【この図は・・・】
黒い丸を1つの鉄(Fe)の原子としますと、鉄原子の領域は、右の球形は、 1つの原子が占領している「持ち分」を表している・・・という感じでしょう。

図にある黒丸を結ぶ線が「格子」で、黒丸と格子で囲まれる面を格子面と言います。

この「丸」の並び方は、X線解析によって調べることができますが、 もちろん、実際には、このような格子面や格子線はありません。理解しやすいようにしたものです。

このように、鉄は、温度の高い状態のオーステナイトという状態は、結晶構造が面心立方(fcc)になっており、常温の状態では、体心立方(bcc)になっています。

これらの図は、熱処理中に結晶構造が変わっていることを説明するために用いられますが、普通、鋼には、いろいろな元素が入っていますので、この図は 「純粋な鉄」としての図ということになります。

温度を上げ下げすることで結晶の配列が変わるのですが、熱処理では、このような「相変化」を、熱処理では「変態(へんたい)」と呼び、その変化する温度を「変態点」と言います。 この結晶構造の変化を利用して熱処理を行います。

純鉄のような純粋な物質の結晶は、上記のような基本格子(セル)がずっと連なった状態になっているとされていますが、当然、純粋の鉄はつくるのが困難ですので、異物(他の元素)を含んだ市販の(通常の)鋼では、黒丸の原子が、Fe以外の原子に置換されていたり(置換型)、小さな原子が間に紛れ込んだり(侵入型)、転位とよばれる、結晶がきっちりと並んでいない状態になっている・・・ということです。

市販の鋼種になると、数種類の元素を含んでいます。また、不純物と言われる元素も含まれます。

こうなると、それらが化合して合金になっているのか、混合状態なのか、 はたまた、均一なのか不均一なのか・・・などは実際の鋼では、よくわからない状態になっているといってもいいでしょう。

このように、よくわからないことが多くあるので、いろいろな鋼があり、さらに新しい鋼が作られる・・・などで、これからも無限の可能性が広がっているということが言えるのでしょう。

現在の原子物理学では、その原子の内部までも細かく解明されていますが、熱処理で説明される範囲では、原子配列すらもよくわかっていません。そのために、これらの説明は、「ある元素(ここではFe)の原子が並んでいる様子を示している」という程度のものでいいでしょう。

要するに、温度を上げて結晶構造を変化させることで新しい性質が出てくる・・・というイメージを持っていただく程度でいいでしょう。それが、上で示された図ですね。(@_@)


鋼になるとすごい特徴が・・・

純鉄では、温度によって結晶構造が変化するだけで、ほとんど可逆的な変化をしますが、炭素量が0.01%程度以上になれば、鉄と炭素の合金の「鋼」として性質「熱処理で硬くなる性質」がでてきます。これが鉄合金(=鋼)のすごいところです。

その鋼を、ゆっくり冷やすと、 やはり可逆的にbccになりますが、ゆっくりと冷やすのではなく、fcc状態(すなわち、 焼入れするために加熱した状態)から急速に冷却すると、bccではないbct(体心正方晶)が晶出します。
これが硬い「マルテンサイト」です・・・というように説明されます。

もちろん、炭素量によってその晶出割合も変わるのですが、いずれにしても、急冷すると「焼きが入った状態」になって、硬くなります。これが鋼の大きな特徴です。(これについては、「焼入れ」の項目で詳しく説明します)

結晶一つに含まれる原子の数

金属の純物質は同じ結晶がずっと並んでいますが、ここで、セル(四角いひと区切り)1個に含まれる原子の数の数えてみましょう。(上の右側の図がそれです)

bccでは「角にある1/8個を受け持っている原子」 x 「8か所の角」の1個と、 中心にある1個の「合計2個」であるのに対して、fccでは、「角にある1/8を受け持っている原子」 x 「8か所の角」の1個と、「面で1/2ずつ受け持っている原子」x「6か所の面」の3個で、「合計は4個」になっていて、セルに占める原子の数が違うのです。

さて、4個のfccが2個のbccになるのですから、この、余ってきた原子はどうなるのでしょうか・・・

「体積が変化したり、何かが変化しそうだなぁ」とイメージできませんか?
あとで出てきますが、実際に、変態点では寸法変化が起こりますし、急冷すると、硬くなるだけではなく、体積変化が生じます。


熱処理コラム①アモルファス

鋼はこのように結晶構造を持っています。これに対して、ガラスなどは結晶構造がなく、非晶質といわれます。近年、アモルファスといわれる言葉を聞く機会が増えていますが、 アモルファス=非晶質です。

金属などの結晶質は、結晶が並んでいるために、外力によって変形する際に、特定の面でずれるのですが、非晶質では、それらのすべり面が定まらないために、 結晶構造のものとは違った性質が出てくるというものがあります。

最近の研究では、アモルファス状態になった鉄合金では、非常に機械的性質が優れたものが見つかっています。 その他、結晶構造を粉砕して鉄合金をナノ化することで、非晶質のようになります。これによって、非常に硬くなったり、桁違いの展伸性が得られたりします。鋼の性質を根本的に変える、面白い分野といえるでしょう。


②硬化の仕組みについて

このHPでは、焼入れしたときの硬化を説明していますが、一般的に言って、金属類の硬化の仕組みには「転位」「固溶」「析出」「粒子分散」などによるものがあるとされます。

簡単に説明をしますと、通常の鋼は、多結晶体で、その結晶が整然として並んでおらず、「転位」と呼ばれる欠陥があります。

鋼を変形(加工)すると、その転位がさらにもつれ合って、硬く(加工硬化と言います)なります。(これは「転位説」でいう考え方です)

マルテンサイト変態も、結晶構造が変化することで内部ひずみが増加して強くなるものなので、これも「転位」による強化といえます。

さらに、その転位の隙間に炭素や窒素などの侵入型元素が入り込んで、さらに内部ひずみを増加させて強化することができます。
炭素を侵入させる浸炭や窒素を侵入させる窒化の機構も転位による強化です。

しかし、元素の直径が小さい、酸素、水素、窒素、炭素などではなく、クロムやニッケルなどになると、鉄に置換して、それで固溶体を形成し、鋼を強化します。

例えば、強靭鋼と言われるものは、Crなどを添加することで、この強化機構を利用しています。これが「固溶」による強化になります。

次の「析出」ですが、焼入れ、2次硬化、時効など、温度などによって共析炭化物や金属間化合物などの新しい相(組織)が析出することで強度が変化する場合などをいいます。

そして「粒子分散」は、素地中に炭化物などがあると、強度の状態が変わることなどがその例として挙げられます。

これらは熱処理の「焼入れ」だけではなく、これらを組み合わせることで、新しい性質を持った鋼を作り出そうとする場合の基本的な考え方で、複合熱処理という分野です。興味ある方は専門書籍で確認ください。


鋼(はがね)と鋳物

「鉄」に「炭素」を加えて化合させると「鋼(はがね)」と呼ばれる合金になります。

炭素の量を増やしていくと、約2%以上(これは重量%で、化学ででてきた容量%ではありません)で、炭素は鉄の中に溶け込まないようになります。

そうすると、組織の中に炭素(黒鉛のようなものと考えてください)が遊離する状態になるので、それは「鋼」ではなく、「鋳物(いもの)」と呼ばれます。

この「鋳物」の特徴は、鋼より融点が低いので、比較的簡単に溶かして鋳型に流し込んで複雑な形状をいくつもつくることができるという利点があります。

下の説明用の状態図で見ると、純鉄では1500℃以上でないと溶けないものが、3%程度の炭素量にすると1300℃程度の温度で溶けるので、それを鋳型に流し込んで同じ製品が数多く作ることができます。これは鋳物の大きな特徴です。

熱処理コラム 鉄鋼成分の%は重量%で表示します

先程も書いていますが、鉄鋼関連の成分を表す「%」は、化学で出てくる「容量%」ではなく、「重量%」だということを覚えておいてください。

鉄の比重は約8で、炭素(黒鉛)の比重は約2ですので、意外とたくさんの量の黒鉛が溶け込んでいます。

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状態図

炭素量に伴う温度とそのときの鋼の状態を示したものが「状態図」です。
鉄炭素2元系平衡状態図の例
この「状態図」では、元素が鉄と炭素であることで、鉄-炭素2元平衡状態図という言います。

横軸は炭素量(%)で、一番左側(炭素がゼロのところ)が純鉄で、炭素以外の残りの成分は「鉄Fe」です。
通常は、鉄鋼種の成分表などには、鉄の%表示は無いのが通例です。

縦軸は温度で、温度によって「相(結晶構造や組織などの状態)」が変化することを、熱処理用語で「変態(へんたい)」と言います。


この図は、「鉄・炭素の2元状態図」と呼ばれるものです。この出所は少し古いものですが、大同特殊鋼(株)特殊鋼ハンドブック1985年版 より引用させていただきました。

ここでいう「2元」とは、鉄と炭素の2成分のことで、その鉄合金が各温度において、どういう状態(組織)になっているのかを表しているのが「状態図」です。

3元(例えば鉄と炭素にクロムなどが加わると)3次元立体的な表し方になり、4元になると表現できません。したがって、通常の市販鋼種などの状態図は作れないのですが、成分を固定して(例えば12%Crなどの)状態図で説明されている場合があります。しかし近年は、それらを見る機会はほとんどなくなりました。


この2元状態図は、本来は鋼の状態(組織)を示すものですが、熱処理の説明では、独特の使い方をします。そのために、ここでの状態図は、熱処理の考え方を説明するための図・・・という程度のものと思っておいてください。

また、この2元状態図でも、詳しく見ると、作成する研究者によって、温度や成分値が違っています。

この理由は、鉄は半導体の材料となるシリコンのように超高純度のものを製造することは難しいためで、熱処理用としてはおおよその数字があればいいということで考えておいてください。

ここでは、赤字でマークした温度が重要なポイントになります。

1)温度が上がりすぎると溶けてしまうこと
   (固相と液相:オレンジ色の線
2)鍛造加熱温度は、熱処理温度に比べて高いこと
3)熱処理温度が炭素量、熱処理の種類で変わっていること
4)磁気変態というものがあること(キューリー温度)
5)「S」点 (ここでは0.83%の炭素量の鋼を「共析鋼」といいます)
6)A1温度(図では727℃:A1変態点)
7)A3点(911℃)とS点~Kを結ぶ線
   (オーステナイト化温度:緑色の線

などが、これからこのHPではしばしばでてきます。

鉄と炭素からなる鋼を「炭素鋼」といいますが、熱処理で説明される事項は、炭素鋼が基本になります。

例えば、この図で、炭素量が0.5%の鋼では、(黄色の線のように) 

 1500℃程度の温度状態では、溶けた「融体」
 1450℃程度では、固体と液体が混ざっている状態
 1100℃程度では、オーステナイトという状態
 500℃程度では、 パーライトと地鉄
・・・になっているということが示されています。

熱処理や鍛造の温度について
この中に、参考として熱処理温度が書き込まれています。これらは、熱処理用の説明のために加えられているもので、本来の状態図にはこれらはありません。

これを見ると、
 およそ870℃ : 焼準(焼ならし)温度例
 およそ830℃ : 水焼入れの場合の加熱温度例
 およそ820℃ : 完全焼なましの加熱温度例
くらいの温度と読み取れます。(これについては、別に説明します)

図中に 「最高」という表示があります。
最高水焼入れ温度や参考鍛造温度などですが、この温度以上に加熱すると、結晶粒が粗大化して、機械的性質が劣化するので、これ以上の温度にしてはいけないということで書き加えられています。

JISなどでは、鋼種ごとに熱処理における標準加熱温度が示されていますので、実際に熱処理をする場合は、それぞれの鋼種について、JISやメーカー資料にある温度や操作標準に従って熱処理するということになります。

ここで、反対に、最低加熱温度は?というと、A3線からA1線に続く温度(緑色の温度)ということですが、この図は平衡状態(温度変化がない状態)を表していますので、このA3/A1 点は、(あとで説明していますが)熱処理で加熱冷却をすると、変化します。

加熱の場合で言えば、加熱速度が早いと、状態図で示される温度では「変態しない」で変態点が上昇します。そのために、完全に変態させてから焼入れなどの処理をしないと充分に焼きが入らない・・・などの問題が出るということを記憶ください。

つまり、(焼入れの項などで説明しますが)平衡状態図における変態温度と、加熱冷却時の変態温度は加熱冷却速度によって変わります。


固溶体

固体の状態で、Fe(鉄)に炭素やその他の元素が素地(マトリックス:matrix)に溶け込んでいるものを「固溶体」と言います。

鉄-炭素の2元系合金では、炭素量がおよそ2%を超えると、鋼ではなく、鋳物と分類されますが、その鋳物では、 鉄-炭素合金の固溶体+炭素の合金(炭化物)+遊離した炭素・・・などが組織中に混在している状態になります。

また、鉄-炭素の2元系の鋼にそのほかの元素が加わると、それらの元素が素地(マトリックス)中に溶け込んで固溶体を作ったり、 炭素の合金(炭化物)あるいはその他の合金を作って混在するなど、様々な状態になります。

合金元素の多い高炭素の鋼を、高温の「融体(液体)」状態から温度を下げた場合、炭化物が生じてそれが固溶体の中に混在して、残りの組成が固溶体となるものがあります。

このような炭化物は、焼入れ温度に加熱しても(オーステナイト中に)溶け込みませんので、この熱処理温度で素地中に溶け込まない炭化物を「共晶炭化物」といいます。1次炭化物と言われる場合もあります。

共晶炭化物とは異なり、500℃以上の温度で焼戻しした際に、 炭化物が析出して硬さが上昇するものもありますが、その際に生じる炭化物は「共析炭化物」と呼ばれます。(これを2次炭化物という人もいます)

すなわち、焼入れ温度では、固溶体として(オーステナイト中に)鋼の成分が溶け込んでいる・・・ということです。

鋼の温度を変態点以上にあげて、面心立方晶に変態した状態(焼入れ温度になっている状態)を「オーステナイト」と 呼びます。
この状態では、もちろん、高温で鋼は柔らかくなっていますが、固体の状態です。

そして、高温の固体の状態から、 それが冷却される過程で、固体内で組織や結晶構造などが固体の状態で変化(変態)していきます。

オーステナイトの状態にある高温の鋼(たとえば、S45Cなどの低合金のφ10mm程度の鋼を考えるといいのですが)を、 水冷などで非常に早く冷却をすると、 「マルテンサイト」という組織が出現して硬化しますが、その冷却の速さを変えて、 少し遅い冷却(例えば、油冷や空冷)をすると、フェライト、マルテンサイトなどの単相と、それ以外の、トルースタイト、 ソルバイト、 パーライトなどと呼ばれる層状になった混合組織になります。

これらの熱処理として説明される状態の変化は、 すべて、固体内における固溶体の変化です。


熱処理温度

炭素鋼においては、図中の「最高水焼入れ温度」など、赤丸で示した部分が熱処理温度の基本になります。(それ以上に温度をあげないようにということです)

炭素量が増えるに従って、最高温度が低下していっているところを覚えておいてください。

その赤丸で囲んだ熱処理温度では、オーステナイトという状態になっています。

つまり、この、「オーステナイト状態の温度にする(または「しない」)・・・ということも熱処理の重要なポイントになります。

もちろん、常温でもその「パーライトと地鉄」状態になっているという 「状態」を示していますが、熱処理では800℃前後に昇温してオーステナイト状態にすることで「焼入れ」「焼ならし(焼準)」「完全焼なまし(焼鈍)」をします。


状態図を見るときの注意点

状態図は、ある成分の鋼が、ある温度において、どういう状態(組織)になっているかを示しています。

それは、温度変化を加えない「平衡状態」を表した図ですので、正式には、上の図は、「鉄・炭素2元系平衡状態図」と呼ばれます。

その図の中に熱処理温度を書き入れるのは少しおかしいのですが、熱処理での加熱温度やそこからの冷却についての変態の様子を説明するために、しばしば、上のような項目を書き入れて使用されることが多いのです。

熱処理の講習会などでは、「0.5%の鋼を800℃の状態から徐々に温度を下げていくと・・・」というような説明を、この図を使ってされますが、これは、あくまで熱処理説明のためにこの図を使っている・・・ということで考えておいてください。

繰り返しますが、この図は、平衡状態を表した図ですから、温度を移動させるとこの変態点は変化します。

下図は、ソルトバスを使って急激に温度を上げたときの炭素鋼(約0.3%)の中心温度を測定したものですが、変態点での吸熱反応が見られます。

本来、730℃付近にあるA1変態点は800℃近くまで上昇しているのですが、このように、温度変化が加わると、上図の状態図の変態温度は変わってきます。

しかし、加熱速度が加わった状態を説明するための適当な図がないために、熱処理の説明をする際には、この平衡状態図を用いて、温度変化や時間変化を交えて説明されますので、『そのように使われるものだ・・・』という程度に考えておいてください。

温度上昇曲線の例
つまり、(変な言い方ですが) 純粋な平衡状態図は、熱処理では必要ないですし、少しの温度の違いは、どうでもいいことになります。

同様に、冷却時についても、冷却速度が変わると、変態点が低下します。

下図は、変態点にかかるときの寸法変化を示したものです。

焼入れ変寸資料

(a)→(d)で冷却速度が大きくなっています。
(a)(b)を比べると、変態温度は(a)680℃,(b)630℃程度と読み取れますが、このように冷却速度によって変態点が移動することがわかります。

この図は、別のところでもでてきますが、(c)(d)のようにさらに急冷すると、マルテンサイト変態という、焼入れによって硬くなる変化が見られます。

このように、温度と時間変化が加わって、焼入れなどの内容の説明に進んでいくのですが、この「温度と炭素量」などの関係を理解するために、平衡状態図が使われている・・・というように考えておいていただくといいと思います。


ここで冷却線図の話を持ち出したのは、熱処理の説明で、平衡状態図に温度変化を持ち込んで説明されることが多いので、間違いをしないようにということで取り上げています。


主な変態点(変態温度)

1)A1線
それより低い温度では、フェライト(α鉄)とセメンタイト(炭化物Fe3C)の固溶体になる(それより高い温度では、オーステナイト(γ鉄)が生じる)

2)A3線
それより低い温度でフェライト(α鉄)が析出する(それより高い温度ではα鉄がγ鉄になる)

3)Acm線
それより低い温度で、セメンタイトが析出する(それより高い温度でセメンタイトが消失する)

などで、それ以外の
A0 :
210℃付近にセメンタイトの磁気変化点 
A2 :
780℃付近のフェライトの磁気変態点(キューリー点)
などは、その前後で着磁力が変わるなどがあります。覚えておくといいでしょう。

   注:A0のゼロは添字で、小さく書きます。


熱処理コラム熱処理で用いる単位について

現在は、「SI単位系」に沿って単位を表示するのが標準ですが、熱処理においては、まだまだメートル法時代の[cgs単位系]が根付いています。

熱処理に関係する基本単位は、 「長さ」「質量」「温度」「電流」「時間」程度ですが、そのうち、未だに、質量は「重量」ですし、 温度はK(ケルビン)ではなく「℃」です。

論文や文献では、SIが基本ですので、それを使用するのは当然ですので、温度について言えば、今まで、例えば、焼き戻し硬さを比較するために、500℃付近の温度が 「500℃、525℃、550℃」であったものが、「773K、798K、823K」と表示されています。

こんな中途半端にしないで、 「750K、775K、800K」という「切りの良い」温度に変えても、どうにでもなると思うのですが、長い間の習慣で変えにくいのでしょうか。

温度計器類もカタログなどの表記も、未だに「℃」です。
今後はどうなっていくのでしょうか。

「共析」とその組織

状態図で、炭素量が0.8%付近の成分の鋼を「共析鋼(きょうせきこう)」といいます。この成分の鋼(共析鋼)は、しばしば取り上げられますので重要です。
共析パーライト亜共析鋼


上は、メタルハンドブックから引用した写真で、左が共析鋼を焼なましした約2000倍の電子顕微鏡写真、右が0.45%C鋼の焼なましした約500倍の顕微鏡写真です。

右の写真で、白い部分がフェライト、黒い部分がパーライトと呼ばれます。

共析鋼を、常温で組織観察すると、 全視野がパーライトで、その部分を写真左のように拡大すると、フェライトFeとセメンタイトFe3C(3は小さな3です)の層状組織になっています。

この成分を境にして、炭素量が少なくなると(初析の)上右の写真のように、白く見えている「フェライト」が析出しますし、共析点より炭素量が多くなると、(初析の)セメンタイトが 混在して析出してきます。(炭素鋼の焼なましをすると、下の写真のように、結晶粒界に網状に析出します)

「初析の」とは、変態点を通過したとき、共析組織と独立して 別の組織が出てくるという意味です。

右の写真のように、C量が低くなってくると、白く見えるフェライトが析出してくる・・・というように、組織で区別ができます。

しかし、多くの鋼(鋼種)は、 鉄、炭素以外の元素が加えられていますので、それらが複雑に化合することで、 多様な金属組織になりますので、組織を見て鋼種や熱処理状態が区別できるようになるのは、かなり熟練しないと難しいことです。

下の写真は、炭素鋼の焼なまし組織の一例です。倍率は適当になっていますが、一般的には400倍程度で観察する場合が多いです。

c量と焼きなまし組織

JIS鋼種でいえば、これらの炭素量による変化としては、炭素が主要な合金成分である機械構造用炭素鋼(S10C~S58C)と、刃物などに使われるSK材とよばれる「炭素工具鋼(SK60からSK140)」を見るといいでしょう。

S10CのC量の中央値は0.1%、SK60は0.6%で、SK85(以前の規格名はSK5)が0.85%の、ほぼ共析成分になっています。

上の写真は、焼なましした組織ですが、左(C=0.03%)は「全フェライト」の組織で、フェライトの結晶粒界が見えている状態、次のC=0.45%は、「フェライトとパーライトの混合」組織で、白い部分がフェライトです。

次のC=0.85%の共析鋼になると、「全パーライト」になっています。一番右側は「パーライトと網状のセメンタイト」 という組織で、炭素との化合物のセメンタイトという組織がパーライトからなる結晶粒界に析出している組織というように説明されます。

亜共析・共析・過共析】 
共析鋼が全パーラート状態、それより炭素量の低い鋼フェライトが析出する鋼を「亜共析鋼」、逆に、炭素量が多くセメンタイトが析出する鋼を「過共析鋼」と呼ぶ場合もあります。

炭素量の多い SK3(同 SK105)などは、焼入れして高硬度材として多用されていますが、これは、焼なまし状態では過共析の状態となっているために、Fe3C系(3は小さく書く)の非常に硬い炭化物が析出して、 より耐摩耗性が高くなるのだろう・・・・ というイメージにつながっていけば、 この平衡状態図の理解度が高まると思います。
(注意)これは徐冷した「焼なまし組織」で、急冷する「焼入れ組織」とは異なります。


これ以外の鉄鋼の状態図は?

近年では、熱処理に関しては、この「鉄―炭素2元系平衡状態図」以外は、あまり見かけなくなりました。昭和年代の終わりぐらいまでは、ステンレス鋼や工具鋼のものも見かけたり、説明をされていましたが、現在は「焼入れ温度と硬さの関係」などから熱処理温度を決める方向になってしまったようです。

今、市中に出回っている鋼は、C,Si,Mn,Cr,Mo,Vなど多くの合金元素が加えられるものも多いですし、不純物としての、P,S,Cuなどの元素も加わっていますので、「多元系」と言えます。(3元以上になると表現できません)

加わる合金元素の量が「少し」であっても、 状態図は全く変わったものになってしまう可能性は高いでしょう。(しかし、実際にはそのような状態図は作成されていませんので、どの様になっているのかもわかりません)

以上の事から、熱処理に関しての平衡状態図では、①炭素量による鋼の位置づけ、②熱処理に重要な「オーステナイト化温度」などを理解できればいいと思います。
ここに示したものは、説明用ですので、正式な内容は書籍等で調べてください。

(( 一休み ))鋼は素晴らしい金属です

地球上にある物質の中で、 「鋼(はがね)」は最も有用性が高いといえます。
しかし、 「1KGで比較すると、大根より安い・・・」のです。
技術の粋を集め、製作手間をかけて作られている割には、非常に安価ですね。

さらに、「熱処理」によって、機械的性質や化学的な性質を広範囲に変化させることができることも素晴らしいことで、「鋼」なしには現在の文明が築けなかったと言えるほどですね。

面白いことに、刃物として使う硬さ60HRC程度の硬さが出る鋼には、1kg100円以下の機械構造用炭素鋼から、1kg5000円以上もする粉末工具鋼まで、様々な鋼が販売されています。

その、5000円の鋼を使った刃物が、100円の鋼の50倍長持ちすることもないですし、何よりも、無数の鋼種が作られていて、高価なものが絶対に良いと言われるものでもないところも、面白いところです。

平成初期に、いろいろ新しい製鋼技術が進んだ感じを持っていますが、近年は、目新しい鋼種や商品があまりでてきていません。

「表面処理(表面改質)」やナノ技術などで長寿命化を図るなどの新技術もあるのですが、頼みの「熱処理」分野でも、新技術には停滞感があります。
熱処理分野は「ローテク(完成されてしまっている)化」してしまって、あまり研究されていないのが残念です。



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(来歴)・H30.10.10 全面見直し H31.4.18 見直し

このページの項目

鉄と鋼の状態を理解しよう
  鉄
  純鉄は温度で4つの状態に・・・
  結晶構造の変化
  鋼になるとすごい特徴が・・・
  結晶に含まれる原子の数
  (コラム)アモルファス 硬化の仕組み
  鋼(はがね)と鋳物
  (コラム)鉄鋼の%は重量%
状態図
  熱処理や鍛造の温度について
  固溶体
  熱処理温度
  状態図を見るときの注意点
  主な変態点(変態温度)
  (コラム)熱処理で用いる単位について
  「共析」とその組織
  これ以外の鉄鋼の状態図は?
  (記事)鋼は素晴らしい金属です

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