鉄と鋼の状態を理解しよう!

「鉄」は元素です。それが「炭素」と化合すると、「鋼(はがね)」になります。

でも、炭素の量を増やしていって、約2%以上になると、炭素は鉄の中に溶け込まないようになります。組織の中に炭素(黒鉛のようなものと考えてください)が遊離する状態のものは「鋳物」に分類されます。


そのような鋼の成分と温度の状態を表しているのが下記のような「状態図」です。横軸の一番左側(炭素がゼロのところ)が純鉄です。

純鉄は、温度によって4つの状態があることが示されています。
①911℃までの地鉄(これはのちにアルファ鉄という言い方が出てきます) 
②オーステナイト(これはガンマ鉄と言います) 
③1392℃を越えるとデルタ鉄 という表示があります。
④1536℃以上では解けて融体(液体) になります。

①-③は固体の状態で、温度によって「相」が変化することを、熱処理用語で「変態」と言います。

合金化(ここでは鉄と炭素の合金)すると、単体の合金の融点よりも下がってきます。それらもあって、鋼の熱処理で用いられる温度は最高でも1300℃程度ですが、いろいろな元素が入ると、下図のような平面図では表現できません。


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状態図って、何?

鉄炭素2元系平衡状態図の例

この図は、「鉄・炭素の2元状態図」と呼ばれるものです。この出所は少し古いものですが、大同特殊鋼(株)特殊鋼ハンドブック1985年版 より引用させていただきました。

ここでいう「2元状態図」とは、鉄と炭素の2成分の合金が各温度において、どういう状態(組織)になっているのかを表しています。3元(例えばクロムなどが加わると)3次元立体的な表し方になり、4元になると表現できません。
この2元状態図は、本来は鋼の状態を極めるためのものだったはずですが、ここでは、熱処理の考え方を説明するための図という程度のものと思っておいてください。

この状態図も、いろいろな研究者が作っていますが、鉄は半導体の材料となるシリコンのように超高純度のものを製造することは難しいので、それぞれの状態図によって書かれている数字が変わっているものもあると思いますが、熱処理用としてはおおよその数字があればいいということで考えておいてください。

ここでは、赤字でマークした温度を見ておいてください。
1)温度が上がりすぎると溶けてしまうこと
2)鍛造温度は、熱処理温度に比べて高いこと
3)熱処理温度が炭素量、熱処理の種類で変わっていること
4)磁気変態というものがあること
そして、

5)「S」点(ここでは0.83%共晶体と表示されている点(共晶点)
6)A1温度(図では727℃)とA3線(911℃とS点を結ぶ線)
などが、これから熱処理を考えていくうえでポイントになります。

固溶体

凝固の完了を示す線(A-H-J-E-C…)がありますが、それ以下の温度では、固体の状態で相変化していることが示されています。固体の状態で合金化しているので、これを「固溶体」といいます。

焼入れ、焼き戻しなど、このHPで説明する鋼の熱処理においては、一番下に書いた分類の「鋼」炭素含有量が部分を取り扱います。

また、この図での重要な変態線は、900℃付近に書かれた「A3」~「S点」~「K点」に至る温度です。(この図の1.7%C以上の範囲は通常は考えなくていいでしょう)

熱処理温度

図中の「最高水焼入れ温度」など、赤丸で示した部分が熱処理温度の基本になります。

炭素量が増えるに従って、最高温度が低下していっているところを覚えておいてください。

その赤丸で囲んだ熱処理温度では、オーステナイトという状態になっていますね。つまり、この、「オーステナイト状態の温度にする(または「しない」)・・・ということが熱処理の重要ポイントになります。

例えば、炭素量が0.5%の鋼を対象として説明するとすれば、 この0.5%炭素鋼は、1500℃では溶けた「融体」になっており、1150℃では、固体と液体が混ざっている状態。1100℃では、オーステナイトという状態、500℃では、 パーライトと地鉄になっているということが示されています。

もちろん、常温でもその「パーライトと地鉄」状態になっているという 「状態」を示していますが、熱処理では800℃前後に昇温してオーステナイト状態にすることで「焼入れ」「焼ならし」「完全焼きなまし(ここでは焼鈍と書かれています)」をします。

結晶構造の変化

FCCfccBCCbcc

この、オーステナイトという状態は、結晶構造が面心立方(fcc)になっており、常温の状態では、体心立方(bcc)になっています。このような説明を、どこかで見られたことがあるかもしれません。

温度によって「変態する」というのを利用するのが「熱処理」ですが、このように温度を上げることで結晶の配列が変わることです。すなわち、変態とは結晶の「状態が変わること」です。

熱処理の説明に利用されるけれど・・・

この状態図は、ある成分の鋼が、ある温度において、どういう状態(組織)になっているかを示しているので、「平衡状態図」または「鉄-炭素2元系平衡状態図」と言います。

ここで注意しないといけない点は、この平衡状態図は、温度が平衡になったときの状態を示しているだけですので、温度移動や相の間を移動させる・・・ということを示すものではありません。

ところが、上の図もそうですが、熱処理の講習会などでも、しばしば、「0.5%の鋼を750℃の状態から徐々に温度を下げていくと・・・」というような説明を、この図を使ってされますが、本来はそのような内容や上記で赤丸を付けた温度の説明をするためのものではないのですが、これは、あくまで熱処理説明のためにこの図を使っている・・・ということで考えておいてください。

この図は、平衡状態を表した図ですから、温度を移動させるとこの変態点は変化してこの図は使えないのですが、熱処理の説明をする際には、このように、温度変化や時間変化を交えて説明されますので、そのように使われるものだという程度に考えておいてください。(変な言い方ですが、純粋な平衡状態図の本来の内容は、大した熱処理の理解には役立たないということかもしれません)

温度上昇曲線の例
この、「ごく」や「ゆっくり」というのも、いい加減なのですが、温度変化の速度が加わると、当然、変態線は移動します。

しかし、実際の熱処理作業では、温度が平衡するのを待っていられません。

ここで、本題から少し外れますが、上図は、0.3%程度の炭素鋼をソルトバスで焼入れ温度まで急激に昇温した時の温度の実測値ですが、約800℃付近に、変態による吸熱反応が見られます。

(加熱する品物が大きいと、もっとはっきりした変化が現れるのですが) すなわち、平衡状態図では、オーステナイトに変わる温度のA1変態点は730℃程度にありますが、それが、加熱速度が速いと、かなり上側にずれていることがわかりますね。

次は、これも状態図から離れますが、冷却時の速度が変わると、変態点が低下している様子を示しています。

次の図は、変態点にかかるときの寸法変化を示したものです。
(a)でみると、B点が加熱時の変態温度ですが、700℃少しのところにあり、その他(b)(c)(d)も同じ温度ですので、非常にゆっくりした加熱温度であることが想像できますね。

焼入れ変寸資料

冷却を見ると、冷却の速さに伴って、面心立方のオーステナイトが体心立方へと結晶構造が変化するときには、加熱時とは反対に、下方にずれていきます。

そして、体積変化の様子や変化量が変わっていますので、ここでは何か、結晶の構造や組織などが変わってきているということも想像できるでしょう。


この図には、鉄鋼の成分やその他の情報がないので、詳しいことはわかりませんが、冷却速度が速くなるにつれて、結晶の変化が大きくなっている感じの線になっており、(その他のページででてくるのですが)面心立方から体心立方という変化だけではなく、(d)ではマルテンサイト変態による「硬化」という現象が出てきます。

このように、温度と時間変化が加わった熱処理の内容となって焼入れなどの内容に進んでいくのですが、この「温度部分と化学成分」を理解するために、熱処理を学ぶ初期段階で平衡状態図が使われているというように考えておいていただくといいと思います。


ここで冷却線図の話を持ち出したのは、熱処理の説明の仕方が平衡状態図に温度変化を持ち込んで説明されることが多いので取り上げてみました。

磁気変態点

また、このHPには、取り上げていませんが、磁気変化や磁気変態点なども、覚えておくといいかもしれません。

210℃付近にセメンタイトの磁気変化点があります。これをA0(ゼロは添字で、小さく書きます)と呼んでいます。

これについては、熱処理作業中に、熱い品物をマグネットリフマーで吊上げる時に、磁石がつきにくいことを実際に経験します。

上の平衡状態図には780℃のところにA2(2は小さく書きます)磁気変態点とあります。これは、フェライトの磁気変態点で、一般には磁気の変化温度をキューリー点と呼ばれます。

熱処理の基本は、鋼をオーステナイト状態になるまで加熱して、それをどのように冷やしていくのかということが主な内容になります。

このオーステナイトは面心立方晶の常磁性ですが、キューリー点やA2という表現は、熱処理においてはほとんど出てこないで、オーステナイトという言葉を中心にいろいろな説明がされます。


また、変態点のA0、A2、A4などは、ほとんど熱処理説明にはでてこないで、

1)A1線:それより低い温度では、フェライト(α鉄)とセメンタイト(炭化物Fe3C)の固溶体になる(それより高い温度では、オーステナイト(γ鉄)が生じる)

2)A3線:それより低い温度でフェライト(α鉄)が析出する(それより高い温度ではα鉄がγ鉄になる)

3)Acm線:それより低い温度で、セメンタイトが析出する(それより高い温度でセメンタイトが消失する)

と言う変化の区切りを示している・・・というところが熱処理では大切です。

少し余談ですが

オーステナイト状態を常温まで持ってきている鋼の代表がオーステナイト系ステンレス鋼で、高温の状態から水冷するなどの急冷することで、常温でもオーステナイト状態になっています。

SUS304は磁石につかないのですが、機械加工したときに、着磁してしまうことがあリます。この磁気は簡単に除去できないでトラブルの原因になることもあって、800℃くらいにある磁気変態点を利用しないと、それが消えないこともあります。

このように、磁性に関する熱処理ネタはいろいろあるのですが、磁気変態は、その温度以上になると、常磁性体に変わるということだけを覚えておく程度でいいでしょう。

以上、ここでは、平衡状態と温度変化のある変態とは、異なっているという認識でこれらの図を見ていただきたいということです。


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鉄・鋼・鋳物

もう一度炭素量の違いで呼び方が変わっていることのおさらいです。

平衡状態図では、鉄、鋼、鋳物の分類が表現されています。
この図では、横軸の1.7%付近にある一点鎖線ですが、これよりも炭素量が増えると、 鋼ではなく「鋳物」「鋳鉄」という分類になります。

この1.7%の点(E点)は、 他の資料には2%あるいはそれを超える値になっているものもありますので、 「約2%」と覚えておくといいでしょう。また、図ではC点の「遊離炭素を含む レデブライトが出てくれば、鋳物ですよ」・・・という言い方もあるかもしれませんが、現実的には、鋳物にも多くの合金成分を含むものが多いので、約2%でいいでしょう。

鋳物の特徴は、鋼より融点が低いので、比較的簡単に溶かして、鋳型に流し込めるということが可能になります。上の説明用の状態図で見ると、鍛造温度の1300℃程度の温度で溶けて、鋳型に流し込んで整形できるのは、鋳物の優れたところでしょう。

ここで、読みやすいように、もう一度上の状態図を再掲しておきます。

平衡状態図(再掲)

成分%は重量%で表示されます

鉄鋼関連の成分を表す「%」は「重量%」だということを覚えておいてください。 化学でよく出てくる「容量%」ではないことに注意ください。

鉄の比重は約8で、炭素(黒鉛)は約2ですので、意外と大きな量が溶け込んでいることをイメージしておいてもいいですね。

しばしば出てくる「共析鋼」

共析パーライト亜共析鋼

次に、状態図で、炭素量が0.8%付近の一点鎖線の成分の鋼を「共析鋼(きょうせきこう)」といいますが、しばしば出てきますので重要です。

上図は、メタルハンドブックから引用した写真ですが、左が共析鋼を焼なましした約2000倍の電子顕微鏡写真、右が0.45%C鋼の焼なましした約500倍の顕微鏡写真です。

右の写真で、白い部分がフェライト、黒い部分がパーライトと呼ばれます。
共析鋼を、常温で組織観察すると、 全視野がパーライトで、その部分を写真左のように拡大すると、フェライトFeとセメンタイトFe3C(3は小さな3です)の層状組織になっています。

この成分を境にして、炭素量が少なくなると(初析の)上右の写真のように、白く見えている「フェライト」が析出しますし、炭素量共析点がそれより多くなると、(初析の)セメンタイトが 混在して析出してきます。(炭素鋼の焼なましをすると、下の写真のように、結晶粒界に網状に析出します)

「初析の」とは、変態点を通過したとき、共析組織と独立して 別の組織が出てくるという意味です。

右の写真のように、C量が低くなってくると、白く見えるフェライトが析出してくる・・・というように、組織で区別ができます。

しかし、多くの鋼(鋼種)は、 鉄、炭素以外の元素が加えられていますので、それらが複雑に化合することで、 多様な金属組織になりますので、組織を見て区別できるようになるには、経験が必要になるでしょう。

下の写真は、炭素鋼の焼なまし組織の一例です。倍率は適当になっていますが、一般的には400倍程度で観察する場合が多いです。
c量と焼きなまし組織

JIS鋼種でいえば、これらの炭素量による変化としては、炭素が主要な合金成分である機械構造用炭素鋼(S10C~S58C)と、刃物などに使われる SK材とよばれる「炭素工具鋼(SK60からSK140)」を見るといいでしょう。

S10CのC量の中央値は0.1%、SK60は0.6%で、SK85(以前の規格名はSK5)が0.85%の、ほぼ共析成分になっています。

上の写真は、焼なましした組織ですが、左(C=0.03%)は「全フェライト」の組織で、フェライトの結晶粒界が見えている状態、次のC=0.45%は、「フェライトとパーライトの混合」組織で、白い部分がフェライトです。

次のC=0.85%の共析鋼になると、「全パーライト」になっています。一番右側は「パーライトと網状のセメンタイト」 という組織で、炭素との化合物のセメンタイトという組織がパーライトからなる結晶粒界に析出している組織というように説明されます。

亜共析・共析・過共析】 
共析鋼が全パーラート状態、それより炭素量の低い鋼フェライトが析出する鋼を「亜共析鋼」、逆に、炭素量が多くセメンタイトが析出する鋼を「過共析鋼」と呼ぶ場合もあります。

炭素量の多い SK3(同 SK105)などは、焼入れして高硬度材として多用されていますが、これは、焼なまし状態では過共析の状態となっているために、 Fe3C系(3は小さく書く)の非常に硬い炭化物が析出して、 より耐摩耗性が高くなるのだろう・・・・ というイメージにつながっていけば、 この平衡状態図の理解度が高まると思います。
(注意)これは徐冷した「焼なまし組織」で、急冷する「焼入れ組織」とは異なります。


平衡状態図と熱処理温度

焼入れ、焼ならし(焼準)、焼なまし(焼鈍)などの熱処理において、A3変態線(平衡状態図で、炭素量によって900℃から730℃程度になっている線)以上の温度に加熱されるとオーステナイトと呼ばれる組織に変化します。 (注:3は小さく書きます。このHPでは、 個々にはお断りしないで表記していますので、適当に判断しながら添え書きの数字を読んでください)

また、何度も繰り返しますが、この図は平衡状態図ですので、加熱速度や冷却速度は関与しません。あくまでも、熱処理のためにわかりやすくするための説明だということを念頭においてください。私の経験でも、他のTTTやCCTの図表と混乱している人も多いようです。

ここで、熱処理で重要なところは、炭素含有量によって適正な熱処理加熱温度が変わるということです。

例えば、焼入れ温度について言えば、C量が低いほど、 高い温度に加熱することが必要になるのは、状態図からわかります。

  

加熱温度を上げすぎないことは重要

この状態図に熱処理での加熱温度を載せて説明するのも違和感がありますが、熱処理温度の考え方をわかりやすくするためのものと言う程度に考えてください。

図中に 「最高」という表示があります。
最高水焼入れ温度や参考鍛造温度などですが、この温度以上に加熱すると、結晶粒が粗大化して、機械的性質が劣化するという意味です。

JISなどでは、鋼種ごとに標準加熱温度が示されていますので、実際に熱処理をする場合は、それぞれの鋼種について、JISやメーカー資料にある温度や操作標準に従って熱処理するということになります。

標準加熱温度範囲を外れるのは、好ましくありません。 

ここで、反対に、最低加熱温度は?というと、A3線からA1線に続く温度ということですが、このA3/A1 点は、やはり加熱速度によって 上方に移動します。つまり、加熱速度が早いと、状態図で示される温度では「変態しない」ということになり、「加熱熱温度よりも、高くても低くても、充分に焼きが入らないという結果になる」ということを記憶ください。


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これ以外の鉄鋼の状態図は?

近年では、熱処理に関しては、この「鉄―炭素2元系平衡状態図」以外は、あまり見かけなくなりました。昭和年代の終わりぐらいまでは、ステンレス鋼や工具鋼のものも見かけたり、説明をされていましたが、現在は「焼入れ温度と硬さの関係」などから熱処理温度を決める方向になってしまったようです。

今、市中に出回っている鋼は、C,Si,Mn,Cr,Mo,Vなど多くの合金元素が加えられるものも多いですし、不純物としての、P,S,Cuなどの元素も加わっていますので、「多元系」と言えます。

加わる合金元素の量が「少し」であっても、 状態図は全く変わったものになってしまう可能性は十分にあるということです。

鉄と炭素以外の不純物を取り除く困難な作業の末にこの2元系の状態図が作られたのでしょうが、熱処理の基礎を学ぶためのものだけになっていることを見ても、有用性がなくなってしまって、状態図の研究が下火になったと考えていいかもしれません。

以上の事から、熱処理に関しての平衡状態図では、①炭素量による鋼の位置づけ、②熱処理に重要な「オーステナイト化温度」などを理解できればいいと思います。
ここに示したものは、説明用ですので、正式な内容は書籍等で調べてください。

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